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第十章

九話 【ワーテイズ城】

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「スレイプニールだ!」

「何が?」

「……いや、なんでもない」

喉のつかえが取れた惣一郎は、そろそろ休憩を希望する。

ふわふわと慣れない馬車は、やはり酔う。

「もうすぐ着きますので!」

え? まだ3時間位しか経ってないが。

1日の距離を3時間って……

浮いてるお陰で道も選ばないそうで、バカボン様々である。

あ、ワカボン!

徐々にスピードが落ちると、車輪が地面に着く。

ガラガラと振動が急に伝わってくる中、ヒロヨシーが一生懸命、天井のレバーを回し始める。

パラシュート回収かな?

急な振動で、寝ていたベンゾウとクロが起きる。

周りは真っ暗だが、まだ店がやってる時間なのだろう、先に明かりが見えて来た。

ゆっくりスピードが落ち、検問も通らず裏からあっさりと街の中に入る。

王都のギルマスは、結構な権力をお持ちの様だ。

煌びやかな街並みを過ぎ、ギルドだろう建物の前で止まると、

「惣一郎殿は、不可視のテントをお持ちとか、今晩はギルド内の訓練場のある中庭を、ご自由にお使いください」

「何でも知ってるんですね~ まぁ、助かりますが」

「今や時の人ですからね! 明日の朝に迎えに来ますので、何かあればギルド職員にお申し付け下さい」

馬車を降りたヒロヨシーは、そのまま建物へと消えて行く。

惣一郎はワカボンに礼を言って、中庭へ案内される。

中庭は広く緑も多かったので、遠慮なく木の根元にテントを出す。

ソファーに腰掛けるとベンゾウが「夕飯は?」と言って来る。

最近この子と食事以外の会話したか疑問に思う。

消臭剤のお陰で、満足行かない結果となった刺身で、海鮮丼に挑戦する。

美味い!

やはりワサビと醤油は、鼻が大事と目頭が熱くなる。

そして、ベンゾウはワサビが苦手とわかる。

「なぁ、流されて王都まで来ちゃったが、どう思う?」

また漠然とした質問をする惣一郎だった。

「ベンゾウは何処行ってもご主人様と一緒なら」

「アタイも旦那様について行くだけだ」

ク~ン!(この緑のは毒か!)

それでも惣一郎は心配だった。

敵になるかも知れないベリルの魔法が、厄介と思ってだ。

「ヒロヨシーじゃないが、打てる手は全て先に打っておくか……」

「「 ???? 」」






翌朝、朝食を食べてると庭で叫ぶ人がいた。

「惣一郎殿~ どちらに~」

出るとヒロヨシーだった。

突然現れた惣一郎に驚きながら、

「おお~ 本当に見えないんですね~」

そう言われると不思議なのだ。

惣一郎にもベンゾウ、弁慶、クロにも見えているのに、何故他の人には見えないのだろうか?

ヒロヨシーの前で、テントを収納し新たに出す。

するとヒロヨシーにも今度は、うっすら見えるらしい。

騙し絵の様な物か?

あると知ってれば見つけられるが、知らないと気付かない騙し絵そのものだ。

「ところでヒロヨシーって変わった名前ですよね? ヒロヨシーの種族では普通なんですか?」

「えっと…… ヒ・ロヨシーです」

「はい?」

「[ヒ]が名前でロヨシーが家名です」

「あ、貴族の方でしたか! あはは~」

「畏まらず、今まで通りで結構ですよ!」

不敬罪になる所だった……

「どの道変な名前だね! ケラケラケラ」

コラコラ、捕まってしまいなさい。

「ハハハ、では参りますか」

人の良い、ヒさん…… 言いづらい。

人の良いヒロヨシーの案内で、崩壊した城へ向かう。

昨夜は気付かなかったが、街はやはり襲撃から余り経ってない事もあり、人が少なかった。

生々しく崩壊した城のすぐ下に、仮設の建物が建っている。

崩壊した城ではまだ救出作業をしているのだろうか、作業員が瓦礫を撤去していた。

ベリルはコレを一人でやったのか……

惣一郎は瓦礫の山から目が離せなかった。





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