再会ー男と親友の写真の話ー

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おまけの話

レイとレイ1

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  俺はレイ。

  彼に初めて会ったのは大学校の入学式だった。
  
  第一印象は良くはなかった。

  彼の名前はマーク。初恋、かな?

  あの時、別の道を選択していたら、今頃俺はマークの側にいられたのかな…………

  アスターネス国では、長い戦争が終結し、条約が結ばれ、平和な日常がもどりつつあった。
  大勢の国民が犠牲になり、将来を夢見る若い学生も兵士として志願し命を落とした。
  戦争が終わり王都では疎開していた学生が戻り、学校が再開された。しかし、空席が多く、授業料収入もあてにできず、経営状態は悪化し、学校は設備や教材、先生も不足するという状況で、多くの学校から支援の要請が統括に寄せられた。すぐに対策が検討され、大幅な改革に着手することになった。王都の複数の大学に、復学希望者や、地方の希望者と、王都在住の学生を集中させ、学ばせることにしたのだ。地方出身者には不自由がないよう寮や下宿を斡旋し、不自由なく学べるようサポートした。元々あった地方の学校は戦争で親を無くした母子支援の保育所、幼年学校、戦争孤児の養育施設、新たな騎士養成学校などに利用されていく。

  王都の大学の一つ、多くの貴族の子女が通っていた学園大学施設は広い敷地内に立派な建物と施設を持っていた。戦前は貴族しか通うことを許されなかったその大学も教育省の管轄となり、寮付きの一般大学校として生まれ変わった。

「マーク・レイ・ソーヌバンヌと…い…言います。よろしく…」
入学式の日たまたま隣合わせに座った新入生の一人が言った言葉だ。
「レイ・ターブ・フィーン・オクタバイン。同じレイだな、よろしく。」
笑いながらもう一人が手を差し出す。少し遅れて両手で包むように握手するマークが微笑んだ。ハニーブラウンの髪は解かしてないのか、ボサボサで、瞳はぼんやりした黒。見た目に気を使うレイはその姿に苦笑した。
…ださっ…何処の地方出身だよ…

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  戦争がまだ遠く離れた、他人事のように王都で感じられていた頃。貴族達は危機感もなく、ゆるゆると子ども達を学園に通わせていた。下位爵位のレイの両親も同じで、レイはこの学園大学の幼年学部に通っていた。
  だが、長く続いた戦争に大きな変化があった。
  王族の暗殺である。王立騎士団に守られた王宮内で、次々と王族の暗殺が起きた。王都、王宮内は混乱し、いち早く貴族達は逃げ出した。
  王立騎士団に王族を守る力はなかった。名ばかり隊長は我先に逃げ出し、数少ない実力者も戦って命を落とした。王立騎士団は主に貴族の次男三男……権威に胡座をかいた怠惰で能力もないボンクラ息子が、体裁を整えるのにうってつけの職業でそのほとんどが無能の集団だったのだ。
  直系の王族はほとんどいなくなり、国民はその死に心を悼め涙を流した。暗殺を免れ、王の座についたのは、すでに老齢の王父。唯一残った王子はまだ幼く、成人を待って即位する。だが、老齢の王の体調は思わしくない。王と次代の王となる王子の安全を優先して、そのほとんどを王宮内で過ごし、公式の行事ですら暗殺を危惧し王子は姿を現すことはなかった。そして、姿絵すら一般には公開されなかったため、成人前であること、王父譲りの朱眼、白髪、との情報と見目麗しいということしか、知られていない。
  王の暗殺後、戦争終結、両国の和平条約が結ばれる。この戦争に勝者はいない。ただ疲弊したのみ。
  学校が再開され五年がたち、レイは青年学部からの入学となった。復学者もいるので、幅広い年齢の中学部はだいたい十二歳から十八歳、青年学部は十五歳から三十歳くらいだろうか。学力に応じた学年に入学する。

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  マークのあか抜けない格好と、平民であるということから、自然と格下に見ていた。
「お…俺、ここいらは…初めてなんだ。色々教えて…くれないかい?」
「…ああ、いいぜ。」

  昔馴染みの貴族の友人達は、一般人と一緒なんて冗談じゃない、と学園再開を知っても戻ることはなかった。下位貴族のレイは貴族の中では下僕扱いだったので、むしろ貴族の殆どがいなくなって、せいせいしていた。
  レイは家庭教師とともに疎開先である程度の勉強を続けていたので、余裕で青年学部一年に入学することができた。
  
「地方出身なら、寮だろ?兄弟いねぇの?前の学校の専攻は何?」
矢継ぎ早に質問するレイは、ボソボソと喋るマークを地方出身と勝手に決めつけて話を始める。
「…ん、そうだね。地方…そう寮…か…な?兄弟…いない…専攻、うん…何だったかな…」
…なんだその返事は…
はっきりしない返事に苛ついたが、まだ来て間もない事、寮か下宿かはまだ決めていない事、事情があって学校に通っていなかったが独学で青年学部に入学した事を、言葉少ないマークから聞く。
「なんだよ、寮の手続きもしてないのか、じゃあ今は宿に!?、親の怠慢だな、お前もしっかりしろよ。要領悪い奴。」
  入学前にそんなの保護者が手続きしとけよな、と自分の物差しで考えたレイ。考えなしにポンポン言い放ってから、はっ、とした。
…あ、もしかしたら戦争…のせい?両親亡くしたとか?…
「あーっ、悪い。もしかして…ご両親…気が利かなくて。」
「大丈夫。…両親は…いない…けど…お…祖父がいる…から…寮…入る?…うん。から…」
「そうか…知らない土地で、知り合いもいないと、心細いよな…よし、わかった、俺が面倒みてやるよ。俺も寮入る。」
「ええ!?」
「空きがあれば…だが?」
ニヤリと笑いマークの肩に手を回した。
  少し固まったマークの頭をぽんぽんと叩いた。まかせとけ、と言うと、彼も笑った。

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  レイは気が付いていなかったが…
  マークと会話している間中、周りの視線が集中していたことに。そして、マークに触れた瞬間に緊張が、最高に高まったことを。
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