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旧友、その心は
しおりを挟む今日は少しだけ気分がいい。
なんせ旧友が訪ねてきているのだから。
同じ街に住んではいるものの自分の仕事の都合上、あまり公に動けないのだ。
「入るぞ」
普段の仕事は責任があまりにも大きすぎる。
だが誰かがやらねばならぬ仕事であるが数十年も続けていれば必然と最適解が見えるものだ。
特に今回のようにとある事象に関しては私以外に対応はできまい。
「久しぶりだな。清、幸」
応接室に座るこの老夫婦は古くからの知り合いであり、かつては同じ目標を志に戦ったもの同士だ。
そして何より、清は衰えてはいるもののその実力の高さは肌が直感的に感じる。
「久しいな、源よ。仕事はどうぢゃ」
「やっぱり市長って言うのはいつになっても責任が重い。もう少し静かに魔獣を対処してもらえればかなり助かるがな」
「ふん、ワシぢゃない。うちのへっぽこの孫ぢゃ」
「厳しい事を言うな。あの子は10年間ハーモラルに行けてないのだから腕が足りないのは必然だろう」
「そんなヤワな鍛え方をしたつもりはないんぢゃがのう」
「鍛錬と実践は似ているようで違う。それがわからない清ではないだろ?それに、わざわざ公職の時間中に訪ねてくるとは…何が起こった?」
友人として会うのであれば仕事を終えた夜に訪ねるものだ。
しかし、わざわざこの15時という市長である時間に訪ねてきたという事は権力を持っている状態で会いたいという事だろう。
「察しが良くて助かる…鋼の籠車を使った」
「幸…それは本当か?」
「嘘ついてどうする」
鋼の籠車、それはまだハーモラルと地球を自由に行き来できる若い頃に清と向こうの健三氏が制作した二つの世界を結ぶ非常用交通手段。
「ハーモラルに向かうのは凛斗くんか?」
「そうぢゃ」
「事後報告とはな。前持っての相談をして欲しかったものだ」
「おまえどうせ拒否るぢゃろ」
「当然だ。高校生一人で向かわせる事じゃない」
「だが、魔獣が地球に現れる間隔は日に日に狭まっておる。一刻も早い対処をせねば分からんぞ」
「それに鋼の籠車には48時間の期限を定めてある。強制的に連れ戻す事で安否確認も可能、と言うわけぢゃ」
おおよそ、ずっとハーモラルを旅したいと言う凛斗くんには高校は卒業しろとでも伝えてあるのだろう。
そうでなければ48時間などと休日のみを対象に絞るようなやり方はしない。
「本題ぢゃ。とある一人の女子を凛斗の高校に入れてほしい」
「勘弁してくれ。その口振りだとハーモラルの女の子か?日本国籍もない子を一般の高校に突如編入させるなどコンプライアンスに反するどころじゃない」
「ハーモラルに住んでいるからこそ分かることもある。実際、先の廃工場ではあの子の知識がなければ現れた向こうの人間の情報を得ることができなかったからの」
「出来んか?中切市長殿でも…いや、この場は“東雲”源…と呼んだ方がいいぢゃろか」
婿養子に入ったのでその名字とはもう縁が切れたと思っていたが…どうやら神は逃げる事を許してはくれないらしい。
「…はぁ。これは本当に偶然なんだが…来週からうちの孫娘も凛斗くんの同じ高校に転入する予定なんだ。こっちに引っ越してくるからね」
「ぢゃ、それに合わせて。よろしく~」
「…善処はする」
「そしてこれはもしかするとぢゃが…」
席を立ち言うことだけ言って帰ろうとしている清は意味深に呟く。
「ゲートが復旧次第、ワシも向こうへ行くかもしれん」
「…その真意は?」
「なぁに、息子夫婦の仇ぢゃて。凛斗が言うには慰霊碑に名は無かったと言うが…雷獄の雨と遭遇して無事な可能性が少ないからのう」
「無謀だ、ボルトアン・ヘアッドに挑むというのか。確かにレンジド・オーブナーと正面から殴り合い鎮火の清と呼ばれた全盛期の清ならともかく、今の老いぼれた清が勝てるとは思えん」
「はて…知らんことぢゃな。婆さん帰るぞい」
「はいよ。すまんなヒデくんや」
本当に言いたいことだけ言って帰っていった日向老夫婦の背を見送った。
「無茶を押し付けるだけか…まったく…」
そう呟く男の口角は確かにつり上がっていた。
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