猫の王子は最強の竜帝陛下に食べられたくない

muku

文字の大きさ
18 / 38

18、兄からの手紙

しおりを挟む

 * * *

 セライナ様に食べられると決まったら、もっとより健康でいなければならないとミカは張り切り出した。十分な運動をして、しっかりと食事をとり、よく眠る。
 人々と会って談笑をし、できそうなことがあれば積極的に手を出した。身だしなみにこだわるのは気恥ずかしかったものの、セライナ様に献上される餌として見た目が悪ければ申し訳ないからと、以前より注意を払うようになった。

 ミカが明るく前向きになったのをみんなが喜んでくれる。ミカはすこぶる健康になり、鏡で自分の顔を見てもうつむかないようになってきた。
 醜いと嫌われ続けたこの黄金の目も、セライナが褒めてくれるから隠そうとは思わない。

 さて、今日も朝の支度を終えて運動をしようかとミカが外を眺めていたところ、女官が「ミカ様、お手紙ですよ」と声をかけてきた。

 手紙をもらうのは珍しいことでもなかったのだが、予想外の差出人の名前を見てミカはぎょっとした。
 兄からミカに宛てたものだったのである。兄というのはもちろん、猫の国の兄弟で、白い猫族の王子の一人だ。近頃ミカはあんまり幸せすぎて、自分の国でのつらい日々を忘れかけていた。向こうも忘れているとばかり思っていたのだが。

 最初に託されたものを除けば、今まで手紙など送ってきたことなどないのに突然どうしたというのだろう。
 あまり良い予感はしない。しかし見ないわけにもいかないだろう。ミカは中を確認してみた。

『ミカ。お前は一体どういうつもりだ? そこで何をしている? 我が国の利益になるようなことをお前は何故しようとしないのだ。竜の国へ行って、どれほどが経つと思っている! この役立たずめが。竜帝を玉座から引きずりおろして、自分が簒奪するくらいの気概を見せてはどうだ。腰抜けめ! お前はいつもいつも、何の役にも立たないゴミだ!』

 他にも怒りに任せた暴言は長々と綴られ、こっちは相変わらず溝鼠どぶねずみとの交渉が難航しているだの、近頃「純人間」を飼ったから役立てるつもりだだの、ミカに伝えても仕方のないような内容も多くあった。
 ミカは最後まで目を通すと、深いため息をついた。

「兄上はご乱心のようだな……気でも狂ったんじゃないかな?」

 竜帝の地位を奪えなどという手紙を、竜帝の庇護の下に暮らす弟王子に送るとは、正気の沙汰ではない。ミカに届く前に竜族に中をあらためられたらどうするつもりなのだ。
 そうなれば、ミカはうんと恩情をかけてもらったとして追放、下手をすれば白い猫の国は滅ぼされるだろう。

 というか、普通は中を調べられるものなのだ。ミカは特別待遇で、尊重されているからルディスですらミカの私物を確認したりはしない。ミカは信頼されており、この手紙は存在することそのものが竜族への裏切り行為なのである。
 ミカは無言で手紙を破り、口の中に入れた。

 無かったことにするしかない。どこかに捨てるわけにもいかないので、飲み込んだ。これは兄達の身の安全のためでもある。
 ミカは猫の国の利益になる選択をしたつもりでいるから、ここまで叱られる覚えはなかった。ミカがセライナに食べられて力になれば、今後も竜の国は白い猫の国にそれなりの対応をしてくれるだろう。それをぶち壊そうとしているのは兄の方である。

(兄上達も、おとなしくしていてくれないかなぁ……)

 連絡を取るつもりはなかったが、これ以上余計なことはしないでくれと手紙で念押しをした方がいいだろうか。猫と竜の力の差は歴然なので、大らかな白竜の民が本気で猫達に立腹するという恐れはないはずだが。
 これまで兄になじられると恐怖に支配され、自分も悪いのだと泣いてばかりだったのだが、今は恐れや自責の念より相手への呆れが勝っていた。

(リド兄様に相談するべきだろうか? でもなぁ、リド兄様も立場が微妙だし、心配はかけたくないし)

 王位を継ぐのは長兄のリドしかいない。時期を見計らって戻るつもりだろうし、兄に何かあってはならないのだ。だから、自分が竜の国にいることも知られたくなかった。助けに行こうなどと思われて話がこじれたら大変だ。

 不味い紙をどうにか飲み下し、ミカは深いため息をつく。こればっかりは、ルディスやセライナには相談できないのである。
 どうにかしないとな、と憂鬱になりながらもミカは散歩のために部屋を出た。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

的中率100%の占い師ですが、運命の相手を追い返そうとしたら不器用な軍人がやってきました

水凪しおん
BL
煌都の裏路地でひっそりと恋愛相談専門の占い所を営む青年・紫苑。 彼は的中率百パーセントの腕を持つが、実はオメガであり、運命や本能に縛られる人生を深く憎んでいた。 ある日、自らの運命の相手が訪れるという予言を見た紫苑は店を閉めようとするが、間一髪で軍の青年将校・李翔が訪れてしまう。 李翔は幼い頃に出会った「忘れられない人」を探していた。 運命から逃れるために冷たく突き放す紫苑。 だが、李翔の誠実さと不器用な優しさに触れるうち、紫苑の頑なだった心は少しずつ溶かされていく。 過去の記憶が交差する中、紫苑は李翔の命の危機を救うため、自ら忌み嫌っていた運命に立ち向かう決意をする。 東洋の情緒漂う架空の巨大都市を舞台に、運命に抗いながらも惹かれ合う二人を描く中華風オメガバース・ファンタジー。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。

【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

【8話完結】勇者の「便利な恋人」を辞めます。~世界を救うより、自分の幸せを守ることにしました~

キノア9g
BL
「君は便利だ」と笑った勇者を捨てたら、彼は全てを失い、私は伝説の魔導師へ。 あらすじ 勇者パーティーの万能魔術師・エリアスには、秘密があった。 それは、勇者ガウルの恋人でありながら、家事・雑用・魔力供給係として「便利な道具」のように扱われていること。 「お前は後ろで魔法撃ってるだけで楽だよな」 「俺のコンディション管理がお前の役目だろ?」 無神経な言葉と、徹夜で装備を直し自らの生命力を削って結界を維持する日々に疲れ果てたエリアスは、ある日ついに愛想を尽かして書き置きを残す。 『辞めます』 エリアスが去った翌日から、勇者パーティーは地獄に落ちた。 不味い飯、腐るアイテム、機能しない防御。 一方、エリアスは隣国の公爵に見初められ、国宝級の魔導師として華麗に転身し、正当な評価と敬意を与えられていた。 これは、自分の価値に気づいた受けが幸せになり、全てを失った攻めがプライドも聖剣も捨てて「狂犬」のような執着を見せるまでの、再構築の物語。 【勇者×魔導師/クズ勇者の転落劇】 ※攻めへのざまぁ要素(曇らせ)がメインの作品です。 ※糖度低め/精神的充足度高め ※最後の最後に、攻めは受けの忠実な「番犬」になります。 全8話。

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...