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本編(完結済)

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一人目は海で溺死。


二人目は謎の自殺。


三人目は森で獣に襲われて死亡。


四人目は不倫していて恋人と無理心中。


五人目以降も皆死んだ。食中毒、焼死、他殺…本当多彩な方法で死んで行った。


今までに婚約した回数は9回。私が婚約する男性は最終的に皆死を選ぶ。それも婚約して結婚するまでの間に。一応王族は婚約してから3ヶ月は結婚までに期間を置かないといけないという規則があるのだが、それまでに皆死んでいくのだ。



始めは泣いた。でもそれが繰り返されるともう何も思わなくなった。私は呪われているのだと自覚した。残念ながら私は王女だったから父である国王が無理やり婚約を結んだ。時にはお金を積んで。時には脅して。時には恋人と強引に別れさせて。



一応、婚約者には毎回精鋭の護衛が警護に当たっているのだが、それを嘲笑うかの如く皆死んでいく。



何度婚約者達の後を追おうと思ったか。しかし、身分がそれを許さなかった。自殺しても少しでも息があれば魔法で蘇生される。その内、私があまりに何度も自殺を繰り返すので、父である国王が宮殿近くの森の中にある離宮に私を軟禁した。窓も高い位置にしかなく、必要最低限の家具しかない。それも勝手に移動出来ないように固定されている。鏡ですら魔法で割れないようにしてある。自殺するためのツールにしないようにする為だ。


その上、自身の魔力も封印された。それも勿論自殺させない為。



生きる気力の私は結局、ほぼ寝たきり生活となった。そんな生活が結局22歳まで続いたが、私は流行病で呆気なく死んだ。1人寂しく。



********


「…で、貴方。言い訳は?」



「久しぶりに触れてもらって幸せ。もう死んでもいいかな。死んでるけど。」



「マジ黙れや。」



そう言って恍惚とした表情を浮かべるのは最初に海で溺れ死んだ婚約者のルウである。現在、彼は私に赤い縄で亀甲縛りをされ天井から吊るされている。思わず私も口調が荒ぶってしまうが、そこは仕方がないだろう。



……私と婚約した男性が次々死んでいったのは彼のせいだったのだから。



*******


話は少し前に遡る。



私は死んでから、光が導くままに三途の川を渡り冥府入りしたのだが、冥府の門をくぐってすぐ、紙を見ながらキョロキョロ誰かを探している様子の男の子に声をかけられた。



「すみません!あなたはルフレさまですかー?」



「はい、そうですが…何か?」



裾が長い東国の衣装に身を包んだ黒髪の可愛い少年に声を掛けられ、思わず笑みを浮かべた。私が探していた人物だったのか、困った表情をしていた顔がパッと明るい笑顔に変わった。



「お探ししておりました。私の上司がお呼びですのでついてきて頂けますか?」


「喜んで!」



そう言って上目遣いで懇願してくる。あまりにもその姿が可愛すぎて思わずと即答してしまった。



男の子はニコニコしながら、冥府にある一際大きな建物へ向かった。彼いわく、ここは役所の様なところらしく、閻魔様が死人の魂を裁く部屋もここにあるらしい。



建物の案内をしながらどんどん彼は進んでいく。私が物珍しさにキョロキョロしながら彼の背を追っていたが、急に彼が大きな扉の前で立ち止まり、扉を開いた。



「久しぶり~!!僕のルフレたーーーーん!!!」



そう言っていきなり抱きついて唇にキスしてきた男は、私を助ける為に海で溺れ死んだ一人目の婚約者のルウだった。



******


彼は元々隣国の第五王子で、夜会で私に一目惚れし猛アプローチの末、私と婚約した人だった。あまりにしつこく、私の行動を束縛してくる様な人だった。



あまりにも束縛が酷すぎて、彼が寝ている間に縄で縛り放置し出掛け、放置していたことを忘れて慌てて戻ったら、恍惚とした表情をしていることもあった。その表情が気持ち悪すぎて思わず彼の身体を足蹴りすると、



「もっと……もっとやってよ。僕の女王様…。」



と、もっと恍惚とした表情をしてきたっけ。タチの悪い事にそれ以降、私が塩対応をすると凄く嬉しそうな顔をする被虐趣味の変態野郎になってしまった。



勿論、私の自由を束縛するのも忘れない。彼が亡くなった後、友人から彼に脅されて私と関わらないようにしていたと聞いた時、土下座して謝ったのは昨日の事の様に覚えている。そんな面倒な婚約者だった。



彼が亡くなったあの日、私は護衛を撒いて海でこっそり遊んでいた。ちょうど宮殿の近くにプライドビーチがあり、私はそこがお気に入りだった。その日は晴れていたが、風が強く波も荒れていたが、晴れているから大丈夫だろうと思い、いつものように浜辺で一人遊んでいたのだ。



浜辺で貝を探していると、急に大きな波に攫われてしまった。突然の出来事に混乱した上、足が届かない深さの所まで流されてしまった私はパニックを起こし溺れてしまった。



そんな中、真っ先に私を見つけ浮き輪を持って飛び込んで来たのはいつも面倒だと感じていた彼だった。



「ごめん。浮き輪小さくて2人でつかまると二人とも海に沈んでしまう。だから君が浮き輪を使って先に岸まで泳いで。すぐ僕も向かうからさ。」




まさかあまり泳ぎが得意で無いのに海に飛び込み、溺れて混乱する私を宥めている間に足をつっていたなんて思わなかったので、私は彼の言葉を信じて岸辺へ向かった。向かう途中で私を探していた護衛に保護され私は無事だったが、他の護衛に担がれ、浜辺で待つ私の元に戻ってきた彼は意識が無い状態だった。そして治癒魔法が使える人が来る前に彼は息を引き取った。



私は当時ひたすら泣いた。彼が火葬されるまでずっと彼の亡骸にすがりついて泣いている姿を見て、色々思う所はあるだろうに、優しい彼の両親は私をそっと慰めてくれた。



「ルウはここまで好きな子に想われて幸せだった。君は息子のことを忘れて幸せになっておくれ。まだまだ若いのだから。」



そう言われたが、私は忘れたことは無い。……ルウは私が初めて恋してすぐ死んでしまった私の初恋の人だったから。



*******


いきなりキスしてきて私の平手打ちカウンターをくらったルウは、頬に紅葉の様な痕をつけ、ニコニコ顔で冥府での生活を語ってくれた。



どうやら海で死んでからしばらく私の傍にいて私の婚約者の夢枕に立ったり嫌がらせを繰り返した上いつの間にか呪い殺していたらしい。


彼いわく、私が婚約していた相手は私を殺そうとしたり、他に付き合ってる人がいたり、保身の為に私を暗殺しようとしたクソ野郎ばかりだったらしい。ルウの言ってることは真実かどうか今は確かめようも無いし、それ以前に亡くなった元婚約者達も束縛激しい被虐趣味の変態野郎には言われたくないだろう。


まぁ、そんなことを繰り返している間に冥府でも問題視される様な悪霊になってしまい、冥府の役人により冥府へ強制送還、地獄送りにされたんだとか。


しかし、地獄に送られても地獄での生活に苦しむどころか、弱者・強者関わらず支配下に置き、悠々自適な生活を送っていたので冥府の役人達も頭を抱え、地獄での生活が罰にならないのなら、と冥府の役人として働くことになったんだとか。確かに昔から腹黒かったし、影で色々動く人だったけど。



ただ、ルウは性格が腐っていても頭はかなり良く、仕事は出来た為、実力主義だった冥府の中でどんどん位を上げていき、つい最近、冥府の高官にまで上り詰めたんだとか。その上、その昇級祝いで冥府のトップである閻魔様に飲み比べ勝負を挑まれ勝負し、勝った結果……



「私がここにいると?」



「うん、そう。何が欲しい?と聞かれたからさ。ルフレが欲しいって言ったら叶えてくれたんだ。」



つまり、私は彼の賞品となったが為に死んだらしい。まぁ、眠る様に苦しまず死ねたんだけど、なんかやるせない…。そして、話の中で出てきた私の婚約者の死因もルウが関与していると聞き、私の苛立ちはピークに達した。例え婚約者がクソ野郎だったとしても、殺す事は無かったんじゃないか…?



「ねぇ、ルウ……ちょっといいかしら?ちょっとそこに目をつぶって立っててくれる?」



「え、まさかキス!?いいよ!いいよ!喜んで!!」



そう言って私が言うように目をつぶり、心做しか唇を突き出すルウ。そんな彼を……



「何してくれてんじゃ!ワレ!!!」



元王女とは思えない汚い言葉を吐きながら、私はルウの鳩尾を思いっきり殴り、気絶したルウの身体を傍にあった赤い紐で括り、ルウの部下達に協力を仰ぎ天井から吊るしたのだった。



ルウの部下の美少年達が私を見て怯えていた気がしたが、気のせいだと思うことにする。


*******


結局、ルウの賞品となった私は仕事上では彼の補佐として働く事になった。閻魔様からは私が来てからルウが真面目に仕事をするようになったと大変感謝された。



たまに仕事に嫌気がさすとルウは脱走する事があるが、何となく彼の居場所が分かる私が毎回見つけ出し、気絶させ執務室へ連行している。


一方プライベートでは彼の奥さんとなった…というか、いつの間にか婚姻届が提出されていた。きちんとプロポーズもされたけど、私には断る理由が無い。今も雑に接してはいるが、彼の事は好きだから。



そして今日は良い知らせが夫に出来る。私は下腹部をそっと撫でた後、仕事でクタクタになって帰ってくるであろうルウをもてなす準備を始めるのだった。帰って来たルウが、新しい家族が出来ることをルフレに伝えられ、ルウが狂喜乱舞するまであと少し……




【後日譚】


ルウ「…あのクソ閻魔め…自分が嫁と喧嘩して気まずいからってさっさと帰りたい私にウジウジ相談してきやがって……ルフレ!!体調は大丈夫かい?体調悪そうだったから早退させたってあのクソ閻魔から言われて本当に心配だったんだ!早く俺にも知らせてくれたら病院にも付き添いで行ったのにアイツ気が利かないから…。まじクソだわ。」



ルフレ「お疲れ様!閻魔様の事悪く言わないで。自分の奥様を病院への同行につけてくれたのはあの方なんだから。あと……報告があります。」



ルウ「深刻な顔してどうしたんだい?何か悪い病気だったんじゃ…死んじゃ嫌だよ…」



ルフレ「もう(アンタのせいで)死んでるでしょうに…。聞いて!子供が出来たの!それも双子ですって!!」



ルウ「え!!!ルフレと僕の子…うわぁ…ありがとうルフレ…ありがとう、ありがとう…」



ルフレ「ルウこそありがとうね。」



ルウ「…でも、ちょっと待って。クソ閻魔が早く私にルフレの早退のことを教えてくれれば、私も病院で一緒に先生からルフレと一緒に報告聞けたんだよね…?……やっぱり、クソ閻魔シバいてくるわ。」



ルフレ「多分、閻魔様、今奥様と仲直りしてる頃だと思うから邪魔しないであげて…?」

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