【8話完結】主人公転生キターー!と思った時期もありましたが、ベリーハードなんてもう寄生するしかない!

キノア9g

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第1話「転生即・絶望と出会い」

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「よっしゃああああ! ついに来た! これだよ、これ! 俺が求めてた展開は!」

 俺――アキラは、叫ばずにはいられなかった。目の前に広がるのは、見慣れていたはずの、あのゲームの世界。

 徹夜でやり込んだお気に入りのファンタジーRPG、『エターナル・ブレイブ』。サービス開始から五年。今なお根強い人気を誇るそれは、もう俺の人生そのものと言ってもいい。

 昨夜は部活の合同試合で疲れ果て、自室のベッドに倒れ込むように眠ったはずだった。なのに、目を開けた次の瞬間には――この場所にいた。

 風に揺れる木々のざわめき。嗅ぎ慣れない、湿った土と青臭い草の匂い。そして――見覚えのある石造りの建物群が、遠くに見えていた。

「あれは……フィールドストーン村?」

 慌てて身体を起こす。見下ろせば、粗末な布の服に革のベルト。腰には見覚えのある装備が下がっている。

「初期装備のショートソード……?」

 それらすべてが目に入った瞬間、俺の中で確信が走った。ここはまぎれもなく、『エターナル・ブレイブ』の世界だ。

 まさか、本当に異世界転生なんてできるとは。しかもこの状況、そしてこの装備。どう考えても主人公補正とかかかってるやつだろ。

 昂る気持ちを抑えきれず、俺は即座にステータスを呼び出した。ゲームの仕様そのままの脳内に直接響くような、あの電子音のアナウンス。うん、これこれ。この感覚がたまらない。

 ──名前:アキラ
 ──種族:人間
 ──職業:見習い冒険者
 ──レベル:1
 ──スキル:なし
 ──特殊能力:経験値取得倍率×0.1

 ……ん?

「……経験値取得倍率……×0.1?」

 俺は反射的に目を擦った。何かの見間違いだろうか。いや、システムのバグ? でも異世界転生って、得てしてそういう“ズレ”があるものだ。だからきっとこれは、俺に課された“試練”的なやつに違いない。最初の壁。そう、ベリーハードモードってやつだな。

「むしろ燃えるぜ。これぞ、主人公ってもんだろ!」

 ぐっと拳を握り締めて、俺は高らかに宣言した。

 まずは手始めに、チュートリアルエリアでおなじみのモンスター――スライムを討伐することにした。ぷるぷる跳ねる緑の塊。懐かしさすら覚えるフォルムに、自然と口元が緩む。

 俺は初期装備のショートソードを構え、勢いよく斬りかかった。ぷるん、という頼りない音と共に、スライムはあっけなく弾け飛んだ。

「よし! レベルアップ!」

 興奮気味に、再びステータス画面を確認する。

 ……が、その期待は無残に裏切られた。

 レベルは変わらず1のまま。経験値ゲージにいたっては、目盛りがかすかに、ほんの0.1%だけ動いている。

 ちょうどそのとき、俺のすぐそばを通り過ぎた新米冒険者らしき二人組が、同じようにスライムを倒していた。すると――光が走り、「レベルアップ!」の文字が、鮮やかに彼らの頭上に浮かび上がった。

「え、うそだろ……?」

 言葉が漏れる。彼らは一撃でレベルアップしたのに、俺はたった0.1%? ということは、同じスライムを千匹倒してようやくレベル1アップ……? バカな。

「何これ、ベリーハードってレベルじゃねぇぞ!?」

 叫んでも、誰も振り返らない。周囲の冒険者たちは、当然のように魔物を倒し、次々とレベルを上げていく。その光の粒が舞うたびに、俺の絶望だけが取り残されていくようだった。

 ……それでも、俺は諦めなかった。

 これは主人公に与えられた特別な試練だ。きっと、隠し要素か、特殊な条件があるんだ。俺の知識を駆使すれば、この“呪い”を打ち破れるはずだ。

 そう信じて、俺は朝から晩まで、ひたすらモンスターを狩り続けた。時には、危険な討伐クエストにも単身で挑んだ。食料は自分で採集し、野草を煮て腹を満たす。疲れた体を引きずって、ギルドに報告書を出す日々。

 ……だが、現実は非情だった。

 数年の月日が流れても、俺のレベルはようやく3から4に上がったところ。牛歩どころか、もはや地を這うナメクジ並みの進捗だった。

 一方、かつての同期たちは今やベテラン。S級冒険者の称号を得て、街では英雄として称えられている。彼らが歓声に包まれるたびに、俺の胸の奥には、重く湿った塊が沈んでいった。

 レベルが低い俺は、常にモンスターとの距離を測って生きるしかなかった。ちょっと強めの魔物に遭遇すれば、即座に撤退。時には追いかけられ、転がるように街の門まで逃げ帰ることもあった。

「あ、アキラさんだ! 今日も生きてる!」

 街の子供たちが、悪気のない声で俺に手を振ってくる。

「生きてるだけで、すごいっすね!」

 ……褒めてるのか、バカにしてるのか。いや、多分、後者だ。子供の無邪気な残酷さが、笑顔と一緒に胸に突き刺さる。

 ああ……もう無理かもしれない。

 酒場の片隅で、俺はぬるい安酒をあおりながら、心の中で呟いた。

 これは、もうゲームの仕様バグだ。どれだけ努力しようと、越えられない壁がある。

 主人公補正? そんなもの、最初からどこにもなかった。俺はただの、モブ以下の――最弱の存在でしかなかったのだ。

「こうなったら……寄生してでも、生き延びてやる」

 ゲーマーとしての誇りなんて、とっくに粉々になっていた。
 残ったのは、この世界でどうにか生き抜くんだという、現実主義的な諦めと、しぶとい決意だけだった。

 俺は、冒険者ギルドに日参するようになった。狙うはただ一つ――寄生先の確保。

 カウンターの前に張りつき、新人からベテランまで、手当たり次第に声をかけていく。

「どなたかパーティに加えてくださいませんか!? レベルは低いですが、真面目に働きます! 雑用なら何でもやります!」

 深々と頭を下げても、返ってくるのは冷たい視線と、突き刺さるような一言ばかり。

「レベル低すぎるだろ」

「スキルなし? 何もできないってことじゃん」

「悪いな。ウチは荷物持ちも自分でできるんでね」

 バサリと切り捨てられるたびに、心のどこかが擦り減っていく。

「あの……自分、この世界の地理とか、モンスターの生態とか、そういう知識だけは詳しいんです! かなり!」

 必死だった。転生前、何百時間も費やしてプレイした知識には自信がある。攻略サイトすら見ずに、宝箱の位置も、ドロップ率も、ダンジョンの罠の構造も、全部覚えてる。その知識があれば、きっと誰かの役に立てると思った。

 ……だが、その声は空を打つ。

「知識だけで勝てたら、苦労しねーよ」

「じゃあ、お前一人でやってみな?」

 鼻で笑われた。そうだよな、この世界の人間にとって、俺の記憶はただの妄言に過ぎない。

「このギルド、攻略スレだったら地雷パーティばっかじゃねーか……」

 内心で毒づきながら、無力感がじわじわと胸を満たしていく。――実績のない知識は武器にならない。戦えない奴には、発言権すらないのがこの世界だ。

 そのとき、ギルドの空気がふいにざわついた。

「おい、見ろよ……」

「マジか、あのライオスが帰ってきたぞ!」

「S級ライオス……!」

 どよめきの中心にいたのは、ギルドの扉を悠々とくぐってきた、一人の男だった。

 金髪が照明に反射してきらめいている。整った顔立ちといい、自然と視線を集める華やかな雰囲気といい――まるで舞台から抜け出してきた王子様のような男だった。

 ギルド職員でさえ、どこか緊張を滲ませながら彼に頭を下げている。

(ライオス……! 初期イベントに出てくるS級冒険者だ!)

 心の中で声が弾けた。ゲーム内でも、その実力は折り紙付き。
 高難易度のクエストをソロでこなし、“孤高のS級”と呼ばれる伝説のキャラクター。

 だけど、周囲の冒険者たちはその登場に湧きつつも、なぜか一定の距離を取っているようだった。

「またソロかよ」

「あれだけ強くても、やっぱ無理だわな……」

「まぁ、あの酒癖じゃ、誰も続かないって話だし」

 ひそひそと交わされる声が耳に入る。どうやら、ライオスには“仲間が長続きしない”という厄介な噂があるらしい。

 でも――そんなの、俺には関係なかった。むしろチャンスだ。

(他に仲間がいないなら、寄生できる隙がある!)

「この人しかいねぇ!」

 脊髄が反応するより先に、足が動いていた。無礼も遠慮も忘れ、俺は一直線に彼のもとへ駆け寄った。

「あ、あのっ! ライオスさん! パーティ組んでください!」

 ライオスは足を止め、きょとんとした顔で俺を見下ろす。

「えー? 俺と? 君、レベルいくつ?」

 興味があるのかないのか、どこか気の抜けたような、けれど柔らかな声音だった。

「い、今はレベル4です! でも、才能はあります! あと、愛嬌も!」

 何を口走っているのか自分でも分からなかった。が、必死だった。もう後がなかった。

 周囲で、ぷっと吹き出す声がいくつか聞こえた。
 そりゃそうだ。レベル4の奴が、S級にパーティ志願とか、滑稽にも程がある。

 だけど、ライオスは笑わなかった。俺の目をまっすぐ見て、少しの間、沈黙したあと――

「ふうん……まあ、いいよ。組んであげる」

 その言葉に、ギルド全体が凍りついたように静まり返った。

「え、ライオスが了承……?」

「マジかよ……あのライオスが……」

「今日、酒入ってたのか?」

 ざわめきが波紋のように広がる中、俺は自分の耳を疑っていた。
 
 本当に、承諾された……?

 呆然としている俺の肩を、ライオスが不意に抱き寄せた。
 ふわりと、甘く高級そうな香水の匂いが鼻をかすめる。

「よろしくね、相棒」

 耳元でささやかれた声は、妙に甘ったるくて、距離が近すぎて、思考が一瞬フリーズする。

「ちょっ……距離近っ!? な、なにこの人……!」

 慌てて身体をよじるが、顔が熱くなるばかりでどうにもならなかった。

 こうして――俺とライオス。最弱と最強の、凸凹すぎるコンビが誕生した。
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