秘める交線ー放り込まれた青年の日常と非日常ー

Ayari(橋本彩里)

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────1・可視交線────

5開幕

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 時は一時間前に戻る。


 市外にある清欄せいらん学園。
 車で山奥へと駆け抜けると、そこには広大な敷地が目の前に現れる。その地には、初見であれば二度見するほど立派な建物が並ぶ。

 私有地につき厳重な警備のもと許可のない一般人は入ることは許されず、この中で行われていることは決して外部に漏れることはない。
 中世のお城のような建物に最新設備を投資した校舎、南方にはフランス式の広々とした庭園、東方には日本の奥ゆかしい庭園、北には湖までもあり、趣の違ったカフェテリアまである。

 周囲は森に囲まれ、四神しじんにちなんだ名の寮が四棟ある。東に青龍せいりゅう、西に白虎びゃっこ、南に朱雀すざく、北に玄武げんぶ
 その中央に校舎やメインとなる校庭があり、それぞれ寮から校舎に向かうのに20分ほど要する。

 大まかな学園の案内図を見ながら、結城ゆうき蒼依あおいはくわっとあくびを噛み殺した。
 はっきり言って瞼がまだくっつきそうなくらい眠くて、いまだに思考はふわふわとしている。

「眠たい……」

 来るものを阻むかのようなやたらめったら大きな門扉を前に、ひとりごちる。
 自分を乗せてきた車はすっかり見えなくなっていて、ここを通るしか選択肢がないことがひどく悲しい。

 この春から清蘭学園の高等部に入学することになった、らしい。
 自分のことなのに、このていたらく。

 でも、仕方がないだろって早々に諦めモードである。
 全寮制だから前日入りしてねと言われたのは今朝。今朝だよ!! 今朝ですけど何か?

 誰に向かって叫びたいのかわからないものが、胸にしっかり溜まっている。
 蒼依は近くの高校に通うものだと思っていたのに、朝無理やり起こされ担ぎ上げられ道中に簡単な説明を受け、ようやく自分が行く学校と寮暮らしになることを知った事実。

「ありえないよ。聞いてないし」

 文句を言ってはいるが、口調はまったりしたテンポなので怒っているようには聞こえない。
 でも、理不尽さに憤りと虚しさは抱えている。

 入試試験を受けた覚えはないと吠えたら、はんって馬鹿にした顔で、実力試しといわれたテストのことを告げられた。
 勝手なことをして、と怒れない現実。結局、相手に逆らうことができない自分を、相手もわかっているからこれはもう決定事項だ。

 そういうわけで、なんの心構えもなくぽんっと入れられた男子校。
 しかも、そんじょそこらの男子校ではない。御曹司たちが通う、しかも “厳選された” 集団なのだそうだ。何が? と聞けば行けばわかるらしいとのこと。

 そして、ここに来てからソワソワと胸のあたりが落ち着かない。

「なんか嫌な感じがするんだけど」

 こういう勘は結構当たる。だから、嫌だ。
 むむぅっと眉間にしわを寄せれば、伸びっぱなしの髪が視界に入った。それをどけようとして、カツンと手がメガネにあたる。

 ダサって思うようなふちの太い黒縁メガネ。これは好きでしているわけではなく、餞別だと車に降りる前にかけられたものだ。
 それを素直にしているのもしゃくであるが、相手がただ面白いだけでよこすわけもないのでかけているだけ。

 ん? わからなくなってきた。面白がっている可能性もあるが、ここで外すと屈したみたいになるのでそれも嫌だ。
 まあ、前髪が目に入るのを防いでくれるので、切るまではかけておいたらいいだろうくらいの気持ちで結局そのままにしている。

「で、どこに行けばいいのかな?」

 エスカレーター式であるここは中等部から持ち上がり組がほとんどで、外部入学生は数えるほどなのだそうだ。
 下手をすればぼっち確定か、すごく目立つ。それに説明を受ければ受けるほど、胸騒ぎがするのはなんでだろうか。

 まあ、そういうわけでこうしてギリギリになって入寮する自分に、世話を焼いてくれる友人なんているわけもない。

「べつに、いいんだけどさぁ」

 ひとりごちながら、車内でもらった学園地図を見て寮を探す。車中で読んだ学園情報を見てから、もうなんとでもなれと諦めの境地だ。
 財力、権力、知能、才能がある者だけが通うことを許される学園に、どうして庶民の自分が来る羽目になったのかわからないというつもりはない。

「はあぁぁぁ~。絶対、裏があるよね」

 もっと早めに教えて欲しかったと、確認も焦りもしなかった自分を棚に上げてブツブツとここに居ない相手に文句を言う。

「ああー、仕方ないってことはわかるんだけど、何もわからなさすぎてつらい。あと、距離ありすぎない?」

 ひとまず、あの大きな城を目指しておけばたどり着くか、誰か捕まえることができるだろうと門をくぐり、守衛さんのチェックを受けぶらぶらと歩く。

 緊張感が足りないと言われる蒼依は、涼しげな二重に161センチと男にしては低めの身長のせいで、可愛いといわれる見た目に反しておおらかかつ大雑把。
 おおらかはいいけど適当すぎと言われ続けてきたが、根詰めても息苦しくなるだけだし、と改める気もない。
 現にその大雑把のせいで、その容姿の良さが半減している。

「ん~、やっぱり眠い」

 そんでもって、今は眠気で思考が散漫している。くわぁっと出た欠伸によって、目元に薄い幕が張る。
 そよそよと頬を撫でる風が心地よくて、ちらりと横目に見た芝生が気持ちよさそうでいっそこのまま寝てしまおうかと誘惑に駆られた。

 青々とした芝が、こっちにおいでおいでをするように揺れている。

「うん。寝よう」

 寝たらすっきりするし、これから学園の情報や寮のことや、それに関わる人と話すこともあるだろう。その時に、こんな状態では逆に失礼だろう。
 そう自分の中で正当な理由を見つけると、吸い寄せられるように足を運び鞄を置くとパフンとそのまま寝転がった。

「ああ~、空が高い」

 草花、そして木のにおい。空に向かって広げる枝は自由に伸び、葉の隙間から光が柔らかく届く。
 ほどなくして、蒼依はすーすーと寝息を立てた。

 その一時間後、寝てしまったことを後悔することになるのだが、それを知らない蒼依はすやすやと優しく撫でる風に守られるように意識を放り投げた。
 それは冒頭の、この学園での蒼依の立ち位置を決定づける出来事となる。



 結城蒼依、初日から平穏とは懸け離れた学園生活は、ある意味自業自得の開幕となった。



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