魔王様は切実に隠居したい

塩おむすび

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第2章 隠居に成功(?)した魔王様

魔王様は元勇者を信頼している

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 その後宿に帰ったノアは、本来数人で分担する召喚魔術を無理やり1人で読み取ったせいで脳に過剰な負荷がかかったのか、ルークの目の前で倒れてしまい、そのまま意識を失ってしまった。

 目の前でそれを見たルークは、自分の予定をすぐさま調整してノアを介抱することにした。ノアが目覚めたのはそれから3日経った後だった。





 ・・・・・・・・・・





「それで、俺は今この状態だと…」

「そうですね」

「俺、お前に迷惑かけてばっかりだな…本当にごめん…」

「どうしてあなたが謝ることがあるんです?今回はノア様が自ら危険を犯したわけでもありませんし、何か予兆があったわけでもありませんから。謝る必要はございません」

「いや、本当に情けないんだ…。お前は俺を守ってくれているのに、俺はお前を守れていないのが、本当に…情けない」

「何を仰いますか。あなたは王であり、本来守られるべき存在です。魔王という存在が、どれほど魔族に希望をもたらしているとお思いですか?少なくとも今まで百年以上人間に侵略されず、魔族が迫害されない生活を送れたのはあなたがいるからですよ、ノア様。ですからあなたのお仕事は僕に大人しく守られることです。と言ってもお転婆なあなたではきっと大人しく、なんて出来ないでしょうけれど」

「だ、誰がお転婆だ!」


 図星が故にノアはあまり強く言い返すことができなかった。悔しそうに頬を膨らませて黙り込むノアに、ルークがおかしそうに笑った。


「さて、本日はどういたしますか?出立の準備は出来ておりますが、お身体は大丈夫ですか?」

「一応こっちで知りたいことは全部集めたし、一度城に帰ろうかと思ってる。後は向こうで確認したいことがあるからな」

「承知いたしました。方法はどういった形で?」

「この国を出てすぐに深い森がある。道は通ってはいるが、危険な魔獣が多く出るとかで、人間はほとんど立ち入らない場所らしい。だからそこに行って転移の魔術を使う。万が一誰かに見られると危険だからな。可能性はなるべく低くしておいた方がいいだろう」


 城へ帰るならとルークは最後まで付き添うと言い、二人は宿を後にした。


「通行止め…?どうしてだ?」


 しかし目的地である森がある道の方へ行くと、門番から通行止めの旨を聞かされてしまった。


「知らないのかい?まぁ旅の人だったら仕方ないか。今日は勇者様と聖女様の結婚のパレードがあるんだよ。だから今日はそのパレードが終わるまでは全ての門が通行止めなんだ」

「そう、なのか…」

「パレードが終わったら通行できるようになるから、またその時に来てくれよ」


 仕方なく2人は一旦諦めて、中心にある広場に向かうことにした。早く出国することばかりを考えて周りを見ていなかったが、改めて辺りを見回してみると、パレードの通り道になるのであろう大通りは様々な飾り付けがされており、そこかしこで忙しそうに人々が行き交っている。
 途中シスター服の女性から「勇者様と聖女様に皆様の祝福をお投げください」と一輪の花を渡される。


「祝福、ですか…。僕としては今すぐこれを燃やしたい気分ですね」

「まぁまぁ一生に一度の催しみたいなものだろ?今くらい幸せに浸らせてやったらどうだ?どうせ俺は負ける気なんてさらさらないからな」


 そうこうしている間にパレードが始まったのか、ワァッと歓声が上がり遠くの方から一台の豪華な馬車がゆっくりと移動してきた。
 馬車に乗っているのはやはり勇者と聖女で、にこやかに沿道に並ぶ人々に向けて手を振っていた。

 ふとルークが隣を見ると、ノアの表情がうっすらと固くなっていた。口ではああ言っていたものの、きっと思うところがあるのだろう。


「ノア様、大丈夫ですか?」

「…あ、あぁ…うん、大丈夫だ。心配させたな」


 何度か深呼吸をした後、ノアはルークの手をぎゅっと握った。パレードの通り道に並ぶ人は多く、きっと誰も気づいていないだろうが、ノアがこういったことをするとは思っていなかったルークが驚いてノアの方に顔を向けると、ノアはイタズラが成功した子供のようにニヤリと笑った。


「俺にはお前がいるからな!」


 その信頼がルークにとっては何よりも尊くて、何よりも嬉しかった。


「ええ、そうですね。僕があなたの側を離れることなどありえませんから」


 勇者と聖女の結婚を祝福する声がこだまし、少しでも馬車に近づこうと人々は身を乗り出す。
 その後ろで2人は隠れてキスを交わした。それに気づく者は誰もいなかった。
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