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38、幸福な結婚と愛の味
* * *
婚姻の儀は大聖堂で行われ、その後は城に戻って集まった竜族達へお披露目となった。
露台に立つと歓声に迎えられ、ミカは夢見心地である。これが現実だとは思えなかった。
祝いのための花びらを、頭上を飛ぶ竜達がまいている。色とりどりの花びらが舞っていた。
白い猫の国の関係者も呼ばれており、新王に即位したリドがこちらに向かって頷いていた。隣の席には、お世話係の竜人に抱えられた四匹の猫もいたが、相変わらず何が起こっているのかはわからずに退屈そうだ。
セライナの両親である公爵夫妻も近くにいる。ミカは彼らとも挨拶を済ませていたが、とても優しい人達で、二人の結婚を喜んでくれた。
(私が、誰かに必要とされる日が来るだなんて思わなかった……)
女官達に飾りたてられ、宝石が散りばめられ、レースが施された贅沢な白い衣装に身を包んだミカは、これまでの人生を振り返っていた。
「このたび、我が妻となった白い猫族の王子ミカは、雄にして我らとは異なる種の者である。しかしながら、私は愛することにおいて、種族や姿の違いが障壁となるとは思わぬ。我が願いは、全ての種族が互いに手を取り合い、理解し合う世の到来である。本日は、その新しき未来への第一歩を踏み出した日である。いかなる姿を持ち、いかなる力を有すとも、皆が互いを愛し、敬い合う世であってほしい。私とミカ――猫と竜が結ばれしこの日を、民よ、どうか心より祝福してくれ」
セライナが語りかけると、皆が喜びの声をあげる。
未来には、たくさんの不安があった。これからミカは、竜達の世界で過ごす。楽しいことばかりではないだろう。神獣の力も、完全に制御できてはいない。
けれど、セライナと一緒なら、やっていけるだろうと思えた。
セライナは言った。困難のない人生はないと。全てが望むままにはいかないと。
私は困難を乗り越える力がほしい。そうして皆と、幸せを勝ち取りたい。
ミカは頷いて、一生ついて行きますと誓った。彼のようになりたいし、彼をずっと支えていきたい。
泣いてばかりの人生で、どこへ行けばいいのか迷ってばかりだったけれど。私はここにいていいのだ。
――私の人生は、また、今日から始まる。
* * *
(初夜だ……)
ミカはカチコチになりながら、寝台の上で正座をしていた。
初夜は特別な寝衣をまとうらしく、ほとんど透けていて着る意味があるのかわからないものを着せられていた。湯浴みも念入りで、香油を塗り込みながら女官達がミカを心配していたのを思い出す。
「ミカ様はお体が小さいから、大丈夫かしら……」
「竜族は激しいですからね……」
と神妙な面持ちで言われるとこちらも緊張してしまう。
一応ミカは、「そういうこと」についての知識を一通り頭に入れたのだった。
ミカには衝撃の連続であり、信じられない未知の世界だった。そんなことをして、大丈夫なのだろうか……。体はもつのだろうか……。と疑問と不安は尽きない。
そして、正直いってセライナとそういうことをする時の想像がつかなかった。
ルディスは、全部セライナ様に身をゆだねていれば問題ありませんと言っていたが、そんな受け身でいいものなのか。こちらも何かしら、頑張らなければ失礼ではないのか。
ミカがそわそわしていると、ついにセライナが寝室に現れた。
「今日は疲れただろう、ミカ。大丈夫か」
「皆さんに祝ってもらえて、幸せでした。特に疲れてはおりません……」
ミカはそう言うと、赤くなっている顔を見られたくなくてうつむいた。
(私、これからセライナ様と……)
セライナが寝台に腰かけ、ミカの手をとる。しばらく無言の時間が続いた。
別に嫌なわけではない。失敗したらどうしよう、と怯えているだけなのだ。セライナと一つになることを、自分も望んでいる。
――私は臆病な白猫だ。でも、いつまでも怯えてばかりいてはいけない。
意を決し、ミカは顔を上げてセライナと目を合わせた。
「セライナ様。どうぞ、私をお召し上がりください」
彼は本当に、自分を心から愛してくれている。何もわからないミカを、欲のままに蹂躙せず、尊重してくれた。感謝してもしきれない。だからこうして、わかった上で、彼を受け入れられるのだ。
「いいのだな」
セライナは微笑んだ。ミカは彼のこの顔が、本当に好きだった。愛に味があるのなら、きっと甘くてとろけそうな、お菓子みたいなものだろう。二人は互いに今、そんな甘さを味わっている。
寝台に横になって重なり、セライナとミカは深い口づけを繰り返す。愛を確かめる行為だと、今のミカは知っている。
「お前は私にとって、世界で一番美味な猫だ。愛しいミカ。ずっとお前を愛している」
「私もです。あなたを生涯愛し続けます」
こうして、黒い白竜の竜帝セライナと、神獣の力を持つ白猫の王子ミカは、めでたく結ばれたのだった。
(終)
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