【完結済】ざまぁされて廃嫡されたバカ王子とは俺のことです。

キノア9g

文字の大きさ
2 / 8

第2話:旧友との再会

しおりを挟む


 隣国の街に到着して数日が経った。
 これまで王族としてぬくぬくと生きてきた俺にとって、この街の雑踏やざわめきはどこか現実感が薄い。
 だが、今や俺はただの平民だ。
 この世界で生きるには、自分で働き、生きていく力を手に入れなければならない。

 冒険者ギルドの扉を押し開けたとき、体のどこかが震えているのが分かった。
 壁際にびっしりと並ぶ依頼書。忙しそうに行き交う冒険者たち。その光景に、ただ圧倒される。

「本日は依頼受注ですか?」

 受付嬢の明るい声に促され、なんとか頷く。
 だが、問題はこれからだ。
 まだ初心者の俺にできる仕事なんて、限られている。

「初心者向けの依頼なら、こちらですね」

 受付嬢が示した依頼書に書かれていたのは、「街路の清掃」。
 正直、俺のプライドがちくりと痛む。かつては王族として何もせずとも快適な暮らしが保証されていたのに、今や掃除をして金を得る立場になったのだから。

 だが——今の俺に選択肢などない。
 小さく息を吐き、依頼を受け取った。

 翌朝、指定された場所で箒を握り、黙々と地面を掃く。
 王宮にいた頃なら、こんな仕事は侍女か使用人がするものだった。

 ……いや、そもそも「掃除」という行為自体、俺の人生には縁がなかった。

 だが今は違う。

「……これも、生きるためだ」

 自分に言い聞かせながら、手を動かす。

 額に汗を滲ませながら作業を終え、ギルドへ戻ると、受付嬢が銀貨を一枚手渡してくれた。

「お疲れ様でした! 依頼主の方が『きれいになって嬉しい』とおっしゃってましたよ」

 たった銀貨一枚。
 それでも、これが俺が自分の力で得た初めての報酬だと思うと、少しだけ誇らしい気持ちになった。

 ギルドを出て、宿へ戻ろうとしたとき——

「——カイル?」

 不意に聞き覚えのある声が耳に届いた。

 振り返ると、そこに立っていたのはレオナード=フィオナーレ。

「……レオ?」

 思わず名前を口にすると、彼は穏やかな笑みを浮かべた。

「やっぱり君だったか」

「……なんでレオがここに?」

 俺が警戒するように問うと、レオナードは苦笑しながら肩をすくめた。

「君がフィオナーレにいると聞いてね。様子を見に来たんだ」

「……わざわざ俺のために?」

「当然だろう?」

 さらりと言う彼に、言葉を失う。
 レオナードは昔から冷静で理知的な男だったが、一度決めたことは最後まで貫く芯の強さを持っている。
 ……俺がどれだけ落ちぶれようと、彼の中で俺の価値が変わることはないというのか?

「俺はもう王族じゃない。ただの落ちぶれた男だぞ」

「それがどうした?」

 レオナードは即答した。

「君がどんな立場になろうと、僕にとっては君は君だ」

 静かな声に、胸がざわつく。
 王族の地位も、財産も、名誉もすべて失った俺に——彼は変わらぬまなざしを向けてくる。

「……俺が、どんな状況になっても、気にしないと?」

「気にはする。心配していたし、こうして会いにも来た」

「……お前、暇なのか?」

「暇ならこんなところまで来たりしないよ」

 レオナードは小さく笑い、それから真剣な顔になる。

「君があまりに突然いなくなったからね。手紙の一通もなく消えたと聞いて、さすがに放っておけなかった」

 レオナードは静かに言ったが、その口調の裏にわずかな怒気を感じた。
 俺が何も伝えずに王都を去ったことを、彼なりに気にしていたのだろう。

「……俺のことは気にしないでくれ。自分の力でやっていくって決めたんだ」

 そう言うと、レオナードの瞳が一瞬曇るのが分かった。でも彼はすぐにいつもの柔らかい表情に戻り、ただ静かに頷いた。

「分かった。でも、困ったときはいつでも頼ってほしい」

「そう簡単に頼るわけにはいかない。俺はもう、お前と対等な立場じゃないんだ」

「……君は昔から変わらないな」

 レオナードは小さく笑った。

「変わらない?」

「何でも一人で背負い込もうとするところが、だよ」

 その言葉に、思わず目をそらした。
 レオナードは俺の性格をよく分かっている。
 だからこそ、今こうして俺の前に現れ、心配そうにしているのだろう。

「でも、君がどんな状況になっても、僕は君を友人だと思っているよ」

 その一言に、胸の奥が強く揺さぶられる。
 だが、今の俺にそれを受け入れる資格がない。

「……ありがとう」

 短くそう告げて、俺は彼に背を向けた。

 宿に戻る途中、手の中の銀貨を握りしめる。

「これで今日の夕飯はパン一個か」

 自嘲気味につぶやきながらも、どこか達成感があった。
 自分の力で稼いだ銀貨。それは、俺にとって新しい人生の第一歩だった。

 ふと、また視線を感じた気がした。振り返っても誰もいない。
 それでも、どこかでレオナードが俺を見守っている気がしてならなかった。

(……俺は大丈夫)

 空を見上げ、小さくそう呟いた夜だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。

春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。 チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。 
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。 ……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ? 
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――? 見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。 同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした

水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」 公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。 婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。 しかし、それは新たな人生の始まりだった。 前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。 そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。 共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。 だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。 彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。 一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。 これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!

絶対に追放されたいオレと絶対に追放したくない男の攻防

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO
BL
世は、追放ブームである。 追放の波がついに我がパーティーにもやって来た。 きっと追放されるのはオレだろう。 ついにパーティーのリーダーであるゼルドに呼び出された。 仲が良かったわけじゃないが、悪くないパーティーだった。残念だ……。 って、アレ? なんか雲行きが怪しいんですけど……? 短編BLラブコメ。

処理中です...