【完結】無関心アルファと偽りの番関係を結んだら、抱かれないうちに壊れ始めました

紬木莉音

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第3章

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 ──自己悲観ばっかうざいんだよ。オメガが嫌なら、おまえはおまえなりのオメガになってみればいいだろ

 あのとき藤城に言われた言葉は、雁字搦めになっていた心を少しだけ軽くしてくれたような気がした。
 それと同時に、ずっと不幸を嘆いてばかりいた自分を恥じた。

(俺はどんな風に生きたいんだろうな……)

 あれからずっと自問自答を繰り返してはいるが、結局答えは出せないままだ。大学を卒業してからやりたいことだって、まだ何ひとつ思いつかずにいる。

 オメガだからと諦めなければならないことも、社会に出れば増えてくるのだろう。限られた選択肢の中で、自分らしく生きるためには──。

「あ、おかえりー」

 講義を終えて帰宅すると、珍しく藤城が先にいた。目を丸くする未紘の視線の先で、キッチンに立っている彼がこちらを振り向く。

「……なにしてんの?」
「なにって飯作ってんだけど、見ればわかるくね」
「いや、え、あんた料理とかできたの?」

 今までに一度もそんな姿を見たことはない。驚愕する未紘を前に、彼はケラケラと背中を丸めて笑い始める。

「一応ね。ほら早く手ぇ洗ってきなよ」
「う、うん……」

 困惑しながら手を洗い終え、促されるままに席に着く。目の前に並べられている料理の数々はいつもの未紘が作るいわゆる男飯とは大違いだ。
 本当にこの男が作ったのだろうか。まだ信じられない自分がいて、そわそわと視線を動かしては落ち着かない。

「これはなんすか?」
「鴨のロースト」
「鴨……?」

 近くのスーパーに鴨なんか売っていただろうか。鴨肉の上に乗っている謎の粒々と、そばに添えられている謎の草は何だろう。っていうかこんな洒落た皿、家にあったっけ?
 様々な疑問を浮かべながら大人しく椅子に座っていると、作業を終えた藤城が正面の席に腰を下ろした。

「えっ……なにしてんの?」
「またそれ? どっからどう見ても飯食うんでしょ」
「は? 一緒に?」
「悪い?」
「いや、悪くはないけど……」

 やっぱり今日の藤城はどこかおかしい。今までだって、未紘がダイニングで食事をしているときは絶対に近寄ってこなかったし、避けられ続けていたはずなのに。

(っていうかどれもめっちゃ美味いんだけど。俺なんかより全然料理得意なんじゃねーの)

 藤城の作った妙にオシャレな料理は、頬が落ちそうなぐらい美味しかった。こんな特技を隠し持っていたなんて知らなかったし、無駄にひけらかそうとしないところが彼らしいなとも思う。

 しんと静まり返った空間に、食器とカトラリーのぶつかる音だけが響く。目の前にこの男がいるのがどうにも落ち着かない。

 そもそもつい先日、あんなことをしたばかりだというのに。薬を盛られた藤城を助けるという名目で互いの性器を扱き合った出来事は、今思い出しても猛烈に恥ずかしくて堪らない。
 他人に大事な部分を触らせるのも、他人の大事な部分に触るのも初めてだった。
 
(ちょっと前まで俺が触っただけで発作起こしてたヤツが、どんな心境の変化だよ……)

 あの夜、彼は随分と積極的に未紘に触れていたように思う。そしてその日から、彼の態度が一変したのだ。
 今までは互いに干渉しないし、最低限の会話しか交わしてこなかったはずなのに、気まぐれにこうやって絡まれることが増えた。

 むしろ未紘の方がその急激な変化についていけずに、今宵もそんな風にぐるぐると考えていると、不意にテーブルの下で彼と足がぶつかった。
 はっとして顔を上げるが、彼は特に焦る様子もなく咀嚼を続けている。

「なー、藤城」
「藤城さんな」
「オメガに触るの、もう平気になったん?」

 声を掛ければ、ようやく視線が上げられた。

「全然平気じゃないよ。今日も会社でオメガの女子が書類渡すときにわざと俺の手に触れてきて、トイレの個室にこもって死にかけたから」
「うわ、お気の毒に。ってか藤城ってちゃんと会社で働いてんだ?」
「俺をなんだと思ってんだよ」
「反社じゃなくて結構安心してる」
「マジで失礼なヤツだなおまえ……」

 藤城はそう言うが、金髪スーツの男が働けるような会社なんて簡単には想像できないのだから、勘違いしても仕方ないだろう。
 そこまで考えてから未紘はあることを思い出して、あれっと声を上げた。

「てかじゃあおかしくね、さっき俺の足、藤城に当たったじゃん」
「それがなに」
「俺オメガだけど、気持ち悪くねーの?」

 オメガの女子の指一本で個室にこもるぐらいなのに、素足で触れるなんてなおさら嫌に違いない。なのに無反応だったのはどうしてだろう。
 不思議に思って問い掛けると、彼は不満げな顔をしながら、じっと未紘を見下ろした。

「気持ち悪くないからスルーしたの。いちいち聞くなよ」

 どことなく不機嫌そうに見えるのは何故だろう。
 むすっとした顔の藤城を前にして、未紘はぽかんとした顔で固まってしまった。


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