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お仕事の時間ですよ
王宮騎士物語 第12話
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一行は宿を出発した。街路には町中の人々が並んでいるのかと思えるほど、早朝から一目王女を見るために、沢山の見送りの人垣ができていた。王女が手を振り見送りに応えると、感激して泣き出す人や、ひれ伏す老人、手を力一杯振る子ども達の歓声がいつまでも響いた。そのうち人々がが見えなくなると、密集した家々や畑が減り、ポツポツと作業小屋があるだけで、何もない田舎道が続く。ゆっくり進む馬車から見える風景は起伏のない草地が続き、どこまでも見通せた。
一面、花で埋めつくされた場所に来ると、馬車に一人の騎士が近づき、中の王女に声が掛けられた。
「王女様、外をご覧下さい。」
その声に気づいたソフィーナが窓に顔を近付ける。
「綺麗ね。」
「この一帯で特産の花で、ある花卉栽培農家が国外に販路を広げ、作付けを増やしたのがきっかけで、周囲の農家も花卉栽培に転じたとのことです。」
「花祭りの山車にも使われていたわね。」
「ただ、この一面の花畑は、廃業した農家の残した畑から種が飛び、拡がったようです。」
「まあ、ではこの一面の美しい花は誰が世話をしているのかしら。」
「申し訳ありません。それは調べておりませんでした。てっきり花は自然に咲くものかと……すぐにお調べして……」
「ふふ、いいわよ。美しい花を育てる美しい心を持った、花を守る妖精がいるのかもね。」
「………」
妖精とは……馬車に並走し、説明をしていた騎士は、なんと返事をして良いのか、タイミングを逃して黙ってしまった。
「花の妖精はきっと、王女様のようにお美しいお姿をされているのでしょう。」
馬車の中でハンスが微笑んだ。
「王女様、馬車の中からでは、花を楽しめないのでは?一刻ほど留まり、散策をされてはいかがですか。」
横になったままのハンスが身体を起こし、王女に声を掛けた。
「いいえ。ここからで十分よ。花の香りも、心地好いわね。」
しばらく進んで少し馬車止め、風景を楽しみ、またゆっくり進む。
……ああ、今、私の足が動けば……
ハンスは、馬車を飛び出し両手に花を摘んで王女に差し上げたいと思った。両足を負傷したからこそ、この場に…王女と共にいることを許されているのに……だが、自分の力のなさ、未熟さに、自分の動かぬ足を忸怩たる思いで見つめた。
「ハンス、ありがとう……」
馬車の開かれた小窓から、外を眺める王女の呟きのような言葉に、ハンスは顔を上げて王女の横顔を見た。小さな声は聞き間違いではない。頬は紅をさしたように色付いている。
「助けてくれて……」
ハンスと視線を合わせようとはせず、口を開く。いつものまっすぐ顔を上げ堂々とした、王女はここにいなかった。
「王女様…」
「ソフィーナ…と呼んで…ハンス……」
「ソフィーナ様…」
王女は軽く目を伏せた。大きな瞳が潤み、震え、今にも涙がこぼれそうであった。
「どうなさいました?ソフィーナ様。」
急に表情を曇らせた王女を前にし、狼狽え、身体をずらして、近寄ろうとするハンス。
「大丈夫よ。ハンス。そのままで…身体に障るわ。なんでもないのよ。気にしないで。」
ハンスは王女の口に出せない思いを汲み取ることもできない自分を殴ってやりたかった。
「ソフィーナ様、ハンスに何でもお言いつけください。私はソフィーナ様の騎士です。何を思い悩まれていらっしゃるのですか。」
「ハンス…ありがとう。もう、大丈夫。気にしないで。」
馬車の片方の車輪が小石を拾い、大きく振動した。
「あっ。」
窓の側に近づき、不安定な姿勢で風景を眺めていた王女はバランスを崩した。ハンスは腕の力のみで、素早くベッドから滑り降りて、王女を支える。
「御無礼をお許し下さい。」
倒れ込んだ王女をハンスが抱き起こす。
一瞬、目を合わせ、互いの手を取る二人。その一瞬は、長く永遠に続くかと感じた。
一面、花で埋めつくされた場所に来ると、馬車に一人の騎士が近づき、中の王女に声が掛けられた。
「王女様、外をご覧下さい。」
その声に気づいたソフィーナが窓に顔を近付ける。
「綺麗ね。」
「この一帯で特産の花で、ある花卉栽培農家が国外に販路を広げ、作付けを増やしたのがきっかけで、周囲の農家も花卉栽培に転じたとのことです。」
「花祭りの山車にも使われていたわね。」
「ただ、この一面の花畑は、廃業した農家の残した畑から種が飛び、拡がったようです。」
「まあ、ではこの一面の美しい花は誰が世話をしているのかしら。」
「申し訳ありません。それは調べておりませんでした。てっきり花は自然に咲くものかと……すぐにお調べして……」
「ふふ、いいわよ。美しい花を育てる美しい心を持った、花を守る妖精がいるのかもね。」
「………」
妖精とは……馬車に並走し、説明をしていた騎士は、なんと返事をして良いのか、タイミングを逃して黙ってしまった。
「花の妖精はきっと、王女様のようにお美しいお姿をされているのでしょう。」
馬車の中でハンスが微笑んだ。
「王女様、馬車の中からでは、花を楽しめないのでは?一刻ほど留まり、散策をされてはいかがですか。」
横になったままのハンスが身体を起こし、王女に声を掛けた。
「いいえ。ここからで十分よ。花の香りも、心地好いわね。」
しばらく進んで少し馬車止め、風景を楽しみ、またゆっくり進む。
……ああ、今、私の足が動けば……
ハンスは、馬車を飛び出し両手に花を摘んで王女に差し上げたいと思った。両足を負傷したからこそ、この場に…王女と共にいることを許されているのに……だが、自分の力のなさ、未熟さに、自分の動かぬ足を忸怩たる思いで見つめた。
「ハンス、ありがとう……」
馬車の開かれた小窓から、外を眺める王女の呟きのような言葉に、ハンスは顔を上げて王女の横顔を見た。小さな声は聞き間違いではない。頬は紅をさしたように色付いている。
「助けてくれて……」
ハンスと視線を合わせようとはせず、口を開く。いつものまっすぐ顔を上げ堂々とした、王女はここにいなかった。
「王女様…」
「ソフィーナ…と呼んで…ハンス……」
「ソフィーナ様…」
王女は軽く目を伏せた。大きな瞳が潤み、震え、今にも涙がこぼれそうであった。
「どうなさいました?ソフィーナ様。」
急に表情を曇らせた王女を前にし、狼狽え、身体をずらして、近寄ろうとするハンス。
「大丈夫よ。ハンス。そのままで…身体に障るわ。なんでもないのよ。気にしないで。」
ハンスは王女の口に出せない思いを汲み取ることもできない自分を殴ってやりたかった。
「ソフィーナ様、ハンスに何でもお言いつけください。私はソフィーナ様の騎士です。何を思い悩まれていらっしゃるのですか。」
「ハンス…ありがとう。もう、大丈夫。気にしないで。」
馬車の片方の車輪が小石を拾い、大きく振動した。
「あっ。」
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