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38.丘の上のお茶会

天空の魔女 リプルとペブル

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38.丘の上のお茶会

「お客様もいらしたことだし、お茶にしましょう」
 と、手袋を外して、マーサがバスケットの中からブランケットを出し、緑のやわらかい草の上に広げた。

「そ、そうね。ごめんなさい。私ったら、つい。この子は私のパルのペブル。こちらがマーサよ。スカーフをかぶっているのがイザベスです」
 と、リプルの言葉が終わらないうちに、イザベスは、ササッと頭に巻いていたスカーフを取り、うしろを向いて髪を整えたが、自分の右手の匂いをかいで思わず顔をしかめた。

 イザベスの手には、リギン草のあの果物のくさったような匂いがそこに染みついていたのだった。
 リプルとマーサが呪文を唱え、お皿やお菓子を出した。ペブルは、リプルたちが出してくれたお皿をブランケットの上に並べる。お皿とお菓子、お茶があっという間にととのった。
 
 イザベスは、必死になってリギン草の匂いを消そうと、あたりの花をつんではその蜜を手にすりこんでいた。
 けれど、臭い匂いを甘い香りでごまかしても、さらに悲惨なことになるばかり。
 イザベスは、王都土産のパフュームを持ってこなかったことをはげしく後悔した。

 青空の下でふたりの魔法士と4人の魔女たちのお茶会がはじまった。
「いい香りのお茶だね。この地方では、ハッカのお茶を味わえるのか」
 ジールが、お茶の香りに目を細める。

「ジールたちの街には、ハッカはないの?」
 リプルが驚く。
「あるけど、乾燥させたハッカしか手に入らない。僕らの住んでいるところは石造りの建物ばかりだから」

 ジールが答えていてると、横から
「コホン。おふたりは、どちらからいらしたのかしら?」
 イザベスが気取って聞く。

「僕らは、王都からやってきた」
「んまぁ!! 王都ですって」 
 イザベスの目が輝いた。
 イザベスは王都に住む貴族と結婚して王都に住むのが夢なのだ。

「オルサト村には、旅行で来たの?」
「この地方の魔女学校中等部を訪ねてきたんだ」
「それ私たちの学校だよ!」

「そうか、みんな中等部の生徒なんだね。それじゃあ、僕やロッドとも同い年だ」
 ジールが笑顔になる。

 その時、少し離れた草むらで、ガサガサと音がした。みんなが、ハッと顔を見合わせる。
「まさか、また闇の天魔?」

 リプルは思わず立ち上がり、音のした方へと近づく。
「危ない」
 ジールとロッドが後を追った。

 リプルが草むらの前に立つと、中から燃えるような金色の目が二つ、こちらをジッと見ている。



 強い殺気を感じて、リプルは思わず後ずさりした。するとジールが、
「来てたのか、ファング」
 と、声をかけた。とたんに、スッと銀色のオオカミが立ち上がった。

「オオカミ!」
 リプルは思わず喜びの声を上げて、オオカミに近づいた。

「あぶない。そいつは、ジール以外誰にも、手を触れさせないんだ」
 と、ロッドが言いかけたが、ジールが
「いや、大丈夫そうだ」
 と、ロッドをさえぎり、リプルに説明した。

「彼は、僕の使い魔のファングだ」
「はじめまして、ファング」
 リプルは、軽く頬をそめながら、全くおくすることなくファングと呼ばれた大きなオオカミに近づいていく。
 そして、オオカミの目をやさしく見つめた。


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