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最終章 エピローグ編
第139話 大決戦前
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王都ユールディアでの大演説後。
聖アルマイト王国内の反乱――第1王子派と第2王女派の本格的な武力衝突が開始されようとしていた。
ミュリヌス領に隣接する領地を治めていたガルス侯、アルムガルド侯の2領主は既に第1王子派に叛意を示して、第2王女派についている。
したがって、緒戦の場所となる地はガルス領から見て王都ユールディア方面に隣接するグラシャス領である。
「緒戦は極めて重要です」
大演説を受けて第2王女派は戦闘準備を進めており、今にもグラシャス領に押し寄せてくる気配を見せている。カリオス側もそれに備えるべく、急ぎ迎撃態勢を整えなければいけない。
まずはそのことについて、国王代理カリオスと軍事最高責任者となった元帥コウメイは2人で意見を交わしていた。
「絶対に負けられないってことだな?」
その通り、とコウメイは首をうなずかせた。
「ミュリヌス領で見てきた通り、とにかく新白薔薇騎士団――にグスタフの「異能」の影響にかかった人間は圧倒的な強さを誇ります。厳しい戦いになるのは間違いない。でも、万が一ここで負けた場合、それは後々に影響を及ぼす致命的なものになります」
このグラシャス領の戦いにおける敵の予想戦力は、ガルス侯麾下の部隊を中心とした龍の爪と新白薔薇騎士団の混成部隊だろう。当然のことながらフェスティアが総指揮官を担い、リアラやミリアムといった主だった戦力も惜しみなく投入してくることは明らかだった。
対して第1王子派の戦力は、現地戦力のグラシャス侯部隊が主戦力となる。
「王都からはどれくらい戦力を向けられる?」
「龍牙騎士団1個大隊を急ぎ送っています。指揮官はジュリアス将軍にお願いしました」
「ジュリアス? あいつ、もう大丈夫なのか?」
ミュリヌス領の戦いで片目を失ったジュリアスだったが、直接戦闘はともかくとして、部隊指揮についてはほぼ問題ないレベルまで回復している。本人の希望もあって、コウメイは彼を推した。
「この緒戦が重要なのはあちらも分かっているので、おそらくはほぼ全戦力を投入してくるでしょう。予想規模は5万程度。こちらはグラシャス侯の部隊2万に、ジュリアス将軍率いる龍牙騎士団3万――世間的には、どう見られますかね?」
数の上では互角――しかし第2王女派の部隊構成には、ガルス侯指揮下の一般兵、ヘルベルト連合の龍の爪や元近衛騎士団の新白薔薇騎士団で、こちらは大陸最高峰の練度をもつ龍牙騎士団が部隊の半分以上を占めている。
更に言うならば、今回急ぎ派遣出来た龍牙騎士団は3万だが、王都から逐次増援を送ることが出来る。
誰がどう見ても、第1王子派の圧倒的有利である。
「ただ実際にはグスタフの「異能」のことを考えると、特に新白薔薇騎士団は侮れない。世間は「異能」なんてこと知らないから、第1王子派の勝利を信じて疑わない。相手が付け込んでこようとするのは正にそこで、おそらく今回は小賢しい策略無しの力押しで攻めてくるでしょうね。あの『女傑』ならば」
そこまでのコウメイの説明で、言わんとすることがカリオスにも分かってきた。
「力押しでは負けないところを見せつけないと、諸国が敵に回るってわけか」
コウメイは首を縦にうなずかせる。
カリオスの強烈な大演説の影響もあってか、結局第2王女派へ帰順する勢力はほとんど見られなかった。しかしそれは国内だけの話であり、隙あらば聖アルマイトに代わり大陸の覇権を握ろうとする諸外国は、慎重に情勢を見守っているに違いない。
最も警戒すべきは南のファヌス魔法大国だ。アンナの治療に一区切りをつけて、ファヌス魔法大国の第1王子イルギルスは帰国したが、彼が言っていたように状況次第では、ファヌス魔法大国が攻撃を仕掛けて来る可能性は少なくはないとコウメイは考えている。
そして統治下にあるとはいえ、北東のネルグリア帝国――今は新カリオス派の諸侯ダイグロフ侯統治の下安定しているが、未だ聖アルマイトへ反感を持つ勢力は存在している。今回の反乱に乗じて武力蜂起を起こすとも限らない。
要するにただの力押しなど通用しないことを見せつけておかなくては、他国から攻め入られる隙を与えることになる。最悪の場合、第2王女側に協力する国すらいるだろう。
フェスティアが狙ってくるのは、まさにその1点。緒戦を力押しで勝利し、他国へ動揺を与えて、各方面から聖アルマイトが攻め込まれる状況を作ることを画策しているはずだ。世間に知られてない「異能」の効果を最大限に活用した策謀である。
「本当に厄介な奴が敵に回ったもんだな。追加の増援部隊はどうするんだ? その指揮官は? 勝算はついているんだろうな?」
珍しく焦りが声ににじみ出ているカリオスの矢継ぎ早な質問に、コウメイは自信たっぷりな笑みを浮かべて、ゆっくりとうなずいた。
「ご安心を。相手の狙いが分かっている以上、こちらもやりようはあります。勿論、賞賛だってありますよ」
その時程、カリオスがコウメイを頼もしいと思ったことは無かったかもしれない。そう思わせるほどの表情を、コウメイは見せていた。
「こっちもリスクを背負うことにはなりますが……フェスティアが狙ってくるのがそれだと分かっているのだから、こっちは付き合わなければいいだけです」
そうして、コウメイが秘策をカリオスへ語っていく。
「――なるほど。確かにリスクは大きいが……おもしれぇ。そんな考え方、お前にしか出来ねぇだろうし、やってみろ。ただ、必ず勝てよ」
コウメイの策にうなずくカリオスも、それを聞いた後は不敵な笑みを浮かべていた。
「――それでは、グラシャス領を“絶対防衛線”と称して戦いに臨みましょう。この戦い、緒戦にして決して負けられない大決戦になりますよ」
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
時を同じくして、ミュリヌス領内リリライト邸の謁見室。
そこの主たる人物は第2王女リリライトであるはずなのに、用意された豪奢な玉座には、そこに似つかわしくない醜悪な肥満中年が座っていた。
言うまでもなく、この一連の反乱を裏で操る元大臣グスタフである。
「緒戦は極めて重要です」
グスタフの前に膝をつくのは、第2王女派の軍事最高責任者であるフェスティア=マリーン。第2王女派においては『軍師』という役職を与えられていた。
開戦を間近に控えて、フェスティアは自ら部隊を率いてグラシャス領へ攻め入ることとなっていた。
「力押しで押し勝ってしまえば、状勢を見守っている周辺諸国が私たちの動きに呼応して王都ユールディアへ攻め入るでしょう。緒戦ながら、この戦争自体の勝敗を決し得るほどの影響を与える大決戦となります」
「ふむぅ……。それにしてもあのクソ王子、意外な演説をしおったのう」
カリオスの大演説の内容は、グスタフやフェスティアも聞き及んでいた。
それを聞いてフェスティアは己の見通しが楽観的だったと後悔した。あの第1王子のリリライトの溺愛ぶりはフェスティアも知るところで、真意はどうあれ、あの大々的な場所で、ああまで堂々とリリライトのことを断罪することなど出来ないと思っていたのだ。
現にこちらからの宣戦布告に対する反対声明も遅れに遅れており、そんな優柔不断なカリオスに対して、聖アルマイト国内の中でも不信を持った諸侯を、もっとこちら側に引き込めると目論んでいたが、結局第2王女派に吸収できたのは、ガルス侯とアルムガルド侯の2領主のみであった。
「クソ忌々しい王子じゃのう。あんなふざけた演説で、熱狂する愚民共も愚民共じゃがのう」
ネチネチと愚痴を吐くグスタフ。
しかし政治家としてのフェスティアは、そのカリオスの演説に関しては巧妙だと認めざるを得なかった。
これまでカリオスが見せてきた民衆への王族らしからぬ態度――見事それに沿った内容だ。
あれが普段から王族らしく、権力を笠にかけて威張り散らしている権力者であればああはいかなかったろう。
普段から民に親しく接しながら寄り添っていた王子だからこそ、その謝罪が民に受け入れられ、横暴にも取られる過激な発言すらも受け入れられたのだろう。更にいえば問題視されていた普段の妹への溺愛ぶりも、決断までに時間が要した理由として、国民に受け入れられたようだ。
結果的に、カリオスはあの演説で国内の結束を固めることに成功し、大きな成果を得たのだ。
(あの男のやり方なのかしらね。やはり、油断は出来ないわね)
あの男というのは、今回の戦争でフェスティアが最も厄介だと見定めたコウメイのことである。どうも元帥とやらに任命されて、第1王子派において、今のフェスティアと同じ立場に抜擢されたようだ。
実際には、あれはコウメイの意図も策略も何もなく、ただのカリオスの素の演説だったわけだが、それでもフェスティアはコウメイによる演出が仕掛けられていたと邪推する。
「ふん、まああのエロ豚にはさんざん叩き込んでやったわ。お前は兄に嫌われたとな。全力で殺しにくるから、お前も全力で殺すじゃとな。ぐひひひ、これから好き合っているはずの兄と妹が、全力で憎しみ合って殺し合う醜い骨肉の争いが繰り広げられるんじゃて。最高に楽しみじゃのう。ぐひひひひぅ」
何よりも醜いのは、そのことに愉悦を感じるグスタフ本人だった。
この悪魔は、肉欲だけではなく、ありとあらゆる陰鬱で残酷なことを好み、至上の悦びを感じる最低最悪な生物である。
「――で? 勿論勝算はあるんじゃろうなぁ? 負けることなど許さんぞう?」
グスタフは、その醜悪な濁った瞳をギロリとフェスティアに向ける。フェスティアはいつものように余裕たっぷりの笑みを浮かべると
「勿論です、グスタフ様。相手の出方はおおよそ察しがついていますよ」
フェスティアの見通しでは数字の上でお彼我戦力はほぼ拮抗するはずだ。ただし構成する兵士の練度でいえば、龍の爪や元白薔薇騎士で構成されているこちらが遥かに劣るため、世間からはこちらが不利だとみられているに違いない。
しかし、相手の指揮官コウメイは、グスタフの「異能」を目の当たりにして、その強烈さを知っている。そのまま馬鹿正直に、力の押し合いに応じてくるはずがない。
こちらの狙いが力押しだと察しているからこそ、そこには付き合ってこないだろう。
「とはいえ、第1王子派にとって緒戦でグラシャス領をこちらに抑えられてしまえば、大きな痛手になるのも間違いない。絶対防衛線と定めて、必ず死守しようとしてくるでしょう」
そうしてコウメイの立場から取ってくるであろう方針は“防衛戦”のはずだ。
真っ向勝負の消耗戦による早期決戦よりも、それには取り合わないでひたすら防衛に徹して、長期戦に持ち込もうとするはずだ。長期戦となれば、こちらは資源も尽きて疲弊してくるし、王都からの増援部隊を投入する時間も出来る。そうやってこちらの隙が出来たタイミングを突いて撃退しようとしてくるだろう。それが最も堅実で効率的な作戦だ。
それに対して、フェスティアは“いやらしい”策略家らしく、相手の望まぬ“消耗戦による早期決戦”に持ち込むと画策する。
「ドロドロの消耗戦に持ち込むために有効なことは、領内の非戦闘員を容赦なく虐殺することです。そうすれば、領民を守るために相手も出て来ざるを得ず、結果的にお互いの全兵力を持った正面衝突に発展させられますわ」
「ほう、なかなか面白そうな作戦じゃな。しかし相手は龍牙騎士が大半じゃぞ。勿論勝ち目はあるんじゃろうな」
「当然です、グスタフ様。先般のフォルテア森林帯の戦いで見たように、新白薔薇騎士団の強さは龍牙騎士団にも劣りませんわ。今回はリアラやミリアムといった、強力な手駒も全て投入します。正面きっての力の押し合いにある以上、こちらもある程度の損害は覚悟しなければいけませんが、数の上でも互角なのであれば、きっと彼女らが龍牙騎士団など蹴散らしてくれるでしょう。
それにこちらの損害は気にしなくてもいいのです。こちらが犠牲にするのは龍の爪の奴隷兵士――いくらでも代替がきく最下層の人間を有能な新白薔薇騎士団の盾にすれば、今後の戦いにもさして重要な影響は及ぼしません。そして、グラシャス領を見事奪い取ってみせましょう。緒戦でここを陥とせれば、相手の士気を大きく削ぐことにもなり、戦略的にも大きな価値が生まれます」
自信たっぷりなフェスティアの作戦に、グスタフは満足そうに笑う。
「ぐひゃひゃひゃ、本当にフェスティアを飼っておったのは正解じゃったわい。その調子で頼むぞ。言っておくが、ワシは勝利報告しか聞かんからのぅ。敵は徹底的に皆殺しにするんじゃぞ。――おう、そうじゃ。但し、占領した後にワシも現地に行くから、良い女は殺さず取っておくんじゃぞ」
「くす、勿論です」
相変わらずのグスタフの言葉に、フェスティアはにっこりと笑う。
「それでは、そろそろ行ってまいりますね。必ずや吉報を持ち帰るとお約束します。……ただ、その前に……」
フェスティアはおもむろに上着を脱ぎすてると、衣服のボタンを1つ1つ外していく。薄ピンク色の下着に包まれた双丘を露わにしてすると
「しばらくはグスタフ様のお目にかかれないようになります。その前にどうか、濃厚ドスケベセックスで、フェスティアの頭をチンポ漬けにして下さい」
フェスティアは、その才と美に恵まれた瞳を欲情に潤ませて、媚びた雌のように頬を赤らめて、フェスティアは甘い声でグスタフに訴える。
「ぐひっ、ぐひひひひっ! よかろう、今ここで犯してやるわぁ!」
――かくして、第1王子派VS第2王女派の戦争、その緒戦ながらにして大決戦となる、グラシャス領の戦いが始まろうとしていた。
聖アルマイト王国内の反乱――第1王子派と第2王女派の本格的な武力衝突が開始されようとしていた。
ミュリヌス領に隣接する領地を治めていたガルス侯、アルムガルド侯の2領主は既に第1王子派に叛意を示して、第2王女派についている。
したがって、緒戦の場所となる地はガルス領から見て王都ユールディア方面に隣接するグラシャス領である。
「緒戦は極めて重要です」
大演説を受けて第2王女派は戦闘準備を進めており、今にもグラシャス領に押し寄せてくる気配を見せている。カリオス側もそれに備えるべく、急ぎ迎撃態勢を整えなければいけない。
まずはそのことについて、国王代理カリオスと軍事最高責任者となった元帥コウメイは2人で意見を交わしていた。
「絶対に負けられないってことだな?」
その通り、とコウメイは首をうなずかせた。
「ミュリヌス領で見てきた通り、とにかく新白薔薇騎士団――にグスタフの「異能」の影響にかかった人間は圧倒的な強さを誇ります。厳しい戦いになるのは間違いない。でも、万が一ここで負けた場合、それは後々に影響を及ぼす致命的なものになります」
このグラシャス領の戦いにおける敵の予想戦力は、ガルス侯麾下の部隊を中心とした龍の爪と新白薔薇騎士団の混成部隊だろう。当然のことながらフェスティアが総指揮官を担い、リアラやミリアムといった主だった戦力も惜しみなく投入してくることは明らかだった。
対して第1王子派の戦力は、現地戦力のグラシャス侯部隊が主戦力となる。
「王都からはどれくらい戦力を向けられる?」
「龍牙騎士団1個大隊を急ぎ送っています。指揮官はジュリアス将軍にお願いしました」
「ジュリアス? あいつ、もう大丈夫なのか?」
ミュリヌス領の戦いで片目を失ったジュリアスだったが、直接戦闘はともかくとして、部隊指揮についてはほぼ問題ないレベルまで回復している。本人の希望もあって、コウメイは彼を推した。
「この緒戦が重要なのはあちらも分かっているので、おそらくはほぼ全戦力を投入してくるでしょう。予想規模は5万程度。こちらはグラシャス侯の部隊2万に、ジュリアス将軍率いる龍牙騎士団3万――世間的には、どう見られますかね?」
数の上では互角――しかし第2王女派の部隊構成には、ガルス侯指揮下の一般兵、ヘルベルト連合の龍の爪や元近衛騎士団の新白薔薇騎士団で、こちらは大陸最高峰の練度をもつ龍牙騎士団が部隊の半分以上を占めている。
更に言うならば、今回急ぎ派遣出来た龍牙騎士団は3万だが、王都から逐次増援を送ることが出来る。
誰がどう見ても、第1王子派の圧倒的有利である。
「ただ実際にはグスタフの「異能」のことを考えると、特に新白薔薇騎士団は侮れない。世間は「異能」なんてこと知らないから、第1王子派の勝利を信じて疑わない。相手が付け込んでこようとするのは正にそこで、おそらく今回は小賢しい策略無しの力押しで攻めてくるでしょうね。あの『女傑』ならば」
そこまでのコウメイの説明で、言わんとすることがカリオスにも分かってきた。
「力押しでは負けないところを見せつけないと、諸国が敵に回るってわけか」
コウメイは首を縦にうなずかせる。
カリオスの強烈な大演説の影響もあってか、結局第2王女派へ帰順する勢力はほとんど見られなかった。しかしそれは国内だけの話であり、隙あらば聖アルマイトに代わり大陸の覇権を握ろうとする諸外国は、慎重に情勢を見守っているに違いない。
最も警戒すべきは南のファヌス魔法大国だ。アンナの治療に一区切りをつけて、ファヌス魔法大国の第1王子イルギルスは帰国したが、彼が言っていたように状況次第では、ファヌス魔法大国が攻撃を仕掛けて来る可能性は少なくはないとコウメイは考えている。
そして統治下にあるとはいえ、北東のネルグリア帝国――今は新カリオス派の諸侯ダイグロフ侯統治の下安定しているが、未だ聖アルマイトへ反感を持つ勢力は存在している。今回の反乱に乗じて武力蜂起を起こすとも限らない。
要するにただの力押しなど通用しないことを見せつけておかなくては、他国から攻め入られる隙を与えることになる。最悪の場合、第2王女側に協力する国すらいるだろう。
フェスティアが狙ってくるのは、まさにその1点。緒戦を力押しで勝利し、他国へ動揺を与えて、各方面から聖アルマイトが攻め込まれる状況を作ることを画策しているはずだ。世間に知られてない「異能」の効果を最大限に活用した策謀である。
「本当に厄介な奴が敵に回ったもんだな。追加の増援部隊はどうするんだ? その指揮官は? 勝算はついているんだろうな?」
珍しく焦りが声ににじみ出ているカリオスの矢継ぎ早な質問に、コウメイは自信たっぷりな笑みを浮かべて、ゆっくりとうなずいた。
「ご安心を。相手の狙いが分かっている以上、こちらもやりようはあります。勿論、賞賛だってありますよ」
その時程、カリオスがコウメイを頼もしいと思ったことは無かったかもしれない。そう思わせるほどの表情を、コウメイは見せていた。
「こっちもリスクを背負うことにはなりますが……フェスティアが狙ってくるのがそれだと分かっているのだから、こっちは付き合わなければいいだけです」
そうして、コウメイが秘策をカリオスへ語っていく。
「――なるほど。確かにリスクは大きいが……おもしれぇ。そんな考え方、お前にしか出来ねぇだろうし、やってみろ。ただ、必ず勝てよ」
コウメイの策にうなずくカリオスも、それを聞いた後は不敵な笑みを浮かべていた。
「――それでは、グラシャス領を“絶対防衛線”と称して戦いに臨みましょう。この戦い、緒戦にして決して負けられない大決戦になりますよ」
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時を同じくして、ミュリヌス領内リリライト邸の謁見室。
そこの主たる人物は第2王女リリライトであるはずなのに、用意された豪奢な玉座には、そこに似つかわしくない醜悪な肥満中年が座っていた。
言うまでもなく、この一連の反乱を裏で操る元大臣グスタフである。
「緒戦は極めて重要です」
グスタフの前に膝をつくのは、第2王女派の軍事最高責任者であるフェスティア=マリーン。第2王女派においては『軍師』という役職を与えられていた。
開戦を間近に控えて、フェスティアは自ら部隊を率いてグラシャス領へ攻め入ることとなっていた。
「力押しで押し勝ってしまえば、状勢を見守っている周辺諸国が私たちの動きに呼応して王都ユールディアへ攻め入るでしょう。緒戦ながら、この戦争自体の勝敗を決し得るほどの影響を与える大決戦となります」
「ふむぅ……。それにしてもあのクソ王子、意外な演説をしおったのう」
カリオスの大演説の内容は、グスタフやフェスティアも聞き及んでいた。
それを聞いてフェスティアは己の見通しが楽観的だったと後悔した。あの第1王子のリリライトの溺愛ぶりはフェスティアも知るところで、真意はどうあれ、あの大々的な場所で、ああまで堂々とリリライトのことを断罪することなど出来ないと思っていたのだ。
現にこちらからの宣戦布告に対する反対声明も遅れに遅れており、そんな優柔不断なカリオスに対して、聖アルマイト国内の中でも不信を持った諸侯を、もっとこちら側に引き込めると目論んでいたが、結局第2王女派に吸収できたのは、ガルス侯とアルムガルド侯の2領主のみであった。
「クソ忌々しい王子じゃのう。あんなふざけた演説で、熱狂する愚民共も愚民共じゃがのう」
ネチネチと愚痴を吐くグスタフ。
しかし政治家としてのフェスティアは、そのカリオスの演説に関しては巧妙だと認めざるを得なかった。
これまでカリオスが見せてきた民衆への王族らしからぬ態度――見事それに沿った内容だ。
あれが普段から王族らしく、権力を笠にかけて威張り散らしている権力者であればああはいかなかったろう。
普段から民に親しく接しながら寄り添っていた王子だからこそ、その謝罪が民に受け入れられ、横暴にも取られる過激な発言すらも受け入れられたのだろう。更にいえば問題視されていた普段の妹への溺愛ぶりも、決断までに時間が要した理由として、国民に受け入れられたようだ。
結果的に、カリオスはあの演説で国内の結束を固めることに成功し、大きな成果を得たのだ。
(あの男のやり方なのかしらね。やはり、油断は出来ないわね)
あの男というのは、今回の戦争でフェスティアが最も厄介だと見定めたコウメイのことである。どうも元帥とやらに任命されて、第1王子派において、今のフェスティアと同じ立場に抜擢されたようだ。
実際には、あれはコウメイの意図も策略も何もなく、ただのカリオスの素の演説だったわけだが、それでもフェスティアはコウメイによる演出が仕掛けられていたと邪推する。
「ふん、まああのエロ豚にはさんざん叩き込んでやったわ。お前は兄に嫌われたとな。全力で殺しにくるから、お前も全力で殺すじゃとな。ぐひひひ、これから好き合っているはずの兄と妹が、全力で憎しみ合って殺し合う醜い骨肉の争いが繰り広げられるんじゃて。最高に楽しみじゃのう。ぐひひひひぅ」
何よりも醜いのは、そのことに愉悦を感じるグスタフ本人だった。
この悪魔は、肉欲だけではなく、ありとあらゆる陰鬱で残酷なことを好み、至上の悦びを感じる最低最悪な生物である。
「――で? 勿論勝算はあるんじゃろうなぁ? 負けることなど許さんぞう?」
グスタフは、その醜悪な濁った瞳をギロリとフェスティアに向ける。フェスティアはいつものように余裕たっぷりの笑みを浮かべると
「勿論です、グスタフ様。相手の出方はおおよそ察しがついていますよ」
フェスティアの見通しでは数字の上でお彼我戦力はほぼ拮抗するはずだ。ただし構成する兵士の練度でいえば、龍の爪や元白薔薇騎士で構成されているこちらが遥かに劣るため、世間からはこちらが不利だとみられているに違いない。
しかし、相手の指揮官コウメイは、グスタフの「異能」を目の当たりにして、その強烈さを知っている。そのまま馬鹿正直に、力の押し合いに応じてくるはずがない。
こちらの狙いが力押しだと察しているからこそ、そこには付き合ってこないだろう。
「とはいえ、第1王子派にとって緒戦でグラシャス領をこちらに抑えられてしまえば、大きな痛手になるのも間違いない。絶対防衛線と定めて、必ず死守しようとしてくるでしょう」
そうしてコウメイの立場から取ってくるであろう方針は“防衛戦”のはずだ。
真っ向勝負の消耗戦による早期決戦よりも、それには取り合わないでひたすら防衛に徹して、長期戦に持ち込もうとするはずだ。長期戦となれば、こちらは資源も尽きて疲弊してくるし、王都からの増援部隊を投入する時間も出来る。そうやってこちらの隙が出来たタイミングを突いて撃退しようとしてくるだろう。それが最も堅実で効率的な作戦だ。
それに対して、フェスティアは“いやらしい”策略家らしく、相手の望まぬ“消耗戦による早期決戦”に持ち込むと画策する。
「ドロドロの消耗戦に持ち込むために有効なことは、領内の非戦闘員を容赦なく虐殺することです。そうすれば、領民を守るために相手も出て来ざるを得ず、結果的にお互いの全兵力を持った正面衝突に発展させられますわ」
「ほう、なかなか面白そうな作戦じゃな。しかし相手は龍牙騎士が大半じゃぞ。勿論勝ち目はあるんじゃろうな」
「当然です、グスタフ様。先般のフォルテア森林帯の戦いで見たように、新白薔薇騎士団の強さは龍牙騎士団にも劣りませんわ。今回はリアラやミリアムといった、強力な手駒も全て投入します。正面きっての力の押し合いにある以上、こちらもある程度の損害は覚悟しなければいけませんが、数の上でも互角なのであれば、きっと彼女らが龍牙騎士団など蹴散らしてくれるでしょう。
それにこちらの損害は気にしなくてもいいのです。こちらが犠牲にするのは龍の爪の奴隷兵士――いくらでも代替がきく最下層の人間を有能な新白薔薇騎士団の盾にすれば、今後の戦いにもさして重要な影響は及ぼしません。そして、グラシャス領を見事奪い取ってみせましょう。緒戦でここを陥とせれば、相手の士気を大きく削ぐことにもなり、戦略的にも大きな価値が生まれます」
自信たっぷりなフェスティアの作戦に、グスタフは満足そうに笑う。
「ぐひゃひゃひゃ、本当にフェスティアを飼っておったのは正解じゃったわい。その調子で頼むぞ。言っておくが、ワシは勝利報告しか聞かんからのぅ。敵は徹底的に皆殺しにするんじゃぞ。――おう、そうじゃ。但し、占領した後にワシも現地に行くから、良い女は殺さず取っておくんじゃぞ」
「くす、勿論です」
相変わらずのグスタフの言葉に、フェスティアはにっこりと笑う。
「それでは、そろそろ行ってまいりますね。必ずや吉報を持ち帰るとお約束します。……ただ、その前に……」
フェスティアはおもむろに上着を脱ぎすてると、衣服のボタンを1つ1つ外していく。薄ピンク色の下着に包まれた双丘を露わにしてすると
「しばらくはグスタフ様のお目にかかれないようになります。その前にどうか、濃厚ドスケベセックスで、フェスティアの頭をチンポ漬けにして下さい」
フェスティアは、その才と美に恵まれた瞳を欲情に潤ませて、媚びた雌のように頬を赤らめて、フェスティアは甘い声でグスタフに訴える。
「ぐひっ、ぐひひひひっ! よかろう、今ここで犯してやるわぁ!」
――かくして、第1王子派VS第2王女派の戦争、その緒戦ながらにして大決戦となる、グラシャス領の戦いが始まろうとしていた。
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「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
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のぞみ
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