※完結済 【R-18】白薔薇の騎士と純白の姫

白金犬

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第3章 欲望と謀略の秋 編

第51話 勝敗結果

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 コウメイが謁見室を去った後――グスタフは激昂していた。

「ええぇぇいい! なんじゃあ、あのクソガキはっ! このこのこのっ!」

 グスタフは謁見室に飾られた、様々な調度品を破壊して回る。壮絶な破壊の音が響き渡る中、この男が初めて見せる暴力性に、リリライトは声も出せず椅子の上で縮こまって恐怖していた。

「不愉快じゃ、不愉快じゃあっ! しかもあのクソガキ、ムカつくあの小僧によく似おってからにっ! ああ、辛抱たまらんっ! 殺すっ、殺してやるっ!」

「ひ……」

 グスタフの言っている言葉の意味は到底理解出来ないリリライトは震えあがるしかない。

 破壊する物がなければ、今度は地面を、壁を、蹴る殴る。贅肉だらけのグスタフでは頑丈なそれらを破壊することは出来ず、情けない音が響くだけだったが、それすらもリリライトの恐怖心をあおる。

「はぁ、はぁ……ええい! どうしてこうなったっ!」

 グスタフが大臣となり、リリライトの教育係としてこの地に来てから、終始何事も上手くいっていた。何もかもがグスタフの思い通りに事が運んでいた。そのはずだったのに――

 あの若造、態度は軽薄で飄々としているが、腹の中に1つも2つも抱えている。あの男が会話から得ていたのは言葉の情報ではなく、こちらの表情や態度――感情だ。リリライトの動揺を誘い、グスタフを挑発するような言動も全て計算通りということ。油断ならない人物だ。

 こちらの反応から、コウメイは自分達が奴隷制度に何かしら関与していることを確信したに違いない。というか、奴自身がそう公言していた。足りないのは証拠だけ、おそらくそんな風に考えているのではないか。

 まだ、そのことが表に出るには時期尚早だというのに。

「ええい、むしゃくしゃするのぅ」

 暴れまわったことで、幾分か冷静さは取り戻したのか、しかしそれでも怒りの感情は吐き出しきれていないグスタフ。

 ここまで全て思い通りにいっており良い気分だったのを、突然現れた訳の分からない若造に引っ掻き回されて、傲慢で不遜で自分勝手なグスタフが内心穏やかでいられるはずが無かった。

 イライラしながら謁見室内を見渡すと、ふと椅子に座って怯えているリリライトが視界に入る。

「――ふん、まあ良いか」

 そうして、ようやくグスタフは落ち着きを取り戻す。

 なるほど、確かに油断ならない男ではある。しかし、どうやっても奴に今起こっていることの真相が分かるはずもない。頭が切れる切れない以前の問題で、グスタフの陰謀の全容など、誰も知ることが出来ないのだ。

 あの若造に出来ることは、せいぜい場を引っ掻き回すことだけ。結局は何も出来ずに、グスタフの思い通りになるのだ。少なくとも、リリライトがグスタフの側にいる限り、計画が大きく狂うことはあり得ない。

「とはいえ、ああいった人間は厄介だ。放置しておくわけにはいかんなぁ」

 今度はうろうろと謁見室内を歩き回る。

 そんな支離滅裂なグスタフの行動が理解不能で、やはりリリライトは怯えて見つめていることしか出来なかった。だから、グスタフが何かを思いついて手を打った時に、びくっと反応してしまう。

「そうじゃ、殺してしまおう。そうすれば、何の憂いもなくなるじゃろうて」

 何故そんなことも思い付かなかったのだろうか。幸いにも、しばらくはここいらに滞在するとのことで、方法などいくらでもある。そうだ、アンナにやらせてしまうのが一番手っ取り早い。

「と、そうそう。アンナで思い出しましたぞぉ、リリライト殿下ぁ」

 そこまで思考を巡らせて、自分に都合のいい未来を想像するグスタフ。機嫌が直ったのか、いつものにやけた気持ち悪い笑顔をリリライトに向ける。

「今夜の“遊び”は、よりいっそう濃密に激しくいきますからのぅ。この滾った思いを、お互い存分に吐き出しましょうぞ」

    ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼

「姫様も、あの豚親父も奴隷売買に関わっています。間違いない」

 謁見を終えたコウメイがシンパと再会し、リリライト邸から白薔薇騎士団兵舎へ向かう馬車の中でおもむろに自らの結論を告げた。

 そのコウメイの言葉に、シンパは驚きを隠せない。

「グ、グスタフ卿はともかく……リリライト殿下まで? 信じられません」

「はい、2人ともです。ただ……推測の域は出ないですけど、リリライト姫様はあのクソ豚野郎――グスタフに上手くコントロールされているって感じでしたね。何か弱みでも握られているのかも」

「弱み? リリライト殿下がグスタフ卿に? 何か確証でも?」

 信じられないことを自信満々に言うコウメイに次々と疑問を浴びせかけるシンパ。コウメイは今しがた乗り越えてきた謁見の結果を考察するのに集中したかったが、シンパの立場から聞かずにはいられないのも納得できる。

 コウメイは嫌な顔など一つせず、真面目な表情で答える。

「確証なんてない……っていうか、無いのは確証だけです。2人が関与していること、リリライト姫様がグスタフに逆らえない状況にあること。この2つだけは間違いないと思って良いです」

「――そんな」

 グスタフがリリライトにバレずに裏でこそこそやっているというのならともかく――コウメイが包み隠さず話してくれたことは、とてもシンパには受け入れることは出来なかった。

 しかし昨日まで飄々としていた若者が、今こうして真摯に自信ありげにそういうことを、疑うことも出来なかった。

「あと、危険かも。グスタフを挑発し過ぎました」

「――は?」

「いや、口先で煙に巻かれないように相手を逆撫でして土俵に乗せたんですけど……思っていた以上にムカつく野郎だったんで、口が止まらなかったんですよ」

 その点については素直に反省するコウメイ。少なくとも、リリライトに1度諫められた後の暴言は不要だったはずだ。

「多分、長くここにいたら俺は殺される。クソ、ヘルベルト連合のことなんて全然調べられてないのに、参ったな」

 シンパなど、今聞かされたコウメイの話についていくのに一杯一杯なのに、コウメイはもう先の未来のことを思案している。ついこの間この地に来たばかりの若者の能力に感心すると共に、ずっとこの地にいるはずの自分が全く気付くことが出来なかったことを歯痒く感じる。

「俺はとりあえず早々に引き上げることにしますよ。で、ルエール騎士団長とカリオス殿下に事の次第を伝えて……まあ、その後は展開次第ってとこですね。出来るなら、シンパ卿も身を隠した方がいい」

「わ、私もですか?」

「少なからず、俺と接触しているし、本当に申し訳ないんですけど俺が仲良くなったなんて言っちゃったんで、あの豚親父は貴女にも目を付ける可能性もある」

 そう言ってシンパを見るコウメイの瞳に冗談の色は全く混じっていない。心底シンパの身を案じていることが感じられる。

 だからこそシンパも真剣に答える。

「――私は、第2王女の近衛である白薔薇騎士団の騎士団長です。何があろうと、リリライト王女殿下の御側を離れるわけにはいきません」

「ま、貴女の立場だと簡単に姿を消すことは出来ないでしょう。それにグスタフも貴女に手をかけようと思っても、すぐには出来ないと思いますから、急ぐ必要もないかな」

 自分で言っておきながら、シンパの返答を予想していたように返してくるコウメイ。この若者は一体どれくらいの先を予測しているのか。

「申し訳ないついでに、俺が引き上げるにあたってシンパ卿にお願いしたいことがあるんですけど、協力していただけますか?」

 遠慮なくそう言ってのけるコウメイに、シンパは内心舌を巻く。

 しかし、不思議と嫌な感情を彼に寄せることはない。彼は軽薄で飄々としているお調子者であることは確かだが、思慮深く誠実な人間だ。

現に、自分だけではなくシンパの身も案じてくれている。

それだけではなく、奴隷取引に関わっているというグスタフは糾弾しようとする意志が見え隠れするが、リリライトは何とか救おうとしてくれているのではないか。

 リリライトに対して絶対的な忠誠を誓っているシンパは、コウメイを信頼してみようという気になった。

「私で出来ることであれば」

 そんなシンパの返答に、コウメイはニカっと笑う。

「助かります。実は、御前試合の時から気になっていたんですが」

 そうしてコウメイはシンパに顔を近づけて「お願い事」を伝える。すると次第にシンパの表情が驚きで満たされていく。

「――まさか、そんなことが?」

「信じられませんか?」

 そういうコウメイは不安どころか、自信満々だった。シンパがコウメイの言うことを拒絶するはずがないと確信している表情。

「いや、確かにコウメイ殿がおっしゃることには筋が通っていて、否定することが出来ない、足りないのは相変わらず証拠だけだが、こうなればとことん信じてみましょう。間違っていたら、一緒に笑って謝ってもらえれば、それでいいです」

「にゃはは。シンパ卿もそういう冗談言うんですね」

 そう言って笑うコウメイに、シンパも笑みを零す。

「――全く貴方という人は、随分と若いのに恐ろしいくらい冴えた方だ。さしずめ、先ほどの謁見の結果は完全勝利といった感じではないですか?」

 そう言えば自信満々に肯定してくるだろうと思っていたシンパの思惑を、これまでしてきたのと同じように、コウメイは裏切る。

 コウメイはそう問われれば、今までに見せたことがない、暗い表情で顔をうつむかせた。

「グスタフが何故、どうやってリリライト姫様を操っているのか。いや、姫様だけではなく御前試合のことも……何一つ分からない。こっちは後手に回るしかなくて圧倒的不利な状況ですよ。贔屓目に見ても、勝敗結果は『痛み分け』ってところです」

 最後の方は苦笑しながら、そう零すコウメイ。

「それでも、最終的に負ける気は全くないですけど」

 彼はシンパに言うではなく、自分に言い聞かせるように言うと、そのまま馬車の窓から外を見る。馬車の進む速度に合わせて流れていく風景をボーっと見ながら、何ともなしにつぶやく。

「こりゃ、思っている以上に大事になるかもなぁ」
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