ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

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第3章:勇者のパパ疑惑!?伝説の師匠と魔の育児研修

第17話:拾得物は「戦略兵器」クラスの新人

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 「デート」の定義について、俺は勇者アレクセイと一度膝を突き合わせて議論する必要があると思う。

 一般的に、恋人同士のデートといえば、街での買い物や、景色の良いカフェでのランチ、あるいは劇場での観劇などを指すはずだ。
 少なくとも、未踏破のSランクダンジョンの最深部で、返り血(魔物の)を浴びながら宝箱を漁ることではないはずだ。

「……アレクセイ様。これが『息抜き』ですか?」
「ああ。久々に手応えのある敵だったな。良い運動になった」

 薄暗い鍾乳洞の中で、アレクセイは爽やかな笑顔で剣の血糊を拭っていた。
 足元には、巨大な『キラー・クラーケン(陸生種)』の残骸が転がっている。

 レオニード殿下の一件以来、アレクセイの過保護はさらに加速した。
 「お前を一人にするのは危険だ」という理由で、彼の公務(討伐任務)には必ず俺が同行させられている。
 俺としては「勇者の右腕」として働けるのは本望だが、休日までダンジョンデートというのは、いささかワークライフバランスが崩壊している気がしなくもない。

「ほら見ろ、ノワール。あそこに祭壇がある」

 アレクセイが指差した先。
 ダンジョンの最奥部、神秘的な地底湖の中央に、ポツンと小さな祭壇があった。
 そしてその上に、何かが鎮座している。

「……卵、ですね」

 俺たちは祭壇に近づいた。
 それは、人間の頭ほどの大きさがある卵だった。
 表面は真珠のように白く滑らかだが、角度を変えると虹色に光を反射する。
 耳を澄ますと、ドクン、ドクンという力強い鼓動のような音が聞こえてくるようだ。

「鑑定しても詳細が出ないな。『竜種の卵』ということしかわからん」

 アレクセイが珍しく首をかしげる。
 最強勇者の鑑定スキルですら詳細不明。つまり、かなりのレアアイテムだ。

「どうします? ギルドに持ち帰って解析してもらいますか?」
「いや、他人の手に渡すのは危険だ。……それに」

 アレクセイは卵をそっと持ち上げると、俺の方へ差し出した。

「お前が持ってみろ」
「え、俺ですか? 落として割ったら弁償できませんよ?」
「いいから」

 促されて、俺はおそるおそるその卵を受け取った。
 ずしり、と重い。
 だが、その瞬間のことだ。

 ――トクンッ。

 卵の中から、明確な「反応」があった。
 掌を通して、温かい熱が流れ込んでくる。まるで、卵の中の生命が俺に挨拶をしているような感覚。

「……あ」

 不思議と、嫌な感じはしなかった。
 むしろ、懐かしいような、守ってあげたくなるような愛おしさが込み上げてくる。
 俺の中の魔力が、無意識に卵へと流れ込み、共鳴しているのが分かった。

「気に入ったか?」

 アレクセイが優しい目で見ている。

「……そうですね。なんか、可愛いです」
「なら、持ち帰ろう。俺たちの家へ」

 アレクセイは俺の肩を抱き寄せ、満足げに笑った。

「お土産だ。二人でオムレツにするもよし、育ててみるもよしだ」
「オムレツはやめましょうよ! 情操教育に悪い!」

 こうして俺たちは、その「正体不明の卵」を屋敷に持ち帰ることになった。
 それが、俺の平穏な生活(ブラックだけど安定した日々)を崩壊させる、『戦略兵器』クラスの新人だとも知らずに。


 ◇◇◇

 屋敷のリビング。
 俺たちは暖炉の前にクッションを敷き、その上に卵を安置した。
 アレクセイの指示で、部屋の温度は高めに設定されている。

「いつ生まれるんでしょうね」
「竜種なら数ヶ月、あるいは数百年かかることもある。気長に待つさ」

 アレクセイはソファでくつろぎながら、ワイングラスを傾けている。
 俺は卵の横に座り込み、その虹色の殻を撫でていた。

 トクン、トクン。

 鼓動が速くなっている気がする。
 俺が撫でるたびに、中の魔力が嬉しそうに揺らぐのだ。

(やっぱり、この卵……俺の魔力を吸ってる?)

 俺は元々「ダーク・ラビット」という魔物だ。
 今は人化しているとはいえ、本質は魔物。
 もしかしたら、同族(魔物)の気配に安心して、成長を早めているのかもしれない。

「よしよし、いい子だ。早く出ておいで。ここは安全なホワイトな職場(家)だよ」

 俺が語りかけると、パキッ、と乾いた音がした。

「……え?」

 見ると、卵の表面に亀裂が入っている。
 アレクセイがグラスを置いて身を乗り出す。

「もう孵るのか? 早いな」
「ちょ、心の準備が! お湯とかタオルとかいりますか!?」
「落ち着けノワール。出産するのはお前じゃない」

 パキパキパキッ!

 亀裂が一気に広がる。
 眩い光が溢れ出し、リビング全体を白く染め上げた。

 光が収束した後。
 割れた殻の中に、ちょこんと座っている「それ」がいた。

 真っ白な鱗。
 背中には未発達な小さな翼。
 そして、宝石のように輝く虹色の瞳。
 全長は50センチほどだろうか。トカゲというよりは、ぬいぐるみに近い愛らしさだ。

 伝説の幻獣、『エンシェント・ドラゴン(白)』の幼体だった。

「キュゥ……」

 幼竜はまばたきをして、キョロキョロと周囲を見回した。
 そして、目の前にいる俺と目が合った瞬間。
 パァァッ! と表情(?)を輝かせた。

「マッマ!!」

 ……はい?

 今、なんて言った?
 ドラゴンの鳴き声って「ギャオ」とかじゃないの?
 まさかの人語? しかもママ?

「マッマ~~~!」

 幼竜は殻を飛び出し、テチテチと不器用な足取りで俺に駆け寄ってきた。
 そして俺の膝によじ登り、胸元に顔をうずめてスリスリし始めた。

「あったかい! いいにおい! マッマすき!」

 流暢だ。すごく流暢に甘えてくる。
 これは……刷り込み(インプリンティング)か!
 最初に見た魔力波長の合う相手を、親だと認識したんだ。

「お、俺は男だぞ……ママじゃない……」

 戸惑いつつも、俺の手は自然と白い背中を撫でていた。
 柔らかい。温かい。
 そして、とてつもなく可愛い。
 庇護欲が刺激される。これはダメだ、抗えない。

「……ノワール」

 背後から、不満げな低い声がした。
 アレクセイだ。
 彼は面白くなさそうに腕を組み、俺の膝を占領している「新入り」を見下ろしている。

「俺の場所だぞ、そこは」

 大人気ない。生まれたばかりの赤子に嫉妬してどうする。

「アレクセイ様も挨拶してください。ほら、パパですよー」

 俺が幼竜の体を持ち上げ、アレクセイの方に向けた。
 幼竜は虹色の瞳で、目の前の巨大な男(勇者)を見上げた。

「……パパ?」

 幼竜が首をかしげる。
 アレクセイの無愛想な顔と、溢れ出る強者のオーラ。
 幼竜は数秒間彼を凝視し、そして判断を下した。

「パパ……こわい! てき! たおす!」

 幼竜は俺の腕の中に隠れ、アレクセイに向かって「シャーッ!」と威嚇した。
 アレクセイの額に青筋が浮かぶ。

「……ほう。生まれたてで俺に喧嘩を売るとは。いい度胸だ、教育的指導が必要だな」
「待って! 相手は0歳児! 勇者が本気にならないで!」

 俺は慌てて間に入った。
 前途多難だ。
 どうやらこの新入社員(ドラゴン)、上司(勇者)との折り合いが悪そうである。
 中間管理職の俺の胃が痛くなる未来が見える。

「まあまあ、落ち着いて。……ん? 鼻がムズムズするのか?」

 俺の腕の中で、幼竜が鼻をヒクヒクさせていた。
 生まれたばかりで、外の空気に刺激されたのだろうか。
 小さく息を吸い込んでいる。

「くしゅんっ!」

 可愛いくしゃみだった。
 音だけなら。

 だが、その口から放たれたのは、唾ではなかった。
 
 ズドンッ!!!!!

 真っ白な閃光。
 それは紛れもない、ドラゴンの『ブレス』だった。
 しかも、エンシェント・ドラゴン特有の『聖なる雷(ホーリー・ライトニング)』。

 至近距離で直撃を受けた俺の体は、布切れのように吹き飛んだ。

「が、はぁッ……!?」

 リビングの壁に激突し、ずり落ちる。
 全身が痺れて動かない。
 服が焦げている。髪が爆発している。
 HPバーが、一撃でレッドゾーン(瀕死)まで削れていた。

「ノワールッ!!」

 アレクセイが血相を変えて駆け寄ってくる。
 彼はすぐに治癒魔法をかけながら、俺を抱き起こした。

「しっかりしろ! おい、意識はあるか!?」
「……あ、アレクセイ様……」

 俺は震える手でサムズアップした。

「……ろう、さい……申請……」
「馬鹿なことを言っている場合か!」

 アレクセイは俺を回復させると、キッと幼竜を睨みつけた。
 幼竜は「?」という顔で、自分のしたことが分かっていない様子だ。

「……くしゅん?」
「また撃つ気か! やめろ!」

 アレクセイが慌てて結界を張る。
 俺はガクガクと震えながら、重大な事実に気づいていた。

 そう。
 俺は『魔法防御力』がFランク以下の、紙装甲なのだ。
 物理攻撃ならある程度避けられるが、広範囲のブレスや魔法攻撃は、かすっただけで致命傷になる。

 そして目の前にいるのは、魔力の塊であるドラゴンの子供。
 くしゃみ一つが戦略級魔法。
 つまり、俺にとってこの子の育児は――。

(……地雷撤去作業くらい危険じゃねーか!!)

 「マッマ~? ねんね?」

 幼竜が無邪気に俺に近づいてくる。
 その小さな体には、俺を百回殺せるだけの魔力が詰まっている。

「ひぃッ! こ、来ないで! いや、おいで! でもブレスは禁止! 絶対禁止!」

 俺は腰が引けながらも、母性(父性?)と生存本能の板挟みになっていた。

「アレクセイ様……この子、とんでもない新入りですよ……」
「ああ。だが、拾った以上は責任を持たねばならん」

 アレクセイは呆れたように溜息をつき、それでも俺と幼竜をまとめて抱き寄せた。
 もちろん、防御結界を何重にも展開した上で。

「名前がいるな。……白いから、『ブラン』か『リュウ』か」
「『リュウ』にしましょう。強そうで、でも可愛げがあって」
「……リュウか。悪くない」

 リュウ。
 虹色の瞳を持つ、最強種族の赤ん坊。
 俺を「ママ」と慕い、勇者を「敵」とみなす、トラブルメーカー。

 こうして、俺たちの屋敷に新しい家族が増えた。
 それは同時に、俺の魔法防御力ゼロという弱点が、日々の生活(育児)において常に死と隣り合わせになるという、過酷なデスマーチの始まりでもあった。

 平和な新婚生活?
 そんなものは幻想だ。
 ここから始まるのは、勇者のパパ修行と、社畜ウサギの決死の育児戦線である。
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