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僕と泣き虫。
しおりを挟む「ねぇ、好きだよ。」
僕が言うと君は泣きそうに笑う。
好きだよ。ずっと。
僕が死ぬまで。
何てことない日常を壊されたのはいつだったかもう覚えてはいない。
病院で言われた貴方の寿命はー、何てまるでドラマみたいで、思わず笑ってしまった。
「先生、死ぬのが決まっているなら僕は自由に生きたい。だから、入院はしない。悔いなく生きたい。」
薬と通院は決められたがそれはしょうががないかと諦めた。
暫くして、君に出会った。
鼻を啜りながら泣く君に、思わず声をかけてしまった。
「目も鼻も真っ赤だ。見知らぬおにーさんが慰めてあげよう。」
そこら辺で渡されたポケットティッシュを渡し、飴を口に放り込んだ。
「むぐっ!いきなり何すんの!」
彼女は変な男にいきなり飴を入れられ怒った。
「さぁさぁ、おにーさんといろんな話をしよう。」
様々な話を彼女とした。
コンビニの店員の話。1人カラオケの楽しさ。友人達との馬鹿騒ぎ。
少しでも泣いてる彼女の為に楽しく、可笑しく話をした。
「何?そんな馬鹿なことしてんの?あんた。」
笑う彼女を見て、僕も嬉しくなった。
「あ、そろそろ帰らないと。ありがと。知らないおにーさん。」
その言葉でもう会うこともないのだと寂しくなったが一期一会と言うことだろう。
まぁ、再会は次の日だったが。
また泣いていた。
「あ、おにーさんだ。うんぶふぅ!」
口に飴を押し付けた。
また、話をした。年齢や住んでいるところ、名前は教えないし知ろうともしない。
おにーさんと泣き虫だ。
年齢がそんなに変わらないことには驚いたが。
昨日と同じ時間にまた別れた。
「泣き虫。次は泣いてないお前と会いたいな?」
頭をぐしゃぐしゃに混ぜてその場を急いで離れた。
少しずつ増えてきた発作だ。
苦しい。苦しい。息がしづらい。
薬をだし、飲んで落ち着くまで静かにする。
落ち着いてゆっくり歩き出す。優しくて優しくて残酷な家に。
まあ、二度有ることは三度有ると言うし。
今にも泣きそうな顔で歩く彼女に声をかける。
「泣き虫。遊びに行こう。」
驚いた顔をしてこちらに顔を向ける彼女に思わず笑ってしまった。
手をとって歩き出す。
目的地なんてない。
公園でもゲーセンでもショッピングモール。遊園地でもいい。
泣かなくてもいいなら。どこでも出掛けよう。
顔が熱い。心臓の音が聞こえるほどに大きな音。
発作じゃない。
でも発作であってほしかった。
気づいていた。
気づきたくなかった。
いつの間にか、好きになっていた。
泣いてばかりの彼女が。
「泣き虫。好きだよ。」
いきなりの告白で間抜け面をさらす彼女。可愛いなと思ってしまう。
「好きだよ。泣き虫。」
何度でも言うよ。
君の隣にいれる間なら。
付き合ったりはしない。名前も明かさない。泣き虫とおにーさんのまま、イビツな関係を始めた。
感情を表に泣いて、怒って笑う彼女の隣は心地がよかった。
「好きだよ。好き。大好き。」
言える時はいつも言った。
期限は限られているから。
彼女と出会って半年過ぎた辺りで、ついに僕は彼女の前で倒れてしまった。
病院のベッドで起きた。やらかしたと思った。
だって彼女が泣いている。
「泣き虫どーしたよ。また話そうか。」
関係の無い話をひたすらした。
誤魔化して誤魔化して、歪んだ笑顔を見せた彼女は、僕の携帯を差し出した。
すでに顔をあげなくなった彼女を見て、携帯の中を見たのだろう。
知人1、知人2、知り合い1、知り合い2、知らない人1、知らない人2。
名前で登録されていない電話番号たち。
「泣き虫。今日は帰ろうか。僕もすぐに病院から出られる。」
そういって、別れた。泣いてはいないが、泣きそうな顔をしていた。
「失敗した。次は強めの薬を頼もう。倒れないように気を付けないと泣き虫が泣く。」
病院のベッドに倒れ顔を手で覆い独り言を言う。
数日後、また会った泣き虫に前回の失敗を謝り、また話をした。
「おにーさん、私今度おにーさんとデートがしたい。」
「なら、楽しくなければ。どんなプランにしようか?」
待ち合わせをきちんとしてマンガのような感じにしよう。
定番な水族館とかどうかな。
お洒落を二人でして、洋服を誉める?
おにーさん、服のセンスある?
プリクラ撮ったり。写真も沢山撮ろう。
お昼はお弁当で、夜はディナーがいいな。
沢山プランを思い付く限り二人で言った。
とうとうその日が来て、定番の待った?待ってないをやり、水族館にいき、魚を見て、回転寿司に行った。
なんか無粋とか言われたが沢山食べていたし。
午後からはゲーセンに行き、UFOキャッチャーでぬいぐるみをとり、プリクラを撮った。
ディナーと言われたので、少し値を張るが夜景が良く見えるイタリアンレストランを予約していた。
「…本格的なのだ。」
驚いた表情をしていたが、コースが出てくると、目を輝かせて食べ始めた。
「可愛い。美味しい??泣き虫。」
すでに僕の味覚は無い。
多分薬の副作用だろう。
「ほいひい。」
口に頬張る姿を見て笑ってしまった。
そんな風に彼女と過ごしていたある日。また、僕は倒れてしまった。
「お願いだ。命を長らえるために入院をしてくれ。少しでも長く生きるために。お願いだ。」
先生に頭を下げられた。
もう上手く身体も動かせづらい。
何日寝ていた?彼女は?
「先生、僕、後何日生きれますか?」
カスカスの声で質問した。
あれ、僕こんな声だっけ?
「延命すれば一月は。」
治療が遅すぎた。
そんなことを言われてもあまり変わんなかったんじゃないかと思う。
目を開けているのも辛くなって目を閉じる。
声が沢山聞こえる。
うるさいな。静かにしてほしい。
気づくと病院のベッドの近くの椅子に座ってる人がいる。
寝ている彼女だ。
口についてるのが邪魔になって、むしりとる。
少し痛かったが、それを無視して話かける。
「…す、き、だよ。なきむし。」
口が半開き。こっくりしている頭をベッドの方に寄せた。
身体は軋むが、動かない訳じゃない。
聞こえないだろうが、ずっと好きといい続けた。
彼女が起きると、急いでナースコールを押された。
走ってくる音にため息を吐いた。
すでにばれているだろうが、名前は知らない約束だ。
「泣き虫、ちょっと外にいて。」
いろんな話をされた。まぁ、ほとんど聞いてないが。
「泣き虫、僕は後少しで死ぬんだ。泣き虫。僕がいなくなったら、僕より劣った男を探して、幸せに、…幸せじゃなくても普通に暮らせ。」
泣きながら部屋を出ていった隙に手紙を書く。
『知り合いへ。』家族宛。
『親友へ』知人1達。
『ストーカーへ』僕の護衛だった人。
『家族へ』家族にもう一枚。見つからないところへ隠す。
『泣き虫に』ありがとを込めて。
愛してます。好きです。
僕を自由にしてくれた家族。
様々な所へ連れていってくれた友人達。
僕を叱ってくれた人。
泣き虫。泣き虫。
好きだよ。
あぁ、遠くから音がする。
甲高い音が。
泣き虫が部屋に入ってきた。
あの足音は家族かな?
先生がきた。僕に何かしてる?
泣いている。
僕の泣き虫。
好き、だよ。
応援ありがとうございます!
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