ヤンデレ王子と風の精霊

東稔 雨紗霧

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2st脱出

2st脱出ーその4-

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 「んー、中々定着しませんねぇ。予想ではもう少し僕の魔力で染まっている筈だったのですが……最初の呪具に取り込む時の様子も少し違いましたし、やはり主人がいる精霊だと野良よりも定着するのに時間がかかるのでしょうか?」


 アリアを封じているアメジストに触れながら魔力を注ぎ込むレインはアバに止められたが強行してでも主人のいる精霊でも試せば良かったと後悔する。
 これまでの実験では鉱物に触れた精霊は瞬き程の時間で鉱物の中へと取り込まれていたが、アリアはゆっくりと溶ける様にして取り込まれた。
 その様は幻想的で思わずうっとりと見つめてしまったほどだ。
 美しい光景を見れたのは満足だが、定着が遅れればその分だけアリアを苦しめてしまう。
 自分の物にする事ができた現状でアリアを苦しめることはレインの本意ではないのだ。
 気怠そうに鏡の中で浮いているアリアへと申し訳なさそうに言った。


 「すみませんアリア、気怠さを感じていると思いますがアリアの感じている気怠さはこの呪具にまだ馴染んでいないから感じる物です。
 もっと定着すれば自然と楽になるそうなので今は我慢して下さい」
 〔私を解放すれば直ぐにこの気怠さから解放されるのだけれど、楽にしてくれる気はない?〕
 「もう、アリアってばそれは出来ないって知っているじゃないですか。
 それよりもアリアが素直になって僕と契約を結びなおすのがお勧めなのですがどうでしょう?」
 〔残念だけれども私とレインが契約する日は未来永劫来ないわよ〕


 面白い冗談だとばかりに笑うレインに対してこっちはいたって本気だとアリアは溜息を吐きそうになるのを堪える。


 「ふふ……あまりそうつれない事を言い続けるのであれば僕にも考えがありますよ?
 アリアと約束したので危害を加えるなんて事はしませんが例えば、そうですねぇ……僕が居ない間にアリアが外の情報、まあ主にあの男の事をリョク達に聞いているのをこれから先聞けなくするとかどうですか?」
 〔くっ……〕


 レインの言葉にアリアは悔し気に顔を歪めた。
 そんなアリアの表情を見てレインは恍惚とした顔で鏡越しにアリアの顔を撫でる。


 「ああ、アリアのその表情は初めて見ました。
 ですが、やはりアリアはどんな表情を浮かべていても美しいですね」
 〔……悪趣味だわ〕
 「いいえ、アリアに関する事で悪趣味な事なんて一つもありませんよ。当然の反応です」
 〔……やっぱり悪趣味だわ〕


 自分と愛する人を引き離しこんな所へ封じ込めた憎しみと信じていた存在に裏切られた悲しみ、幼少から見守ってきた愛着がレインの嬉しそうな声と表情にかき混ぜられ言葉では言い表せない複雑な感情へと変化する。
 抱いたその感情にアリアは何とも言えない表情を浮かべた。


 「不思議な顔をされてどうしたんですか?」
 〔いいえ、何でもないわよ〕
 「? あ、そうだ。明日、レマヌの街へ視察しに行く事になったんです。
 なんでも薔薇の花が見頃で薔薇のお祭りが開かれるそうで、スティーブン兄上とその式典に参加する様にと。
 式典の後に自由に見回れる時間が頂けたので明日は一緒に回りましょう。
 ペンダントは服の外に出すのでアリアも一緒に見れますし、気分転換にもなりますよね」
 〔レヌマ……そうね、見たいわ〕
 「ふふ、一緒に出掛けるのなんて久々ですね。僕、とっても嬉しいです」


 嬉しそうに鏡を撫でてレインはいつものようにその日にあった事等をアリアに話始める。
 それにアリアもいつも通りに相槌を打ち、言葉を返す。
 いくらアリアの入った首飾りを常に持ち歩いているとは言え、服の中へと仕舞い込まれている為レインの声以外は聞こえにくい上に外の様子を見る事が出来ない。
 外部からの情報入手経路がレインとその契約精霊だけの現状、少しでも情報の欲しいアリアは少しの事でも漏らすまいとレインの話に耳を傾ける。
 その様子を満足気に見つめ、笑顔でレインがアリアへと話しをしていると次の授業の時間だとリョクが迎えに来た。


 〔レイン、次は剣術の授業だから急いだ方が良いよ〕
 「そうだった、ありがとうリョク。ではアリアまた後で」


 鏡へと口付けを一つし、名残惜しそうに去って行く。
 いくら首飾りの中にアリアがいると分かっていてもやはり、鏡の方が等身大な分アリアと共に居ると実感できるから好きなのだと少し前にレインが言っていた。
 静かになった部屋でアリアは過去を邂逅する。

 レヌマの街、厳密にはそこから少し離れた場所にあるタームの森はアリアとヴァンが初めて会った場所だ。
 口減らしの為に森の奥深くへと捨てられたヴァンと精霊界から落ちたアリアが共に助け合い、城からレインを迎えに使いがやってくるまで数年間生活していた森。
 あの愛おしく輝かしい日々を思い出すと泣きそうな程の幸福を思い出し、胸が締め付けられる。

 〔ヴァン、貴方に会いたいわ〕

 必ず迎えに来ると言っていたヴァン。
 そう言ったヴァンの目には何に代えてでも取り戻すと言う強い意志を感じた。
 共に居たいが、それ以上にアリアはヴァンには危険な目にはあって欲しくなかった。
 ヴァンが危機に晒される位ならば自分の事など捨て置いて欲しい。
 自分の存在なんかよりもヴァンの方が余程大事なのだ。

 お願いだから命を擲つような事はしないで。

 心から祈る事しかできない自分の無力さに歯噛みし、無力さに打ちひしがれた。

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