結婚ー彼女と再会するまでの男の長い話ー

キュー

文字の大きさ
50 / 97
第八章 王妃

7 狂気 **暴力シーンあり

しおりを挟む
  廊下では、フレアが無表情な顔で立っていた。予定されていた王子の側付きの面接も終え、宰相に呼ばれて場を離れた隙に、アカリと侯爵が消えた。沢山ある客室の何処にいるのかも彼には、わかっている。彼がここにいるのには、理由がある。ここにいなくてはならない。これからやって来る嵐を待つ役目がある。

  女の狂気の声が遠くでした。

  来た。

  フレアは目を閉じた。亡くなってしまった、大切な人達を思い出すだけで、簡単に泣くことができる。彼はポロポロと涙を流し、悲しげな表情をみせた。
「いやあ!助けて!」
メイドの一際大きな叫び声が廊下中に響いた。

それが合図だ。


「あっ……やめて下さい…レーデン侯爵……お願いです………」
「そうやって煽るのも、手順の一部なのか?」
「違う……」
ベッドの上で押さえつけられながらも、イヤイヤと首を振る。
「………」
  廊下で女の叫ぶ声がした。それを聞くと急にアカリはレーデン侯爵の首に手を回した。
「何だ?悲鳴?」
すぐ近くだ。
  一瞬悲鳴に気をとられたが、アカリが自分の首に手を回し抱き付いてきた事に喜び、興奮し、悲鳴のことはすぐに頭から離れた。部屋には鍵をかけてある。大丈夫だ。
「アカリ、服を脱がすよ。いいね。」
アカリは黙ったままで、嫌がる素振りはない。ボタンを外す……それすらも煩わしい。レーデン侯爵はアカリの衣服を脱がしに掛かる。
「待って……」
アカリがつぶやき、その華奢な指が侯爵の手を止める。そして、自ら侯爵の服を脱がし始めた。その行動に驚いたが、侯爵はされるがままになった。
もう一度女の悲鳴が聞こえた。
途中で服を脱がす手を止めたアカリは侯爵を見つめ微笑む。
「侯爵様。キスを。」
着ていた服は乱れて、まだ肌にまとったままの二人は口を寄せ、ベッドの上で膝立ちのまま抱き合いキスをする。


廊下にはメイドの悲鳴が響いた。
「お前がフレアか!」
「王妃様。どうか、お待ち下さい。」
王妃の進路をふさぎ押し止める。彼女の手に持ったハサミが、メイドに向けられているのが視界に入る。
  こんな無礼をして、只ではすまないが、今は気にしていられない。
「退きなさい!どの部屋にいるの?」
「申し訳ありません、お許し下さい。」
「言いなさい!」
「お許し下さい。」
「…フレアごめん……助けて……」
王妃にハサミを突き付けられ、メイドが震える声で助けを乞う。メイドとフレアの目が合った。
「教えますから、彼女を離して下さい。」
ゆっくりと腕を上げ指を指す。
メイドを掴む手が緩んだ。その隙に、彼女は王妃から離れる。
「あの部屋ね。」
「王妃様!お待ち下さい!」
フレアは王妃と扉の間に立ち、手を広げて邪魔をする。
「退きなさいったら!」
ハサミを持った手を振り回した王妃がフレアの手と顔を傷つけた。
「ああ!」
「きゃああああ!フレア!」
メイドの悲鳴。顔を押さえ、後退り、後ろの扉に背中を打ち付けた。王妃は、目的の部屋の扉を開くためフレアを横に払おうとする。最後まで扉を守ろうとしたのか、フレアの手がのびた。彼の手は扉の取っ手に引っ掛かり、不運にも、鍵のかかっていない扉がガチャリと開いた。
  
「!」
部屋に入った王妃が見たものは……
抱き合うレーデン侯爵とアカリ。
「シュウ!」
その声に、信じられないという顔のレーデン侯爵が振り向いた。
  続いて、フレアも部屋に入った。その光景に崩れ落ちる。
「お、王妃様!どうしてここに……」
王妃の姿を見つけ、すぐにフレアの顔を見た。
  フレアの顔と手には切りつけられた傷。ボタボタと滴り落ちる血を見てギョっと目を開く。
「フレア?その傷…」
大股でベッドに近づく王妃。
「この!」
王妃は腕を振り上げ、手に持ったハサミをアカリめがけて振り下ろす。
「うわあああああ!」
侯爵の目の前で王妃の持つハサミがアカリの白い肌を切り裂き、赤く染まる。
「あ、あ、あ…………」
レーデン侯爵が驚いてアカリから手を離そうとするが、アカリは逆に侯爵にしがみつく。王妃は言葉にならない叫び声を上げ、再び腕を振り上げる。
「やめろ!やめてくれ!」
必死で叫ぶ侯爵を王妃が冷たい目で見下ろす。
「シュウ、あなたも!グレイと同じ!」
今度は王妃が侯爵目掛けて腕を振り下ろす。
「ああああ、やめろ!」
「愛してたのに!」
「やああああ!」
「オマエも!オマエも!」
再び腕を振り上げる。
あとは…もう…

正気をなくし、呟く王妃は駆けつけた騎士や衛兵によって拘束されるまで、アカリやレーデン侯爵、そして、止めに入ろうとしたフレアを……ハサミで、突き刺し続けた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...