再会ー男と親友の写真の話ー

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おまけの話

騎士達の日々(一年後)

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「ザック!」
「はい!」
名前を呼ばれ、一歩前に出る。

  一年ほど前に団長に連れられ、特別任務についた。街の商店で重要人物の警護だ。といっても、俺は商人に扮して少し会話した程度。
  当時王立騎士団の多くが携わったため、団員の間で噂になったのは、その重要人物が誰か、ってこと。予想第三位、隣国からお忍びで来ていた王子。予想第二位、若い騎士が多かったので、予告なしの実地訓練もしくは試験。予想第一位、お姿を誰も見たことがない、マーク王子!!
  しばらくはその話でもちきりだったが、日々の訓練や任務に噂も下火になった。だが、俺は違う。団長の『一年後』という言葉。その時が来るのを楽しみにしていたのだ。そして、その日が来た。

「今、呼ばれたものは、本日より王子の近衛騎士として任につく。」
年齢の幅広い十人の騎士が姿勢をただして整列する。もちろん俺もその中にいる。誇らしい気持ちで胸を張る。
「はい!」
  成人と同時に王子が即位する。王子の近衛騎士になるということは、王の近衛騎士になるということ。大出世だよ。
「王子の楯となり、その御身を守ることを誓います。」
声を張り、宣言した。

「ザック、おめでとう。」
「はい。ありがとうございます。団長の厳しいご指導あっての、自分です。騎士の名に恥じないよう、務めます。」
「この後、対面式だ。俺達は立ち入れない。へまするなよ。お前はたまに抜けた事するから、心配だよ。」
「大丈夫ですよ。団長。この一年、心身共に鍛練してきましたから。」
「そうか?」
そう団長は言うと、視界から消えた。後ろか!?
「!」
咄嗟に身構え、振り返ろうとした。

  するり

「ひぁぁ!」

思わず力が抜け、座りこんだ。
「まだまだ、だな、いつ、いかなる時も、どんな攻撃でも、対処する事。」
団長は背後にまわったとたん、尻を撫で上げ、耳に息を吹き掛けたのだ。気を許した団長相手で、意表をついた行動、そして感じやすい場所を刺激され、不覚にも腰砕けになってしまった。
「団長~セクハラっすよ。」
「いかなる、攻撃も、だ。」
「はい。ありがとうございました。」
 

「面を上げよ。」
  一年前に見た彼とは別人のような王子の姿に目が釘付けになった。
「じろじろ見るな、無礼であろう。」
側の宰相に小さく注意された。
「よい。皆の顔をよく見たい。」
王子は椅子から立ち上がり、ゆっくり歩いてくる。
俺達はそこに並んで片膝を付いたまま、近づく王子に圧倒されていた。
  なんと表現すれば良いのだろう。年若く、繊細な美しい姫のような顔立ちなのに、威圧感のある佇まい。違った印象が脳内を混乱させる。
  すでに、この方は王だ。
「ああ、君は会ったことがあるね。」
俺の前に立ち、顔を一目見て王子が言う。
「私の我が儘に、付き合わせたね。」
「そんな。もったいない。」
「公式の場でなければ、普段通りでいいよ?」
「申し訳ありません。それは難しいかと。」
「まあ、いい、徐々に慣れていけばいいよ。」
王子がニッコリ笑った。俺はその笑顔に心を奪われた。そこにいたすべての新米近衛騎士達も同じであろう。
「君は、屋台にいたね。串肉は初めて食べたよ。旨かった。」
一人一人声を掛ける。ここにいるほとんどがあの一年前の王子のお忍び行動に関わっていた。しかし、王子はそこにいたすべての騎士の顔を覚えているのか?
「あ、君は…」
バランの前で声を掛ける。
「あっ…」
バランが王子の手首にあるものを見つめた。 
「これ、ありがとう。いい記念になったよ。」
「も、もったいない。」
王子の手首にあるブレスレット。
……バランが言っていた、ブレスレットって、あれかぁ。いつもつけているのか?バランに言って作って貰おうかな……

  手先の器用なバランが露店で作って売ったというチャーム付きブレスレットを、王子が付けているのを見た俺たち。護り石を持つのが後に近衛騎士の間で流行ったのは自然な成り行きだろう。バランの元に注文が殺到し、寝不足でふらふらしていたのを団長に見つかり、事情を知った上司から近衛騎士団員に雷が落ちたのだった。

「では、皆、この者が組分けする。二人一組で他の組の者には知られないように、合言葉を決めよ。」
宰相が声を掛けた。
  偽物が入り込むのを防ぐためだそうだ。
「君たちは、王子にその身を捧げる誓いをしたのだ。胸を張れ。誇りを持て。」
「はい!」
「第一班、ただ今より任に付け。王子の側に。」

……あれ?イッサがいないな、一緒に選ばれると思っていたのに……


 
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