【8話完結】いじめられっ子だった僕が、覚醒したら騎士団長に求愛されました

キノア9g

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第7話「最後の告白」

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 もうすぐ全てが終わる——その予感は、肌に感じる風の匂いにまで染み込んでいた。

 空を切り裂く鋭い咆哮、灰を撒き散らす巨大な魔獣の羽ばたき。
 俺たちが討伐の最後に向かったのは、かつて“封じられた地”と呼ばれた古代の戦場だった。
 風化した遺跡の残骸に、長い戦いの記憶が積もっているような場所。そこに、最後の“災い”が残されていた。

 僕はもう、怯えていなかった。

 ジグルドと肩を並べることが、当たり前のように感じられるようになっていた。
 強くなれたわけじゃない。けれど、もう逃げないと決めた。
 誰かの後ろじゃなく、ジグルドの隣に立ちたくて、ここまで来たんだ。

「終わりにしよう。……俺たちの手で」

 その言葉を交わして、最後の魔獣と相対する。

 炎が渦を巻き、空が鳴り、視界が灼けるような光に満たされる。
 けれど僕たちは、互いの影を見失わなかった。

 ジグルドの剣が闇を裂き、僕の術がその隙を穿つ。
 息を合わせた動きは、もはや言葉を必要としなかった。
 背を預け、信じて託し、共に切り開いた。

 ——誰かに命じられた戦いじゃない。これは、僕たち自身の選んだ戦いだった。

 そして——すべてが静かになった。


 ◇◇◇


 戦場に夜の帳が降りる。血と魔力の匂いは風に洗われ、焦げた大地に星の光が降ってくる。
 僕たちは、生きていた。生きて、やり遂げた。

「……終わった、んですね」

 膝を折り、崩れた岩に腰を下ろす。
 胸の奥がじんと熱くなって、でもどこか空っぽで、何かを言わないと壊れそうだった。

 だから、僕は口を開いた。

「……ジグルドさん」

「……ああ」

「……ずっと、好きでした」

 声が震えるのを止められなかった。
 でも、もうこのままじゃ終われないと、本能が叫んでいた。

「最初は、嘘でした。でも……気づいたら、本当になってて。あなたのそばが、一番あたたかくて。だから、この戦闘も怖くなかったんです。ずっと、そう伝えたくて……」

 ジグルドは黙って、ただ僕を見ていた。
 沈黙が痛いほど長く感じられたけれど、その静けさの奥に、確かな温度があった。

「……俺も、君が好きだ」

 低くて、確かで、まっすぐな声だった。

「え……? ほんとに……?」

 信じられなくて、でも嬉しくて、胸がぎゅうっと締めつけられる。
 顔が熱くなって、言葉が続かない。
 でも、ジグルドの視線が優しくて、すべてを肯定してくれているようで——涙が零れた。

 その瞬間、何かが報われたような気がした。
 全部が幸せだった。



 でも——

 足元に、紫の光が浮かんだ。

「え……?」

 魔法陣だった。淡く輝きながら、ゆっくりと回転を始める。それは、“元の世界”への帰還の合図だった。

「まって……そんな、今……!」

 身体がふわりと浮く。足が地から離れ、視界が滲む。
 僕はまだ、ここにいたいのに。あなたの声を、もっと聞きたいのに——。

「蓮っ!!」

 ジグルドが、僕の身体を強く抱きしめた。
 その腕の力は、まるでこの世界に縛りつけようとするかのように、強くて、熱かった。

「俺のそばにいてくれ。お願いだ。……手放したくないんだ」

 その声に、心の奥底が震えた。
 胸に積もっていた迷いも不安も、すべてが溶けていく気がした。
 この人の言葉なら、何度でも信じたくなる。

 全身の力が抜けて、彼の胸に顔を埋めた。

「……はい。僕も、いたいです。ずっと、一緒に……」

 その瞬間だった。

 魔法陣の光がふっと消えた。まるで最初からなかったみたいに、痕跡すら残さずに。

「……消えた……?」

「……やはり、効いたか」

 ジグルドが小さく呟いた。

 僕が顔を上げると、彼は懐から小さな、古びた護符を取り出して見せてくれた。

「この世界に“強く留める”ための打ち消しの護符だ。君が帰されそうになった時のために……用意していた」

「それって……」

「君が“帰る”と言うのなら、止める資格はないと思っていた。だが、願っていた。……一緒にいたいと、願ってくれることを。この世界で、俺と一緒に、生きてほしい」

 言葉が胸に深く沈んでいく。苦しいくらいにあたたかくて、僕はまた、泣きそうになった。

「そんなの……ずるいです。そんな大事なこと、黙ってて……」

「すまない。だが、信じていた。君が俺を選んでくれる日を」

 頬に触れたその手が、やさしくて、寂しさを押し流してくれた。
 その手のひらが僕の輪郭を確かめるように撫でるたび、心が満たされていく。

 僕はもう、ひとりじゃない。

 もう、“ただのモブ”じゃない。


「……ジグルドさん。僕、ずっとここにいます。あなたの隣に、いたいんです」

「ありがとう。……蓮」

 ジグルドがそっと僕の頬を引き寄せ、唇を重ねた。

 最初は触れるだけの、確かめるような口づけ。
 けれどすぐに、ふたりの想いが重なって、深く、強く、確かに結ばれた。
 夜風が二人の髪を撫で、星がこぼれるように瞬いた。

 何もかもが、終わりではなく、始まりのように思えた。

 ——そして、二人の新しい物語が、静かに動き出した。
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