再会ー男と親友の写真の話ー

キュー

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第四章

回復

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    翌日もその次の日も、マックは放心状態だった。何もしゃべらず、何も見ず、時々うとうとして…夜も昼もずっと。口元にミルク粥を近付けると、少し口にして、でもすぐに吐きけで身体を固くした。実際吐くことも度々。ただ、腹の中に何もないので、液体が少量だけ。その様子を辛そうに見ているレイとエンジュ。いつまでも謝りつづけるミラー。三人はそれぞれに後悔の涙を流した。
「連れ出したり、しなかったら……」
「僕が、わがまま言ったせいで……」
「一人にしなければ……」
悔やんでも、時間は戻らない。

  マックは毎晩のように悪夢にうなされた。時折、小さな頃の夢を見た。大きな木の下で、黒いくせっ毛の…よく動く黒い瞳の…少年と遊ぶ夢。幸せだった頃の夢。
「今日は笑っているね。」
交代で夜もマックと一緒の部屋で見守る。レイは悪夢を見ている時と違う微笑む姿を見てソファーに横になる。

  一週間も過ぎた頃には身体の痛みもずいぶんなくなり、食欲も少しは戻った。だが、声だけが出ない。筆談で、会話をして、大丈夫、と少し笑った。だが、身体に触れるのを恐れているのか、先に声を掛けてからでないと、錯乱して身をよじって暴れる。せっかく治りかけの身体に新たな傷を作ってしまう。
「手紙出しとこうか?」
上着のポケットに入れていた手紙。出し忘れていた手紙。今は机の上に置いたまま。
  うん。と、マックは頷く。
  彼の視線の先に懐中時計。手を伸ばす。レイが時計を手渡す。
「君のお守り。」
うん。金属の時計は冷たいはずなのに、何故か温かい気がした。

  このまま、ゆっくりと回復していくのだろう。身体を徐々に動かして、声が出ない事以外以前の生活に戻りつつあった。でも、お店の手伝いはレイがさせなかったし、常に誰かが側にいた。
「おやすみマック。」
「………」
声は出なくても手を振って、挨拶した。
「一緒にいなくて大丈夫?」
  夜も普通に眠れるようになった。もう大丈夫。とマックは二人に夜は一人で寝ると伝えたのだ。レイは心配したが、マックは両手で丸を作りこくこくと頷いて自分の部屋にもどった。
  
  ベッドに入り、懐中時計を手に持つ。すると安心して眠りに入ることができる。
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