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107.近づく気持ち
天空の魔女 リプルとペブル
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「僕は、よく似合っていると思うよ。その耳も含めて、リプルはリプルだ。僕の大事な、その……とても大切な」
ジールは言いよどんで、一つコホンと咳をした。
その目は真剣で、だけど同時に顔が赤らんでいる。
リプルは、ドキドキしながらジールの次の言葉を待っている。
しかし、何か大切なことを言いかけたジールは、じっと下を向いて考え込んでしまった。
二人の間に静かな時間が流れた。
リプルには、それでもう充分だと思えた。
リプルは静かにほほえんだ。
ジールもまいったなと言うように頭をかいた。
しばらくすると肩の力が抜けたのかジールは、ふたたびリプルの目を、今度は優しく見つめながら口を開いた。
「それに、僕も君に黙っている秘密があるんだけど、そのことで、リプルは、僕を嫌いになるかな?」
リプルは、ゆっくりと左右に頭をふった。
「ジールは、ジールだよ。どんな秘密があったとしても」
「よかった。僕もリプルに対して同じ気持ちだったから」
リプルの顔が輝いた。
もしも、ジールがオオカミの耳を持っていたとしても、私はジールのことを嫌いになったりなんかしない。
そう自信を持って思えた。
でも、その気持ちを裏返すと、ジールが今、私に対して思っている気持ちなんだ。
リプルの肩から、力が抜けた。
「ありがとう、ジール」
「王都についたら、僕の秘密をリプルに正直に言うよ。それでも、僕のことキライにならないでいてくれたら嬉しいけど」
「もちろんですわ、王子様」
ジールが目を見開いた。
「リプル、知ってたのか?」
「最初は気づかなかったの。でも、はじめて会ったときから、どこかで見た顔だと思っていて。思い出したのは、動物園のライオンの話を聞いた時」
「ライオンの?」
ジールが不思議そうに首をかしげる。
「小さい頃に、図書館に貼ってあった王室ニュースの記事を読んで、ライオンに乗れるなんて、なんてうらやましい
って思ってたの。王子様ってすごいな、うらやましいなって」
「もしかして、そこに載ってた写真って」
「そう、ライオンにまたがって得意そうな顔してるセント・クリストファー・フォン・ジールフリート君の写真」
「やられた」
どちらからともなく、プッと吹き出すと、二人は顔を見合わせて笑った。
リプルは、なんだか心がくすぐったいと思った。胸のあたりがホカホカして、くすぐったく、それでいて思わず走り出したくなるような、そんな複雑な感情が入り混じっていた。
その時、前の方からドドドッと足音が聞こえてきた。
みんなが戻ってきたようだ。
向かい合い、手を握りあっていたままだったことに気づいたリプルとジールは、あわてて離れた。
「いた。もう今度はジールとリプルが迷子になるとこだったじゃん」
「ホントですわ。心配しましたのよ、ジール様」
「ごめん、ごめん、ちょっとリプルと話こんでて」
ジールはちらとリプルの目を見た。
リプルはその視線を受け止め、ちょっと目を伏せた。
「まっ、私を差し置いて。しかも何でしょう、ここに何か幸せオーラが漂っていませんこと? おだやかじゃありませんわね」
するどい目つきで二人を見比べるイザベス。
「ダメダメ、イザベス、焼き餅は厳禁よ。また、あいつらに魂を乗っ取られちゃうから」
「わ、わかりましたわ。マーサ」
厳しい声でイザベスをたしなめるマーサと、素直にわかったと答えるイザベス。
いつものイザベスとマーサの立場が逆転したみたいだった。
「この先、あと百段くらい階段を上れば、地上に出られそうだ。王都でディナー食べるためにがんばろうぜ」
ロッドの声にみんなが、おーっと返事をした。
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