ただ、隣にいたいだけ~隣人はどうやら微妙にネジが外れているようです~

Ayari(橋本彩里)

文字の大きさ
136 / 143
7激甘ネジ

抑えきれない想い side翔③

しおりを挟む
 
 千幸と彼は同じホームベース。全く関わり合わないということはない。
 だから、千幸も気にしていた。だから、小野寺もその関係性を事前に知らされた。
 なら、微塵も入る隙がないことを彼氏として、千幸を愛する者として、自分の気持ちを、関係を、今ここではっきりと自分の言葉で告げなければと衝動に駆られる。

「余裕ないんですね」

 ふーんと揶揄するでもなく告げられた言葉に、翔はふっと笑って返した。

「そうですね。過去とかどうでもいいんです。千幸が俺の腕の中にいる今、そしてこれからを大事にしたいので、そのためには見栄とかどうでもいいくらい彼女しか見えないんで。なので、幼馴染み以上の接触は遠慮してくださいね。俺、千幸に対しては嫉妬深いみたいなんで」

 言い切ると、翔は千幸を見た。やってしまったが悔いはない。

「ごめん。やっぱり抑えられなかった」
「……うん。でも」
「それもわかってる。千幸は俺が好き。俺は千幸が好き。わかっていても彼には面と向かって言っておきたかった」
「……もう」
「格好悪い?」

 顔を下に向けてこっちを見ない千幸の顎を掴み、くいっと上げる。

「千幸?」

 言葉もなくいやいやと小さく首を振る千幸。いったい、どうしたんだ?
 やっぱり格好悪すぎたか。嫉妬を表に出して、相手を牽制するなんて。

「千幸、ごめん。どうしても止められなくて」
「…………」
「誰にも渡したくない。千幸の隣は俺のものだから」
「…………」

 こんなことで彼女の自分に対しての評価が簡単に変わるとは思わないが、マイナス印象は好ましくない。
 やってしまったかと、戸惑うようにもう一方の手を頬に添えて顔を固定させようとしたら、横で笑う声。

「……ぶふっ。小野寺さん。そろそろやめてあげてください。すっごく照れてますよ?」

 あはははっと軽快な笑い声とともに多田にそう言われ、翔は覗き込むようにじっと千幸を見つめる。
 すっと横に視線を逸らされ密かにショックを受けたが、よくよく見るとさっきは気づかなかったが顔が赤くなっているのがわかった。

「千幸? えっ、本当に?」
「本当にって、小野寺さん自分で何を言っていたか自覚ないんですか?」

 問いかけると、多田がこれは驚いたとばかりに聞き返してきた。

「自覚? 情けないところ見せたとは思うけど。あとは、普通に気持ちを告げただけだし」

 眉根を寄せて告げると、千幸はやはり微妙に視線を逸らすし、多田は笑いで涙をにじませた瞳で翔を見た。

「すみません。少し、本当に少し、彼女のことを気になってはいたので小野寺さんに対して軽く挑発するような感じになってしまいました」
「そうなんですか?」

 それならまんまと自分は乗せられたことになる。
 面白くないとの気持ちが伝わったのか、多田は続ける。

「でも、小野寺さんが千幸のことをすごく好きだというのはわかりましたし、この様子では千幸もですよね」
「もう、本当勘弁してほしい……」

 そこでようやく千幸が声を発した。
 カァァァッと顔を赤くさせてちらりと睨んでくるが、うるうるとした瞳でされれば逆効果だ。

「ほら、すごく照れてるでしょ? 俺が知っている彼女は大抵のことは平然としてるんです。こういうことも人前ではしないし見せない人だったんですけど、小野寺さんだから許してるんですね。俺が入る隙がないのはわかったんで、それくらいで勘弁してやってください」

 多田は苦笑しながらも、さっきよりは好意的な視線を翔に向けてくる。
 彼なりの複雑な心中と気遣いを感じられ、言葉通りでいいのだと受け取ることにした。

「わかりました。先ほどは失礼しました」
「いえ。むしろ、いろいろ知れて嬉しかったので気にしないでください」

 好意の中身の違いはあれど、千幸を大事に思う者としての言葉。それがわかり翔は頷いた。
 続いて、千幸の頬を両手で包み込み覗き込む。

「千幸」
「……本当、加減してって言ったのに」
「してる」
「これで?」
「ああ。だが、困らせたことは悪かった。だから、この続きは後で」

 最後は千幸に聞こえるくらいの声でささやき手を離すと、千幸もしぶしぶ頷いた。
 翔の角度からは、ゆっくりと瞳を閉じたその長い睫毛が揺れるのがはっきりと見える。

 落ち着こうと小さく深呼吸を繰り返すたびに、薄く開く唇が美味しそうだ。
 一瞬、一瞬で視線を奪われ、心を奪われる。

 気持ちを切り替えすぐにいつものように落ち着いた千幸は、ちらっと上目遣いで翔を見た。
 また睨まれるのだろうかと構えていると、照れたようににこっと笑う。

「翔さんのそれは、慣れないけど慣れましたから」

 思い通りにばかりにいかせないからねっ、と挑戦的な瞳が翔だけを映す。

「……っ」

 ──本当、後で覚えてろ!!

 その反応、可愛すぎるだろ。絶対、二人っきりになったらとろとろに甘やかす。
 翔は固く固く決意した。

 加減しようにも、煽ってくるのは千幸のほうだ。
 毎度、毎度、予想外のところで向けられる笑顔に翔はいつも抱きしめたくなる。
 蔑まれた眼差しが始めだからか、笑顔を向けられるたびに恋に落ちていると言っても過言ではない。

 千幸は無自覚に翔の衝動を刺激する。
 今すぐにでも抱きしめて、今目の前にある唇に口づけをしたいところだが、彼女の両親もいるしこれ以上の失態は避けなければならない。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...