再会ー男と親友の写真の話ー

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第一章

私は生徒会長プリッシィ

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   「マック。」
    私は幼年学校の最高学年の生徒会長プリッシィ。目の前の白髪の天使に呼び掛けた。
「プリッシィ先輩。卒業おめでとうございます。」
    彼の言葉が終わるのを待たずに手をつなぐ。
「こっち。」
空き会議室のドアを開けて、スルリと中に入る。内側から鍵をかけて、マックに抱きつく。
「んっ」
    この一年近く何度も繰り返したキス。
    初めてのキスは触れるだけのキス。一歳下のマックに、私から口付けた。
「あっ。うんん。」
    今では深く舌を絡ませる快楽の大人のキス。回数を重ねるごとにリードするようになったのは年下のマックの方である。
   今日は卒業式。別れの日。

   私が生徒会に入った二年前、会長には卒業時にある習わしがあると、先輩に聞いた。何代か前の会長が卒業式の後、思い人に告白し騎士の誓いをしたというのだ。それがずっと、受け継がれていると。
「騎士の誓い?なにそれ。」
馬鹿馬鹿しい話。私は最初、冗談だと思った。
   その当時の会長は騎士制度の残るタクーン星から来ていた男子だったという。片膝をついて、告白する姿に立会人は見惚れて、彼が彼女の手を取り甲にキスをすると、その場に立ち合った生徒会役員たちの拍手が起こったそうだ。相思相愛の二人は大人になって結婚したとも聞いた。
    それ以来、会長は意中の人に告白し、騎士の誓いを行うという。しかし、今の会長は女子だ。この場合はどうなるの?と不思議に思っていたが、会長は次期会長に任命書を渡し、役員の私もその場に立会人として参加することになった。
卒業した前会長は小さな白髪の小さな男の子の前に立ち、かがんでキスをした。
「えっ!?何?何でキスしてるの ?」
小さな声で隣の子にたずねる。
「しっ!告白中よ。」
後で聞いたら、女子の場合は意中の人に告白し、OKなら相手が騎士の誓いをするのだとか。意中の人がいない人は告白は無しで、会長が形だけの騎士の誓いをするのだそうだ。
   成り行きを見守っていると男の子がおじぎをして戻って行ってしまった。後に残された会長は泣き崩れてしまった。
   どうやら告白は成就しなかったようだ。
   それにしても告白なんて、皆が見ている前でする事?あの男の子も、OKするふりだけしてもよかったんじゃないの?会長に恥をかかすようなことしなくてもいいのに。と私は思ってしまった。
    そして、一年たち、今度は私が次期生徒会長の任命書を受け取った。会長は白髪の男の子にキスをした。ずいぶん背が伸びたが、昨年の子だ。
「同じ子?どうして?」
再びお辞儀して去っていった。
「やっぱり無理か~」
会長はそう言ってため息をついた。
    何故彼が?美人だから?毎年?
「プリッシィも頑張って。」
いや、ないから私。と、この時は思ったのだ。

   会長の仕事は大変で、沢山の人と会うし、決めなくちゃいけないことも多くて、常に忙しい。そんな中、あの白髪の子がよく目にとまるようになった。
「あの子、何て言うの?」
副会長に聞いてみた。
「あ、気になる?やっぱり?」
「いやいや、ないよ。二年連続、告白断った子でしょ?」
「マック・L・タージニアくん。一年下よ。」
「へ~二年前だと、三歳下?何で会長達はそんな年下の子に告白したのかしら。」
「可愛いじゃない?天使みたいに。」
「可愛いのは認めるけど、告白はないわ。」
「あら、知らないの?彼の国。騎士の国よ。だから、本物なの。絶対形だけの誓いはしないって。言ってた。誓いをするときは、一生愛す時だって。ん~~ステキ~純愛よ~」
「キスはしても、誓いのふりはしないって訳ぇ~?」
「本物の騎士の誓いを見たくない?彼に誓ってもらいたいわ~~」
「私はいいわ、誓いのやり方だけ聞くわ。」
「そういえば、最近告白続きだったから、誓いは見てないわね。プリッシィは誓いをするつもりなのね。」
「そうね。好きな人いないから。」

   生徒会室にマックを呼んだ。
「誓いのやり方を教えてほしいの。知ってる?」
「はい、知ってます。僕もタクーン星にいるときに騎士の教育学部に少しだけ在籍していましたし、兄が、騎士ですから。」
「え?ホントに騎士なの!?」
「はい………兄のせいで、皆さんにご迷惑を………」
「ちょ、ちょっとまって、誓いを初めてした会長って…」
「はい。兄です。」
マックはすみません、と、ペコリとお辞儀した。兄弟なの!?
「結婚したっていうのも?」
「本当です。ここを卒業後、故郷に彼女を連れて帰り、成人直後、結婚しました。今は王立騎士団に所属しています。」
兄様、本物じゃない!
「じゃあ、だから、君が毎年会長に、教えてたの?」
「はい。作法を教えに来てました。でも皆さん誓いは………」
「そうね、誓いはせずに、告白してたわね……君に……」
「…………はい。」
「誓い教えてくれる?」
「はい。」
彼は返事をするとニッコリ笑った。キラッキラの笑顔で。ああ、天使がいる。顔が熱くなった。
「やり方は……あ、僕の前に立って下さいますか?僕が片膝つき……貴女の手をとります。」
そう言って片膝をつき、私の手に触れた。彼は私を見上げる。天使にみつめられ、胸がキュンとなった。
「誓いの言葉を言って、手にキスをします。」
そう言って流れるような動作で、手の甲に口を近づける。チクリと感じたと同時に、急に唇が触れたので、びっくりして思わず手を引っ込めた。
    いきなり目の前の手が引っ張られたものだから、マックは頭から床に転がってしまった。
「あ、ごめんなさい。」
あわてて抱き起こすと、おでこを打ち付けた彼は少し涙目になっていたた。それなのに……
「先輩の手は大丈夫ですか?僕の爪が当たってしまったみたいで、痛かったですか?」
えっ?なんで私の心配?君の方が痛そうなんだけど?
   見上げるかれの瞳が涙で潤みキラキラして、彼から目が離せなかった。
「…………」
気がつくと私は、彼のぷるぷるつやつやの唇に吸い寄せられるようにチュッて軽いキスを落としていた。
「先輩?」
   私も、天使に恋をしてしまったようだ。でもきっと、天使は私の物にはならない。

だから、卒業までの私の恋。
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