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番外章 零れ話

満ち足りし日常

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 ――昔は、朝を報せる目覚まし時計のアラーム音というものが好きじゃなかった。
 欲しくもない明日を、私に運んでくるから。





『なにゆえ人は、朝が来たら起きるのだろうか? 別に昼起きようが夜起きようが、望むのなら一日中起きることなくスリーピング・ビューティのように、或いはコアラかナマケモノかはたまた蝉の幼虫のように、ただただ眠り続けても一向に構わないではないか。何故なら眠ること、即ち睡眠欲とは人間が決して抗うことの出来ない三大欲求のひとつ。生きるために必要不可欠な行いを為している者を、何故起こす必要があるのか? 眠らなければ人は疲労とストレスと倦怠感に苛まれ、やがてはまともな思考能力すら奪われてしまう。もしそれが原因で取り返しのつかない事故に陥ってしまえば、起こした者は犯罪者となるのではないだろうか。全ての人類よ、これを機に是非考えて頂きたい。寝ている者を起こすという行為が、どれだけの罪深さを秘めているのかを――』

「……うるさいのよ、毎朝毎朝……!」

 全身すっぽりとくるまったタオルケットの中から手を伸ばし、アラームを止める九々。
 続けて顔を出すと、起き抜けで若干眠気の残った眼差しを、ふよふよと部屋のそこかしこに彷徨さまよわせながら。
 やや緩慢な動作で、ベッドから起き上がる。

「んんっ」

 飾り気のない無地のカーテンを開ければ、窓から柔らかに差し込んでくる朝陽。
 猫のきぐるみパジャマという格好に、なんともしっくりくる仕草で伸びをしてから。

 彼女は、テーブルに置かれた写真立てを取り、呟くのだった。


「おはよう……皆」





 今日は土曜。全国的に学校は休みである。
 けれど雪代九々の朝は、休日も平日も大して変わらない。

 きっかり6時に起き、シャワーと歯磨きの後に朝食。
 特に面白くもないニュースと、熱心に信じているワケでもない星占いを見てから、平日なら始業30分前に登校。
 休日であれば、そのまま暫くぼんやりテレビを観て過ごす。

『本日の第1位は、うお座のあなた! 何かいいことあるかも知れない!』
「……あ、私だ。それにしても、相変わらず内容がアバウトな占いコーナーね……せめてラッキーカラーとかアイテムくらい言いなさいよ」

 紅茶を飲みつつ、淡々とした口調でそう零す。
 ちなみに彼女、名前の所為でよく誕生日を9月9日だと勘違いされるが、実際のそれは3月2日である。
 名前を意味ではなく語感優先でつけられたが故の、弊害だった。

 とは言え、市役所や病院に寄り付きたくなくなるようなキラキラネームでなかっただけ随分マシだ、と。
 子供心によくそう考えていたことを、ふと思い出す九々。
 実のところ、割かし気に入ってもいる。響きそのものは、中々に可愛いし。

「…………ふぅ」

 どうでもいい思案を巡らせつつ、彼女はじきに紅茶を飲み終えた。
 そうなってしまうと、退屈な番組で無為に時間を過ごすのも、そろそろ飽きてくる。

 かと言って時計を見てみれば、示された時刻はまだ8時にすらなっていない。
 こんな早くでは近所の店などまだどこも開いておらず、そもそも九々は休日に1人で出かけるような行為自体、あまり好きじゃない。

 ……町の雑踏を、1人で歩いていると。
 どうしようもなく、不安と孤独を感じてしまうのだ。

「……もう少ししたら、誰かに連絡入れてみようかな……」

 昨晩寝る前にソファへと放っていたスマホを取り、アドレス帳を開く。
 そこに登録されている人数は、女子高生の携帯と呼ぶにはあまりにも少ないもので、たった5人。
 今は離れて暮らしている両親と弟の番号すら、入ってはいなかった。

「…………」

 やや落ち着かない様子で身体を揺らしながら、九々は再び時計を見る。
 当然だが、さっき見た時とほぼ変わらない。精々、長針が僅かに動いているだけ。

 幾らなんでも、こんな時間から連絡するのは常識的によろしくないだろう。
 今日は休日なのだし、せめて9時頃まで待たなければ。


 ――早く時間、過ぎないかなぁ。


 指先でテーブルをトントンと叩き、切なげな溜息を吐く。
 もしこんな姿を雅近や平助あたりに見られたら、きっと散々弄られるだろうな、と。益体もないことに思いを馳せて。
 つけっ放しのテレビを観るでもなく、そこから聞こえるわざとらしい笑い声も右から左に流しながら。
 ぼう、と窓の向こうに目を向け。遥か遠くに見える道路を走る車の中でも、軽自動車の数のみを数えるという、一般的な視力の持ち主には到底不可能な芸当を始めること、およそ数分。

「…………うん?」

 ふと……テレビの音に混じって、別の声が微かに耳朶を引っ掻く。
 その瞬間、九々の目線は半ば反射的に玄関側へと向けられた。

 彼女が住むこのマンション、ひと通りのセキュリティや防音設備などは整っているのだが、設計ミスなのか予算上の都合だったのか、玄関のドアだけ微妙に音を通してしまうのだ。
 つまり室内まで何か聞こえてくるのなら、消去法で出所はその付近ということになる。

 ……またゴミの分別で、左隣が管理人さんと言い争っているのだろうか。
 そんなことを考えつつ、退屈を持て余していた九々はちょっとした時間潰しにでもなるかと思い、外を覗いてみることにした。

「この前は空き缶はリサイクルか不燃ゴミかで延々議論してたのよね……同じ階に住んでるってだけで私にまで注意が回ってきたし、近所付き合いってホント面倒……」

 靴を履き、そっとドアを開く。
 もし双方ともカリカリしていたら、大きな音が刺激になって飛び火しかねないという配慮。
 要らない火の粉を浴びるのが嫌ならば、そもそも首を出さないのが正解であるけれど。
 兎に角今の彼女は時間を持て余していて、それが凌げそうなら少しくらいリスクを踏んでもいい気分だった。

「……あれ?」

 けれど。扉越しにそっと覗いた左隣の玄関前に、予想していた人影はなく。
 もしや空耳だったのだろうかと、小首を傾げたのも束の間。

 背後から。
 つまり見ていた方とは逆、右側のお隣さんから話し声が聞こえてきたのだ。

 そして。


「えっと、だから部屋番号間違えてると思うんですけど……」
「そんな馬鹿な。幾ら俺がこの間の数学小テストで8点しか取れなかったくらい数字関係が苦手だからって、友達の部屋番間違えるほど……落ちぶれちゃ、いないさ……アハハハハ」
「思いっきり顔逸らしてるじゃないですか……笑い声乾いてるし」
「ハハハハハ、ハハハハハハ」


 ――非常に聞き覚えのあるその声・・・を、耳にした瞬間。
 九々の胸が、僅かに跳ねた。

「参ったなぁ……こうなったらマサにでもラインして、委員長の部屋番を聞くしか――」
「何やってるのよ、戌伏君」

 困った風に眉根を寄せ、ポケットからスマホを取り出そうとした夜行の肩を。
 くすりと笑みを浮かべた九々が軽く叩き、呼びかける。

「――ん? え、あれ、委員長? いつから後ろに……てか、君が住んでたのって515号室じゃなかったっけ?」
「私が住んでるのは、2年以上前から516号室よ」
「バカな!? まっさかー、ホントは引っ越したんでしょ? 正直に言いなよ、ほらほら」
「……なんで同じマンションの隣部屋に引っ越さなくちゃいけないの……何の意味があるの、それ」
「え…………それはホラ、アレだよホラ……あー、居ちゃマズイもんが居た、とか?」
「もしそうなら、今頃もっと遠くに引っ越してるけど」

 ……もう何度も来ている筈なのに、部屋番号を勘違いしていたことに対しバツが悪く感じているのか。
 目を左右へと泳がせながら、どうにか誤魔化そうとする夜行。
 そんな姿がおかしく、九々は口元に手を当て、肩を細かに震わせる。

 やがて釣られた形で、夜行も笑い出す。
 彼と話していたお隣さんが、親しげに笑う2人を見て何やら目を丸くさせていた。

「……あ、と……あの、雪代さん……おはようっす……」
「ええ、おはようお隣さん。今日も暑くなりそうね」

 ちらちらと夜行を気にしながらの挨拶に、朗らかな笑みと口調で答えた九々。
 次いで夜行の手を取り、軽く引っ張る。

「戌伏君、何か私に用があったんでしょ? 取り敢えず上がって」
「んー? あー、うん、用って程のアレでもないけど……じゃ、お邪魔しまーす」

 早く早くと、やけに上機嫌な様子で急かす九々を苦笑気味に見遣り。
 余計な手間を取らせて済まなかった、と自分よりひとつかふたつ年下だろうお隣さんの少年に軽く頭を下げ、九々に連れられ彼女の部屋へと入って行く夜行。

「…………」

 残された少年は、2人が居なくなった後も暫し呆然としたままで。
 大きくショックを受けたような表情かおを晒し、その場に立ち尽くしていた。





「――あの彼、絶対委員長に気があるって。断言できるね」

 出されたコーヒーの表面にちまちまと爪楊枝で何かを描きながら、推理を披露する探偵のような得意顔でそんなことを告げる夜行。
 ビシッと突き出された人差し指。それを咥え、少しずつ顎に力を篭めて文字通り噛み付く九々。

「痛い痛い、歯形になる。委員長歯ぁ小さいから刺さるっつの」
「……んあ……冗談よして、気持ち悪いから。ただのお隣さんよ」
「おぉう、脈ゼロかよ報われねぇなオイ……」

 名も知らぬ少年に同情の意を寄せる夜行だが、こればかりはどうしようもない。
 せめてできることは、ただ彼の冥福を祈るばかりである。

「……ま、たぶん・・・良い人達なんでしょうね。1人暮らしの私を気遣ってよく食事に誘ってくれるし、成績今ひとつな息子さんに家庭教師してくれないか、なんて頼んでくるくらいには気に入られてるわ」
「へぇ……良かったじゃん」

 九々が極度の人見知りで、割と最近まで彼女1人では複数の他人と満足に話すことも出来なかった事実を知る夜行は、含みの無い素直な感情を込め、そう言った。
 対し、九々は如何にも皮肉っぽい笑みと声音を浮かばせる。

「えぇ、そうね。だから私だって、相応の態度で接してるわ。表情かおも口調も、自然に笑えるよう頑張っていっぱい練習したもの……でも、それだけよ。生憎とたぶん・・・で他人を心から信用できるほど、私はいい子じゃない」

 ……嘗て人間不信に陥り、頑なに心を鎖していた少女。
 そんな彼女と初めて出会ってから、こうして気を許してくれるに至ったまでの経緯を思い返し。
 これでも前と比べれば随分改善されたものだと、夜行は感慨深げに頷く。

「……俺は割とすぐ信用しちゃうからなぁ……勘で生きてる部分あるし。その内ツボとか買わされないように気ぃつけんと……」
「戌伏君は別にそのままで良いわよ。そりゃ確かに、鬼島君と同じで多少賢くなって欲しいと思わなくもないけど、そもそも賢い貴方なんて想像出来ないから」

 辛うじて思い浮かんだのは、何事もまず鼻で笑い口を開く度に嫌味を吐き出す、雅近化した夜行の姿。
 彼がそんな風になってしまうくらいなら、いっそ一生今のままでいいと。心の底から、そう思わずにはいられない九々だった。

「……バカにすんなー!」

 とは言え、夜行にも人並みの見栄やプライドというものがある。
 バカにされたばかりか、バカのままでいいとまで言われてしまうと立場が無かった。

「はいはい、ごめんなさい。それで、私に何か用があってきたんじゃないの?」
「うぐぐ、流されてしまった……や、だから別に用って程のもんでもなくて」

 釈然としない様子を見せつつ、ゆっるい猫のイラストが描かれたコーヒーカップから手を離す夜行。
 そして所謂ゲンドウスタイルになると、険しい眼差しで九々を見据え。


「…………実は……暇だったので、遊びに来た」


 数秒の間を置いてもったいぶった挙句、不必要なほど重々しい口調で。
 そう、言い放った。

「…………」
「あっははは、マジでやることなくてさー! 暇で暇でしょーがなかったもんで、もうこうなったら委員長と遊ぼうと思って」
「……今、何時だと思ってるのよ」

 午前7時58分。
 加えて休日ともなれば、下手しなくても電話をかけるかどうかすら悩む時間帯である。

「いやいや、俺だって時計の文字盤くらい読めるわ! でも委員長って朝早いじゃん? だからもう起きてて、退屈持て余しつつテレビでも観ながら『早く時間過ぎないかなー』などと考えてるんじゃないか、とアタリをつけてたんだが」
「…………」

 この男、もしかしてエスパーではないだろうか。
 或いは普段のバカな言動はブラフで、本当は物凄く頭が良いのでは……?

「それより見てくれ、このラテアート! こないだクラスの子達にボコボコにされたヤナギを描いてみました!」
「ぶっ……!」

 思わず噴き出すほどそっくりだった。無駄に器用な男である。
 そしてやはり、ただのバカだった。

「けほっけほっ……でも戌伏君、伊達君はどうしたのよ。あっちの方がずっと近所でしょ」

 暇を持て余していたところに訪ねて来てくれて内心嬉しいくせに、なんとも素直でない言い草。
 ピンと立った艶やかなアホ毛をぴこぴこ揺らしながら、呆れ気味な表情を作っている。
 元は垂れ目なのを普段から吊り目に矯正しているだけあって、そうした芸当はお手の物だった。

「マサは朝早くからネトゲのオフ会に出かけた。次のアプデで大幅な仕様変更があるから、色々話し合わなきゃなんないんだと」
「相変わらず趣味にかける苦労は惜しまないのね……鬼島君は? あと鳳龍院さんと、柳本も」
「さあぁ、真っ先にこっち来たし。ちー君とヤナギはバイトじゃない? 鳳龍院さんは……あー、多分習い事」
「……そう」


 ぴこぴこぴこぴこ


 雅近の次に優先順位が高かった事実に気を良くしたのか、勢いを増して上機嫌に揺れるアホ毛。
 朱の差した頬と、にやけそうになる口元を誤魔化す為。

 本当は紅茶派なのだが、夜行に合わせて飲んでいたコーヒー。
 零してしまったそれを拭う真似をしながら、九々は暫し自分の顔をこね回すのだった。





「ハァ……まあ、折角来た友達を追い返すのも酷いし、いいわ。遊んであげる」
「サンキュー委員長! なら映画館とゲーセン行こうぜ! 俺観たい映画とやりたいゲームあんだよ!」
「……え?」

 弾んだ声音で宣言した夜行に対し、ぱちぱちと目を瞬かせて固まる九々。
 とは言え、別に彼の提案が嫌だったワケではない。
 寧ろ、映画だろうとゲームだろうとカラオケだろうと、1人じゃなければどこであっても基本構わない。

 故に九々が固まった理由は、別のことだった。


「……戌伏君が観たい映画とやりたいゲーム、どっちもスタートするの来週・・の土曜よ……?」
「――――」


 この世全ての絶望を詰め込めば、果たしてこのような表情になるのだろうか。
 絶句して崩れ落ちた夜行を見下ろし、九々はそんなことを思った。

「そんな……まさか……早起きしてキャラメルポップコーンを自作までした俺の苦労は一体……」
「魂の宝石が濁って呪いを吐き出しそうな勢いね……ん、おいし」

 しゃがみ込んで夜行の頭を撫でつつ、脇に落ちていた袋を摘み上げ、キャラメルポップコーンを食べる。
 イマイチけち臭い市販のものとは違い、一粒一粒にたっぷりとキャラメルがコーティングされていた。

 やがて塞ぎ込むことに飽きたのか、膝を払いながら立ち上がる夜行。
 切り替えの早い男である。

「やれやれ俺の勘違いかよ、今日は全く以って勘違いの多い日だ……ところで委員長、よく俺の観たい映画の上映開始日とか知ってたな」
「ッ!? ぐ、偶然よ! 前売り券なんて買ってないし、ロケーションテストしてた隣の県までわざわざ行って練習なんてしてないから!」
「…………」
「あ」

 語るに落ちた。
 とても優しい目を向けてくる夜行を直視できず、顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 ぽん、と。
 彼の手が、九々の肩に置かれた。

「……来週、一緒に行こうか。皆も誘って」
「…………うん」





「で、結局暇になってしまったがどーしよう」

 目的を失いすっかり気の抜けた声でそう呟き、ソファをゴロゴロ転がる夜行。
 最早、自分の家で寛ぐノリだった。

「もう……じゃあ、どこか行く? 今の時間でも開いてるとこなら……カラオケ?」
「俺あんまり歌うの得意じゃないぞ……そっち系なら鳳龍院さんだな、すげー上手い」
「一度マイク渡したら、ピラニアみたいに掴んで離さないけどね……」

 前に30曲連続ノンストップで歌い続けた際の躑躅の姿を脳裏に浮かべ、九々が乾いた笑みを零す。
 そして彼女もそこまで歌好きではないので、この2人でカラオケに行っても仕方なかった。

「なら、美容院に行こう。そろそろ前髪切りたかったし」
「……休日に仲良く髪切るってどうなの? それに私、ああいう所は正直苦手……」

 何故かと言えば、やたらと髪質を褒めちぎられるから。
 高校入学当初より格段に改善されたとは言え極度の人見知り、且つ見知らぬ他人に黙って仕事しろなどと言えない気弱な少女に、美容院というキラキラした社交的な場所は難易度が高過ぎる。
 と言うか、暇だから2人して美容院との選択は、九々も言ったがどうなのだろうか。

 夜行本人も、発言の後にそう思い至ったのだろう。
 肩をすくめつつ立ち上がり、これならどうだと自信ありげに拳を握った。

「それなら歯医者だ。今朝から奥歯痛いんだよ、虫歯かも」

 ……まあ、後から出た意見が必ずしも前よりいいものとは、限らないのだけれど。

「なんでよ……そもそもそれ、私が一緒に行く意味あるの? 完全にただの付き添いじゃない……」
「1人で歯医者は少し怖い。いつもはマサが一緒なんだ、逆の場合もね」
「友達連れで歯医者行く人なんて、日本全国探しても貴方達だけだと思うけど……ねえ、ちょっとあーんしてみて」
「え? 別にいいけど――はうッ」

 乞われた通りに口を開けた瞬間、夜行の膝裏に軽く衝撃が奔る。
 唐突に、九々が蹴りを入れたのだ。軽くだったので痛みこそ無かったものの、バランスを崩した夜行は床に膝をついた。

 更に彼女は間髪入れず、目を丸くする夜行の顔を両手で挟む。
 そうやって開いた口が閉じられないよう固定し、その中をじっと覗き込んだ。

「ひょ、ひひんひょ!?」
「動かないで。痛いのはどっち側の奥歯?」
「……ひ、ひはひ」
「上? 下?」
「ひは」

 現状に於ける九々の行動の真意は、さっぱり分からなかった夜行だが。
 彼女が何やら険しい目をしていたので、取り敢えず好きにさせることにした。

 ――しかし。

「はがッ!? あがごががッ!」

 細く、形も綺麗に整った指。
 それを、やはり突然口の中に突っ込まれれば。そんな悠長にも構えていられなくなった。

 目を見開き身体を捩り、抵抗する夜行。けれど膝立ちの状態でぴったりと寄り添った相手に対し、出来ることは少なく。
 無理に暴れては九々に怪我をさせてしまうかも知れず、結局ほぼ為すがままで。

 ひんやりした指先が口腔内を這い回ること、およそ数十秒。
 唐突な出来事に凍結していた思考が溶け、いい加減妙な気分になりそうだった頃合い。
 ようやく九々は夜行の口から指を抜き、半歩だけ後ろに下がった。

「うぅ……い、いきなり何すんだよ委員長……」
「虫歯かどうか診てたの。大丈夫よ、奥歯の根元近くにちょっと口内炎が出来てただけだったから」

 上限2.0の一般的な視力測定では正確な数字が出せないほど高い、生まれついての人並み外れた視力。
 虫歯の有無程度、確かに彼女であれば容易く見分けられるだろう。

 ――欲を言うなら、やる前にあらかじめ目的を伝えておいて欲しかったが。
 ともあれ虫歯じゃないと分かったワケだし、結果オーライとすることにした。

「あ、ありがとさん……でも、口ん中に手まで突っ込まなくても……気持ち悪いだろうに」
「別にそうでもないけど」

 ……あれ、これ俺が間違ってるの?
 普通、他人の涎なんぞ少しでもついたら気持ち悪いもんでしょ?

 唾液塗れの右手を見下ろし、開いたり閉じたりさせながら事も無げに述べる九々。
 どうもズレたその反応に、思わず首を傾げてしまう夜行。

「ちょっと待ってて、手洗ってくるから」
「あーうん、待ってます……」

 気分的に何となく、正座して頷く。
 それを見た九々はさもおかしそうに、クスッと笑い。
 洗面所へと、きびすを返した。

「…………♪」

 夜行に背を向け、数歩ほど歩いたあたり。
 恐らく殆ど無意識にだろう、思考の伴っていない仕草で以って。


 ――れろっ


 彼女は、赤い舌先を。
 唾液で濡れた指に、ゆっくりと這わせるのだった。





「あ、ヤナギからラインだ。『今5人目の女の子にビンタされた、慰め希望』だって。これってナンパ失敗が5人目なのか、それともビンタまでされた相手が5人目なのか……どっちだろ」
「どっちにしろ憐れね……アイツの場合、ほぼ100パー自業自得だろうけど」

 暇だからどこか行こうなどと話したり、無駄なことをしたりする内、時刻は早くも昼間近。
 そんな、割とよくありそうなパターンに入っていた2人は、揃って夜行のスマホ画面を覗き込んでいた。

「なんて返そうか。お望み通り温かい言葉でもかけるべき? それとも厳しい現実を知らしめた方がいい?」
「相手するだけで付け上がるんだから、既読スルーしとけば」

 ちなみにもしも九々が夜行や躑躅に既読スルーされた場合、下手すれば泣く。
 それ程の提案をぞんざいに出すあたり、平助の扱いレベルが窺えた。

「つか委員長、グループトークなんだから自分のでも見れるよ? 窮屈じゃない?」
「ん、へーき」

 夜行の肩に頭を乗せ、外で出しているものより硬さの抜けた声音で答える九々。
 その間に、新しいメッセージが受信された。


 雅近『オレは今シナモンロールとガトーショコラを片付けるので忙しいんだ、下らんことで連絡するな』


「……伊達君、今何してるのよ……」
「確か今日のオフ会、どっかの高い店でやってるスイーツバイキングでとか言ってたな」

 それはオフ会の場として、果たしてどうなのか。
 参加したことも参加する予定もない九々としては、判断に困る疑問だった。


 平助『んだと伊達っち! テメーは傷ついた友とケーキと、どっちが大事なんだよ!?』
 雅近『ケーキ。他に選択肢ないだろうが、たわけ』


 平助のメッセージ送信から、2秒足らずで返信されていた。
 恐らく、次の台詞を予想していたのだろう。

 相変わらず頭の回転の速さは驚異的だが、その使い道に難のある男である。
 もう少し、世の為人の為になることは出来ないのだろうか。


 雅近『ところで持ち帰り可の店なんだが、何か食いたいものはあるか? 有名店だけあって大抵揃ってるぞ、どうせ金払うのはオレじゃないからな』
 平助『マジで!? じゃあ俺っち、モンブランとザッハトルテで!』


 そして頭がいいだけあって、怒りや憤りの逸らし方も流石だった。
 否、この場合はケーキひとつに釣られた平助の方を単純と言うべきか。

「まあ、柳本がフられるなんて日常茶飯事だし……でも、ザッハトルテ? アイツってチョコレート好きじゃなかったわよね?」
撫子なでしこさんの分だろ。ヤナギが自分1人だけケーキとか食うワケないし」

 夜行の言葉で、平助が歳の離れた姉と2人暮らしだったことを思い出す九々。
 彼女は直接会ったことはないけれど、話に聞く限り、弟とは似ても似つかないよく出来た人らしい。
 曰く、兄弟姉妹の片方が駄目だったら、もう片方がしっかりする現象のこの上ない実例、とのこと。

「……お姉さんと仲良いのね、柳本」
「ヤナギは殆ど撫子さんに育てて貰ったから。半分母親みたいなもんだよ、あれは」
「…………」

 きょうだい。そして、母親。
 それ等の単語から連想される存在達が浮かび上がり、九々の表情かおへとおもむろに影が差す。

 ――彼女は家族というものを、欠片も信じていない。

 本当に辛い時、助けてくれなかったから。
 膝を抱えて座り込んだ自分に対し、見て見ぬ振りを決め込んだから。

 そんな者達を、九々はもう。
 ほんの少しだって、信じることは出来なかった。

 ……だから。
 当たり前のようにかぞくを慕い、思い遣れる平助が。
 ちょっとだけ、羨ましくもあった。


 千影『俺様にも幾つか頼む。よく分からんから、適当でいいぞ』
 躑躅『私、久し振りにオペラが食べたいです。近くのケーキ屋さんには売っていないので』
 平助『なんかわらわら会話に参加してきたぞ! 俺っちの嘆きはガン無視されたのに!!』


「……戌伏君。私、ショートケーキ。苺がいっぱい乗ってるやつ」
「りょーかいっと。あー、俺はどうすっかな……とりま見たことも無いやつ頼んどこ」


 夜行『委員長が苺たっぷりのショートケーキ希望。俺はこう、珍しげな感じのを』
 雅近『うけたまわった、必ず持って帰ろう。今、委員長と一緒なのか?』
 夜行『暇だったので朝から委員長の家に居るナリ。ヒマヒマ言ってる内に昼んなっちゃったけど』
 平助『んだとゴルァ! 人の嘆き無視した挙句、自分は女とイチャついてたってのか!? ゆ゛る゛ざん゛ッ!!』
 夜行『相手は委員長だっつの。変な言いがかりつけんなや』
 躑躅『そうですよ柳本君、発言が不適切です。取り敢えず謝って下さい、私に』
 平助『なんで!?』


「……頭ごなしに否定されると、それはそれで傷付くんだけど」
「でもここでノッたら、今日フられた腹いせと怨嗟の矛先がこっちに向くよ? 例えば『手首のスナップ利いたビンタをお前に叩き込む行列が出来てる間、俺は可愛い女の子の家で2人きりだったぞ、どうだ羨ましいか負け犬野郎』なんて送ってみ、それこそ1日中呪いの言葉を呟かれて――」


 夜行『手首のスナップ利いたビンタをお前に叩き込む行列が出来てる間、俺は可愛い女の子の家で2人きりだったぞ、どうだ羨ましいか負け犬野郎』
 平助『呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪って呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪ッ!!!!』


「あははは、ホントね」
「って、何を送っちゃってますの!? うわすげえ、立て続けに呪いが送られてきやがる……アレ、『呪』ってこんな字だったっけ……?」

 俄かには信じ難い勢いで、呪詛が瞬く間に画面を埋め尽くす。
 それを見て早くもゲシュタルト崩壊を引き起こしかけていた夜行は、やがてハッとなると、軽く九々を睨んだ。

「なんてことしてくれんだ委員長! 絶対果てしなく続くぞこれ!!」
「何日かブロックリストに入れとけばいいじゃない」

 ちなみに九々がもしも夜行や躑躅に30分でもブロックされた場合、下手しなくても大泣きする。
 そんな行いを平然と提案するあたり、彼女の平助に対する扱いの適当さが察せた。

「……前々から思ってたけど、もしかして委員長ヤナギのこと嫌い?」
「好きよ。戌伏君の3割、鳳龍院さんの3分の1、鬼島君の0.5倍、伊達君の60%くらいは」
「…………えーっとえーっと」

 やたら具体的な数字を出されるも、計算の苦手な夜行はそもそもどうやって解を弾き出せばいいのかすら分からない。
 ちなみに1番高い夜行を10と仮定した場合、各々の数字はこうなる。

 夜行:10
 躑躅:9
 千影:6
 雅近:5
 平助:3

 ……どう取り繕っても、高いとは言えない平助だった。

「ぐおぉぉ、分からん……! 頭が、頭がぁ……!!」

 そしてそれほど難しい計算でもないにも拘らず、頭痛に苛まれる夜行。やはり残念知能だった。
 とは言え、同じ問題を出せば脳がオーバーヒートを起こすだろう千影よりは、辛うじてマシだが。

 まあ、比べるだけ虚しい五十歩百歩である。

「はいはい考えない考えない、どうせ正解出ないんだから」
「バカにすんなー! アレだよ、俺の数字を44ユーロとしたら……ヤナギは75ドルだ!」
「ユーロだのドルだの一体どこから出てきたのよ、意味分かんないわよ」

 ――果たしてどんな計算をすれば、このような結果が出てくるのか。
 全く以ってスピリチュアルとしか、言い様がない。





「結局何もせずダラダラ駄弁っただけで、1日過ぎてしまった……」

 窓辺に立ち、初夏の夕陽を細まった眼差しで見つめつつ。
 何やらもの悲しい心地になりながら、ぽつりと呟いた夜行。

「ヤナギからの呪詛は向こうのバッテリー切れでさっきようやく止まり、鳳龍院さんからは委員長と2人きりというワードの意味合いについて、何故か詳細な説明を執拗に求められ……纏めて感想を述べるのなら、やたら疲れた」
「お疲れ様ー」
「なんて気の抜ける労いの言葉……つか、元はと言えば委員長が……ああぁぁあ、もういいや……」

 クッションを抱き締め、ソファに寝転がる九々へとジト目を送る。
 が、歩み寄って傍らに座ると、飼い猫のように甘えた仕草で膝へ頬を摺り寄せられ、そんなことを続ける気力も失せてしまう。

 そもそも夜行は疲れただけで別に怒っているワケではないし、過ぎたことをとやかく追求するのもガラじゃない。
 実際、もう殆どどうでも良くなりつつあった。

「つか今何時だ……」

 ふと時計に視線を向けてみれば、いつの間にやら午後7時近く。
 夏場は日照時間が長い所為で、感覚が麻痺してよろしくない。

 ぽんぽんと、九々の頭を軽く叩きながら。
 夜行は立ち上がって、背筋を反らすように伸ばした。

「あー……委員長、俺ボチボチ帰るわ」
「……え?」

 テーブルに置いてあったスマホをポケットに放り込み、首を幾度か鳴らす夜行。
 そんな彼の裾を、きゅっと掴む九々。

「ま、まだいいじゃない……晩御飯くらいご馳走するし、なんなら部屋もあるんだから泊まって行っても……」
「いやいやいやいや、それあかんやつだから。1人暮らしの同級生女子の部屋にお泊りとか、ブログが炎上する」
「……ブログなんてやってないでしょ」
「そう言やそうだった」

 以前一度やろうと思ったが、やり方がよく分からなかったのでやめている。
 インターネットは難しい。

 不満そう、ともすれば寂しそうな目で見上げてくる九々。
 心の柔らかい部分が的確に締め付けられる眼差しに、夜行は喉奥で唸り、たじろぐ。

 思わず前言を撤回したくなってしまうが、やはり公序良俗的には完全なアウト。
 纏わりつく葛藤を振り払い、裾を掴む彼女の手にそっと自分の掌を重ねる。

「んな顔で見ないでくれって……困るから」
「……そう、ね。わがまま言って、ごめんなさい」

 しゃらっと髪を鳴らすようにかぶりを振って、九々は名残惜しげに裾を離す。
 そしてゆっくり歩き始めた夜行の後へと続き、1人暮らしには少々大き過ぎる玄関までついて行く。

「じゃ、今日のとこはおいとまするわ」
「うん……」

 気落ちした声音。
 顔を半ば以上俯かせ、後ろ手に組んだ姿は彼女の華奢さが際立ち、いつもの気丈な振る舞いは影も見当たらない。

 ――帰り際は、いつもこうだった。

 嘗て受けた深い傷ゆえ、血を分けた家族すら信じられず。
 そんな家族の方からも腫れ物を扱うように遠ざけられ、独りで居ることを望んだ少女。

 けれど、独りきりで居続けられるほど強くもなかった九々にとって。
 最早唯一絶対とすら呼べる夜行達ともだちの存在は、他人には想像も出来ないくらい重い。
 それこそ、依存にも近いほど。

「……せいっ」
「あうっ」

 しおれた様子の友人を見て居た堪れなく思ったのか、夜行がおもむろに彼女の頭へと手を置く。
 そして黒漆のような艶を持つサラサラの髪を、わざと雑っぽく撫でた。

「わ、ちょ、戌伏君……?」
「ほら、泣かない泣かない。別に帰ったからって、どこか遠くに消えるワケじゃあるまいし」
「な、泣いてなんかないわよ!」

 弱々しく身をよじり、夜行の手から逃げようとするフリ・・をしながら。
 顔を赤くさせて、九々は反論する。

 ……確かに泣いてはいなかったし、無論夜行もそれくらい分かっていた。
 ちょっとからかった方が、こうした場合には雰囲気が軽くなる。
 何かと対人トラブルを起こし易い雅近のフォローを長年続けたことで培った、コミュニケーション術の一環であった。

「委員長の髪ってホント綺麗な。シャンプーのCMに出てる人も形無しだ」
「ッ……」

 ――容姿を褒められるのは、好きじゃない。
 髪を触られるのは、もっと好きじゃない。

 でも……友達は別。
 褒められれば嬉しいし、髪を撫でられると安心する。

 一見した仕草は雑だが、ラテアートも片手間にこなす器用な手先での、痛みや不快さなど全く感じない絶妙な具合で撫でられる内に。
 どこか強張っていた九々の肩から、余計な力が抜け落ちて行った。

「そーだ。明日はみんな暇だって言ってたし、久し振りに6人で何処か行こっか。ボウリングなんかどう?」

 ひとしきり撫でた後、髪に絡めた手を離し、最後に軽く額を指先で小突き。
 そう訊ねた夜行の言葉に、九々はいつもの意識して吊り上げさせたそれではなく。
 目尻が柔らかく垂れ下がった、彼女本来の眼差しで。

「――うんっ!」

 咲くような笑みを浮かべ、大きく頷いた。





 ――ちなみに。

「…………あの、ごめん委員長……これ、マサからお土産のケーキ。生ものだからさ、ホラ……」

 夜行が帰ってから、僅か30分後のこと。
 雅近の土産の件をすっかり忘れていた彼は、結局それを届けにもう一度、彼女の家へと足を運ぶことになるのだった。
 なんとも、締まらない話である。





 九々はあまり夜更かしをする方ではなく、11時か12時頃には床に就く。
 今日もその例に漏れず、11時を過ぎたあたりでもう既に寝支度を整えていた。

「ふぁ……」

 お気に入りのパジャマ、猫のきぐるみ姿で小さく欠伸し、もそもそとベッドの中に潜り込む。
 明日は皆と外出。アラームをセットしているかちゃんと確かめ、明かりを消す前にテーブルの上に置いた写真立てへと顔を向ける。

 そこに写っているのは……自分と、5人の友人達。
 この世で無条件に信じることが出来る、たった5人の存在。

「おやすみ鳳龍院さん、鬼島君、伊達君、柳本……戌伏君」

 まどろみながら、呟いて。
 九々は静かに瞼を閉じ、眠りの中へゆっくりと沈むのだった。




 ――昔は、朝を報せる目覚まし時計のアラーム音というものが好きじゃなかった。
 欲しくもない明日を、私に運んでくるから。

 でも今は、朝が待ち遠しくて仕方ない。
 大切な人達に会える待ち望んだ明日を、私に運んでくれるから。


 ああ――早く明日が、来ないかな。




************************************************
 以下、作中用語などについての補足になります。

『眠りを推奨する目覚まし時計』:眠りから目覚めることに対し否定的な意見をアラームとして使っている目覚まし。アラームセットの時間帯によって喋る内容が変わるが、どれも起こすどころか寧ろ寝続けるように言ってくる。アラームを止めるまで喋り続ける上、理屈がましい内容は寝起きの頭で聞くとイライラするので、普通の目覚ましよりも寧ろ効果は高い。以前コンビニのくじ引きで夜行が当てたものを、九々が貰った。

『セイレーン・ゴスペラー』:とあるオンラインゲームでプレイヤー名『魔王』こと雅近がサブマスを努めているギルド名。総員13人、雅近以外が全員十代或いは二十代の女性と、ネトゲでは珍しく女性側へと男女比が極端に偏っている。個々の力量よりも連携能力などの組織性が異常なほど高く、ランキング一桁を常に維持する有名ギルド。

『九々の住むマンション』:最寄の駅から徒歩10分、築6年。3LDK、家賃12万円。オートロックなどのセキュリティはひと通り備わった、15階建てのマンション。1人で住むには広過ぎるが、通学距離と安全面の両立した物件がここしかなかった。彼女の部屋は516号室。

『お隣さん』:九々の住む部屋の隣、515号室に住むお隣さん。会社員の父と専業主婦の母、高2の息子の3人家族。通う高校は川ヶ岬とは別の県立校。2年少々前に引っ越してきた九々に一目惚れして、以来どうにかお近付きになりたいと思っている。ちなみに結果は言うまでもない。最近見かけた彼氏かも知れない男の存在に、気が気でない様子。

『柳本撫子』:平助の姉、27歳。職業はファッションデザイナー、その筋では割と有名人らしい。早くに両親を亡くし、弟を1人で育ててきた。姉弟仲は非常に良好で、平助も姉にだけは全く頭が上がらない。主にメンズのヤングファッション専門で、弟やその友人である夜行達を着せ替え人形にすることも。

『九々の髪』:美容師がビビるレベルでサラサラ。頭を振った際に髪が擦れてしゃらしゃらと音が鳴るのは、作中でも九々とホイットニーだけ。
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