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新入り、異世界に立つ
しおりを挟むここはシンヘルキの外れにある草原。
比較的穏やかで出没する魔獣も太陽が出ているこの時間帯はほぼいない。
そんな平和な草原を一台の車輪がついた鋼の箱が爆走している。
「あばばばばばば!!」
「きゃぁぁ!」
「あっははぁぁぁ!!」
そして急ブレーキ。
勢いで頭を前の椅子にぶつけてしまった。
いつかこれで死ぬんじゃないかと酷く心配になる。
「まーじでどうにかなんないかこれ…」
「頭痛い…」
「あはっ!あははっ!すんごい楽しかったよ!」
相変わらず酷い乗り物酔いで動けなくなるリントとスノウだが新参のアヤネだけはむしろアトラクションとして認識したのか道中でもずっと楽しそうにはしゃいでいた。
手すりを掴みながらなんとか下車すると鋼の籠車は遠くへ走り去っていった。
我先にと歩き出したアヤネが自分の身体のちょっとした違和感に気付く。
「ここがハーモラル…なんか身体軽い!」
それを追うようにリント達はアレタが設置してくれたであろうバス停の模型を回収してから歩く。
「大気中のマナ濃度が違うもの。逆に私が地球にいる時は身体が重くなるわ」
「マナノード?」
「そこからか…そりゃそっか」
「じゃあ教えて上げる、マナは世界に満ちる生命力のこと。マナが濃ければ濃いほど人体に明確なプラスの効果が現れるの。身体が軽くなったり怪我の治りが早くなったり」
「なるほど!だから身体がこんなに軽やかなんだ!」
「魔法にも大きく関係してくるわ。魔法を使うには体に流れる魔力を消費して発動、大気中のマナがそれに呼応して力となるの。見てて」
スノウはアヤネの前を歩きつつ、右掌を仰向けにすると冷気が発生する。
「今のこの段階が発動。ここで力を入れると…」
白く小さな光が掌で一瞬輝くと掌に収まる大きさの氷が現れた。
「すっごーい!スノウちゃんすごいすっごーい!」
「ま、まぁ?この程度ならぁ?無詠唱、無挙動で出せるから私」
「私も使えるかな?」
氷を触りまくっていたアヤネは純真と尊敬の目でスノウを見て聞いた。
「それはどうかしら」
「魔法の才能がないって事!?」
オノマトペが付くとしたらガーンという顔をした。
憧れの魔法を使えないかもしれないという事実がかなり重く刺さったのだろう。
「そういうことじゃないわ。魔法には3種類あるの」
「3種類も?」
「まずは人間が必ず一つは持っている属性魔法ね。炎とか水とか氷みたいな属性が必ずあるの。私は氷でリントは炎と氷」
「え!?凜斗くん2つもあるの!?」
「俺の場合は遺伝。炎の親父と氷の母さんから受け継いだ二重属性らしい」
「リントは例外。普通は一つで遺伝や経験で扱える属性が増える人もいるわ。もう一つは汎用魔法ね」
「ハンヨー?」
「アヤネ…あなた実はバカ?」
「実はそんなに勉強は…」
何故かアヤネはてへっと明るい顔をした。
「汎用魔法は相性はあれど一般的には誰でも習得できる魔法よ。私はウアプっていう物を浮かせる魔法と怪我の治りを促進させる回復魔法のエヘルをよく使うかしら」
「俺はヒアサっていう足を強化する魔法使えるぜ。でも治療系とは相性悪くて一向に使えねえんだ」
「汎用魔法は魔法学校や親から教えてもらったりするのが一般的ね。今度、教えて上げる」
「いいの!?」
「当然よ。あなたには強くなってもらわないと」
「ありがとー!スノウちゃん大好き!!」
喜びのあまりアヤネはスノウに抱きつき頬をすり合わせる。
「み、3つ目は創案魔法…離れなさい!」
「わ!」
「こほん!創案魔法は一族で受け継いだり、個人で完成させた魔法、あとは武器とか道具に宿っている魔法のことを指すわ。私はまだ使えないけどね」
「俺の着火は創案魔法だぜ。そういえばレカルネラのあの楽器も創案魔法だったのか」
「なんであんたが分かってないのよ」
「じゃあじゃあ!私がまず取得できる魔法は何かな!?」
「基本は属性魔法か汎用魔法のどちらかよ。まあこれは赤ちゃんがパパかママどっちを先に呼ぶ?みたいなものだから」
あ、そんな軽い分岐なんだ
「俺は汎用だったなぁ。ヒアサが急に発動しておむつ変えようとした親父の顔蹴ったらしいぜ。完全に制御できるまで時間かかったなぁ」
「私は属性ね。離乳食凍らせちゃって大変だったってお祖母様が言ってたわ」
なるほど
これが魔法あるあるトークなのか…
「とりあえず紹介場行くか」
「紹介場?」
「ざっくりいうと冒険者、依頼、ギルド。ここまで言えば_」
「行く!!!」
「反応速すぎだろ」
アヤネの冒険者登録を行うべくシンヘルキにある紹介場に入った。
ここに入るまでの道中でも興奮したアヤネが走り出したり前回よりは多くなった街行く人に話しかけたりとそれを抑えたりするだけでもかなり疲れる。
「ご利用ありがとうございます。どのようなご用件でしょうか?」
「冒険者登録お願いします!!!」
「落ち着け落ち着け。お姉さん耳壊れちゃう」
「ぼ、冒険者登録…ですね。ではこちらの識別水晶にお手をかざして下さい」
紹介場の受付嬢は足元からサッカーボール程度の大きさの丸い透明な水晶を取り出しアヤネの前に置いた。
心を躍らせながらそれに触れる。
「では魔力を流し込みながらお名前をお教えください」
「流し込む…?」
「ちょっと手のひらに力入れてみ」
リントの指示通り水晶に触れている右掌を少し力ませると優しく光った。
「中切綾音です!」
「こっちの世界だとアヤネ・ナカギリな」
「アヤネ・ナカギリです!」
訂正速ぇ~
「はい。それではお手をお離しください」
掌を識別水晶から離すと何もない空間に触らない画像が映し出される。
「アヤネ・ナカギリ様で登録致します。ご新規の冒険者様には研修を兼ねて横の訓練場で簡単な試験を受けて頂きます。大体2時間ほどで終わりますが…お時間はよろしいでしょうか?」
「はい!」
「承知致しました。それでは着いてきてください」
「はーい!」
「じゃ、俺とスノウはちょっと出かけてくるわ。また2時間後に戻ってくるから終わったらその辺座っててくれ」
「はいはーい!」
何言っても上機嫌な返事しかしないので本当に話を聞いてるか不安になる。
しかしこちらにも用事はあるので一応高校生であるアヤネの人間性を信じて紹介場を後にした。
ではどこへ行くのか?
それはもちろん、レカルネラが収容されているであろう治安維持に。
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