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13.甘える冒険者③
しおりを挟む――何もそこまで……
あまりの落ち込みように、ノアは言葉を重ねた。
「はぁ。勘違いしないで。ブラムとするのが嫌というわけではないよ。そもそも嫌だったら一度目もなかっただろうし」
「本当?」
そう告げると、ブラムウェルの顔がぱぁっと輝く。
ついでに暗く陰っていた瞳もきらめきだし、わかりやすい反応に小さく笑う。
「一度関係を持ってそれが嫌だったらこうして一緒にいないと思うけど?」
「俺もノアだから誘っている」
酔っていてもノアとわかっていての誘いだと言われ、ノアは複雑だ。
「んー。まあ、この一週間、夜はずっと一緒だしね」
「信じて。俺はほかの誰かと一緒にいてもノア以外は誘う気はないし、そもそも依頼や討伐以外の休息時間に他人とずっと一緒にいること事態が無理だ」
真剣な表情で訴えられ、わかってと胸に置いていた手が伸び頬を撫でられる。
「そうだとしても、僕との関係はこれ以上複雑にしないほうがいい。ブラムだってリラックスできるほうがいいよね?」
「…………」
ブラムウェルが黙ってしまったので続ける。
「そもそも、ブラムの夜の生活のことに口を出すつもりはないんだ。職業柄、発散させないと落ち着かないこともあるのだろうというのも知っている。ただ、僕は身体を重ねるなら気持ちも重なったほうが好ましいと思っているからこういうのはなし」
相手の行動を否定したいわけではなく、あくまで自分の考えだとはっきり告げておく。
これから一緒に住むのなら、ここの線引きは互いにはっきりさせておくべきだろう。
「ノアの考えはわかった。俺もこれからはそういうのをやめる」
「うーん。その辺はブラム次第だけど、ブラムがそうしたいならそうすればいいんじゃないかな?」
宣言されても困るし、実際のところどうしているかはノアにはきっとわからないので苦笑する。
それにあくまでノア個人の考えであるし、性欲だって人によって違うのでノア自身に関わらなければこちらの考えを強要するつもりはない。
「俺は本気だ」
「僕としては僕の考えを理解してくれるだけでいいよ」
「……わかった。だけど、これまでもこれからも誘うのはノアだけ。ほかとはもうない。これが俺の考えというのもわかって」
「ブラムの考えだね。わかったよ」
軽い気持ちでしないと決めたのであればいいのではないかと頷くと、ブラムウェルはむっと眉間にしわを寄せた。
二人きりになると、本当に感情表現豊かだ。
「絶対わかってないよね。まあ、いい。これから本気をわからせるから」
「はいはい。わかったから」
そんなに必死にならなくとも、ノア自身に関わらないことは好きにしてくれたらいい。
きっとこんなにもノアに執着するのはやはり睡眠のことがあるからだろう。あと、恐れ多くもノアといると落ち着くというので甘えたいのもあるのかもしれない。
そのため、ノアが特別だと必死に告げているに違いない。
――そんなに頑張ってアピールしなくても、一緒に住むと提案した時点で睡眠に関しては協力するのに。
それだけこれまでつらかったのだろうと、ノアはどうぞと両手を上げた。
「今日もくっついて寝るんでしょ? いつまでもそうしてないでくっつこう?」
そう誘うとブラムウェルは顔をしかめた。
それからふっと息をつくと美しい顔が下りてくる。キスをされるのかと目を見張りその動向を見ていると、途中で起動をずらしぽすりと肩に顔が埋められた。
「くそっ。ノアはずるい」
「ずるくないから。競っているつもりはないしね。でも、ちゃんと話を聞いてくれるのは嬉しい」
体力勝負になると圧倒的な差でノアが敗北する。
こうして対等に話せているのは、ブラムウェルがノアのことを尊重してくれているからだ。
それからぐだぐだとノアはわかっていないとか、もっとくっつきたいとか、散々くっつかれながら絡まれる。
「もう、眠って」
最初は言われるたびに相手をしていたのだが、だんだん面倒くさくなってきた。
眠りを促すよう、ブラムウェルの背中をとんとんと一定のリズムで叩いた。
くっつくと落ち着くというから、そこは変らずくっつかせたままだ。
次第に話し方もとろりとゆったりした口調になり、眠たいのだろうなとわかるものになる。
「……ねえ、勝手にいなくならないで。俺はもう二度と大事なものを失いたくない」
その言葉を最後にくったりと体重をかけられた。
やっと本格的に眠りついたようだ。長かった。
「……はぁ。酒を飲むと甘えが増してちょっと大変だということはわかった」
ノアを何と、もしくは誰かと重ねているのかわからないが、ブラムウェルも大事なものを失ったことがあると思うと拒む気も失せる。
それに誰かを重ねているにしても、ノアをノアと認識して必要だと訴えてくるのでつい甘くなってしまう。
「大事なもの、か」
深く眠りに入ったのを確認し、なんとかブラムウェルを上からどかす。
シャワー浴びたかったが散々相手をしたので疲れた。すべて明日にまわしてしまおうと、ノアはそのまま目をつぶった。
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