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001【ジュグルータとニール】
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銀色の荷車を手に入れ喜ぶ主人は、惣一郎殿と別れた晩に私を部屋に呼び出した。
コンコン
大きな机に座る主人は、部屋に入るなり子供の様な目で、
「ニール! 見たかあの荷車! あの様な精密な物この辺り…いや他所の国でも見た事がない!」
この様に興奮する主人は、久しく見た記憶がない。
「私の読みは当たっただろ! 森で会った時からあの者は只者じゃ無いと思っておった。恩を売れば絶対に倍、いやそれ以上で返って来ると思った通りであったは!」
流石は商人と言った所だろう、主人の読みはいつも正しい。
一代で大きな商会を築き上げた主人は、いつも人の先を読む。
「しかし、ゴルゾからまさかあの娘を買うとは……」
私は元冒険者であるが、この仕事に就くために早めの引退をしただけで、まだまだ現役のつもりでいた…… なのにあの少女には何もできなかった。
決して油断したわけでは無い、主人の恩人とは言え冒険者の力を教えようと真剣に向き合ったが、逆に教えられたのは私の方だった。
銀の疾風…… 聞いた話以上だった。
明日、手に入れた荷車のうちの1台を知り合いの商会に卸すと言うので護衛として付いていく事に……
翌朝、使用人の朝は早い。
まだ暗いうちから厨房で火を起こし、メイド長と本日の予定などを朝食を摂りながら話し合う。
陽が登り始める頃、庭で騎士の方々と訓練をする。
まだまだ騎士には引けを取らない。
その頃にはメイド達が主人を起こし、食事を摂っているだろう。
良い汗を流した私は、冷たい水で体を流し着替えてエントランスで主人を待つ。
「おはようニール」
「おはようございます」
「今日は大事な商談になる、よろしく頼むよ」
「かしこまりました、お任せ下さい」
馬車に乗り込む主人を見届け、馬に乗り前を進む。
ムイの町から北西に半日行った所にある、ロクの町を目指す。
以前から主人が懇意にしている商人を訪ねる為に。
馬車の後ろでは、惣一郎殿から手に入れた荷車を引く使用人達が、騒ぎながら付いて来る。
「何の騒ぎだ」
聞けば、大量の荷を積んでるにも関わらず、軽いのだと言う。
性能が良いということか?
興味が湧く。
馬を降りて、確かめてみる。
「はっ? なんだコレは! 軽いなんてものじゃない!」
思わず声を出してしまう程の衝撃だった。
主人は知っているのか?
馬に乗り主人の馬車まで急ぐ。
「主人様! ジュグルータ様!」
「どうしたニール! そんな血相かえて!」
馬車を止め、窓から顔を出す主人に、惣一郎殿から譲り受けた荷車が異常な事を伝える。
馬車から降りた主人は私の話し方で只事では無いとお気付きになり荷車のところまで走る。
精巧な作りで銀に輝く軽いだけの荷車では無いと引いたことのない主人に体感してもらう。
「な! なんだこれは!」
すぐに荷をおろさせ移動中にも関わらず荷車を調べ始める主人。
空の荷車は重さを変えず、スイスイ進む。
主人は乗り心地も確かめると更に驚く。
「いかん! 全てキャンセルだ!」
「先方には詫びにと、その荷物をタダで渡して来い!」
「ニール! 戻るぞ!」
主人は、馬車に戻らずそのまま荷車に乗ってお戻りになる。
ムイの町に戻ると主人は、荷車に詳しい技術者を集め招く様に従業員に指示をする。
「ニールよ、気付いたか? これは魔道具の類じゃ無い! 魔力を感じんのだ!」
「ええ主人様、誰にでも扱える新技術と言う事ですね」
「そうだニール! 革命が起きるぞ! 馬車の荷車の!」
それから数日後、近隣から集められた技術者に主人は荷車を披露する。
驚く技術者達……
中でもドワーフの[ココリ]殿は並々ならぬ関心を寄せる。
「今までにない、全く新しい発想じゃ! こんな技術何処から、神の国にでも行って来たのか? ジュグルータよ」
「いえ、偶然出会った男性から買い取ったのですが…… そうですね神の国から来た者かも知れませんな」
ジュグルータは技術主任をココリに任せ、2台の内1台を解体する許可を出す。
そこからは何度も何度も壁にぶつかりながら、その神の国の技術を手に入れようと、苦難の日々を送る事になる。
「この金属の螺旋状の物は一体……」
「薄い筒の中の小さな玉は…… 油まみれではないか……」
「この黒い鉄は、何故ここまでの弾性を……」
子供の様な目をしながら、一つ一つ謎の解明に主人も参加し、昼夜を問わず、研究は続く。
「ニール! 鉄に詳しい武器屋を当たってくれ」
「ニール! この黒い弾力のある素材に心当たりは無いか?」
「ニール! 明日には貴族の晩餐会に出なくては行けないのだが、流行り病と断ってくれ!」
「ニール! ニール! ニール!!」
これ程何かに夢中になる主人を私は知らない。
髭も剃らず、ココリ殿と変わらぬ風体では無いか。
主人は何かに取り憑かれたのだろうか……
しばらくすると、倉庫から大きな歓声が聞こえて来る。
「ニール! 完成だ! お前も見てみろ!」
主人は興奮なされていた。
倉庫にはまだ、馬車とも荷車とも呼べない車輪の付いた板があった。
ココリ殿も、技術者の方々も皆、完成に子供の様にはしゃいでおられた。
進められるがまま、その代車を引くと確かに軽い!
私は銀の荷車程では無いが余りに軽くスピードが乗ると止める方が困難な荷車を知らない。
「素晴らしい!」
振り返ると荷台のコップに注がれた水は一滴も溢れていなかった。
「主人様、完成ですね! おめでとうございます」
「ああ、ニールよ! これからだ! 安定した製造と供給を目指す!」
どうやら主人はこの商会を世界で名を聞く大商会になさるおつもりの様だ。
その後、ジュグルータ商会から売り出された馬車や荷車は、この国で大きな革命を起こし、大きな反響を呼び、ノイデン共和国御用達にまで成り上がる。
マイセルージ大陸中に[銀馬]の名称で知れ渡る事になる。
ジュグルータ商会も規模を大きくし、今では肩を並べる商会はいない程であった。
その大きな城の様な商会の会長室で、豪華な椅子に座る主人が、
「ニールよ、あの者との、惣一郎殿との出会いを神に感謝しなくてはな……」
「主人様、彼の方が神だったのかも……」
コンコン
大きな机に座る主人は、部屋に入るなり子供の様な目で、
「ニール! 見たかあの荷車! あの様な精密な物この辺り…いや他所の国でも見た事がない!」
この様に興奮する主人は、久しく見た記憶がない。
「私の読みは当たっただろ! 森で会った時からあの者は只者じゃ無いと思っておった。恩を売れば絶対に倍、いやそれ以上で返って来ると思った通りであったは!」
流石は商人と言った所だろう、主人の読みはいつも正しい。
一代で大きな商会を築き上げた主人は、いつも人の先を読む。
「しかし、ゴルゾからまさかあの娘を買うとは……」
私は元冒険者であるが、この仕事に就くために早めの引退をしただけで、まだまだ現役のつもりでいた…… なのにあの少女には何もできなかった。
決して油断したわけでは無い、主人の恩人とは言え冒険者の力を教えようと真剣に向き合ったが、逆に教えられたのは私の方だった。
銀の疾風…… 聞いた話以上だった。
明日、手に入れた荷車のうちの1台を知り合いの商会に卸すと言うので護衛として付いていく事に……
翌朝、使用人の朝は早い。
まだ暗いうちから厨房で火を起こし、メイド長と本日の予定などを朝食を摂りながら話し合う。
陽が登り始める頃、庭で騎士の方々と訓練をする。
まだまだ騎士には引けを取らない。
その頃にはメイド達が主人を起こし、食事を摂っているだろう。
良い汗を流した私は、冷たい水で体を流し着替えてエントランスで主人を待つ。
「おはようニール」
「おはようございます」
「今日は大事な商談になる、よろしく頼むよ」
「かしこまりました、お任せ下さい」
馬車に乗り込む主人を見届け、馬に乗り前を進む。
ムイの町から北西に半日行った所にある、ロクの町を目指す。
以前から主人が懇意にしている商人を訪ねる為に。
馬車の後ろでは、惣一郎殿から手に入れた荷車を引く使用人達が、騒ぎながら付いて来る。
「何の騒ぎだ」
聞けば、大量の荷を積んでるにも関わらず、軽いのだと言う。
性能が良いということか?
興味が湧く。
馬を降りて、確かめてみる。
「はっ? なんだコレは! 軽いなんてものじゃない!」
思わず声を出してしまう程の衝撃だった。
主人は知っているのか?
馬に乗り主人の馬車まで急ぐ。
「主人様! ジュグルータ様!」
「どうしたニール! そんな血相かえて!」
馬車を止め、窓から顔を出す主人に、惣一郎殿から譲り受けた荷車が異常な事を伝える。
馬車から降りた主人は私の話し方で只事では無いとお気付きになり荷車のところまで走る。
精巧な作りで銀に輝く軽いだけの荷車では無いと引いたことのない主人に体感してもらう。
「な! なんだこれは!」
すぐに荷をおろさせ移動中にも関わらず荷車を調べ始める主人。
空の荷車は重さを変えず、スイスイ進む。
主人は乗り心地も確かめると更に驚く。
「いかん! 全てキャンセルだ!」
「先方には詫びにと、その荷物をタダで渡して来い!」
「ニール! 戻るぞ!」
主人は、馬車に戻らずそのまま荷車に乗ってお戻りになる。
ムイの町に戻ると主人は、荷車に詳しい技術者を集め招く様に従業員に指示をする。
「ニールよ、気付いたか? これは魔道具の類じゃ無い! 魔力を感じんのだ!」
「ええ主人様、誰にでも扱える新技術と言う事ですね」
「そうだニール! 革命が起きるぞ! 馬車の荷車の!」
それから数日後、近隣から集められた技術者に主人は荷車を披露する。
驚く技術者達……
中でもドワーフの[ココリ]殿は並々ならぬ関心を寄せる。
「今までにない、全く新しい発想じゃ! こんな技術何処から、神の国にでも行って来たのか? ジュグルータよ」
「いえ、偶然出会った男性から買い取ったのですが…… そうですね神の国から来た者かも知れませんな」
ジュグルータは技術主任をココリに任せ、2台の内1台を解体する許可を出す。
そこからは何度も何度も壁にぶつかりながら、その神の国の技術を手に入れようと、苦難の日々を送る事になる。
「この金属の螺旋状の物は一体……」
「薄い筒の中の小さな玉は…… 油まみれではないか……」
「この黒い鉄は、何故ここまでの弾性を……」
子供の様な目をしながら、一つ一つ謎の解明に主人も参加し、昼夜を問わず、研究は続く。
「ニール! 鉄に詳しい武器屋を当たってくれ」
「ニール! この黒い弾力のある素材に心当たりは無いか?」
「ニール! 明日には貴族の晩餐会に出なくては行けないのだが、流行り病と断ってくれ!」
「ニール! ニール! ニール!!」
これ程何かに夢中になる主人を私は知らない。
髭も剃らず、ココリ殿と変わらぬ風体では無いか。
主人は何かに取り憑かれたのだろうか……
しばらくすると、倉庫から大きな歓声が聞こえて来る。
「ニール! 完成だ! お前も見てみろ!」
主人は興奮なされていた。
倉庫にはまだ、馬車とも荷車とも呼べない車輪の付いた板があった。
ココリ殿も、技術者の方々も皆、完成に子供の様にはしゃいでおられた。
進められるがまま、その代車を引くと確かに軽い!
私は銀の荷車程では無いが余りに軽くスピードが乗ると止める方が困難な荷車を知らない。
「素晴らしい!」
振り返ると荷台のコップに注がれた水は一滴も溢れていなかった。
「主人様、完成ですね! おめでとうございます」
「ああ、ニールよ! これからだ! 安定した製造と供給を目指す!」
どうやら主人はこの商会を世界で名を聞く大商会になさるおつもりの様だ。
その後、ジュグルータ商会から売り出された馬車や荷車は、この国で大きな革命を起こし、大きな反響を呼び、ノイデン共和国御用達にまで成り上がる。
マイセルージ大陸中に[銀馬]の名称で知れ渡る事になる。
ジュグルータ商会も規模を大きくし、今では肩を並べる商会はいない程であった。
その大きな城の様な商会の会長室で、豪華な椅子に座る主人が、
「ニールよ、あの者との、惣一郎殿との出会いを神に感謝しなくてはな……」
「主人様、彼の方が神だったのかも……」
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