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父の仕事は作家だよ

父の仕事は作家だよ

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【※挿絵画像は、「フリー素材ぱくたそ」様の『相合傘の下でお一人様をアピールする失恋少女』を加工したものです】
【●クレジット表記・フリー写真素材ぱくたそ(https://www.pakutaso.com/)様・ photo by エリー様 model by 河村友歌様 ※ 加工及び文字入れは、バナー工房様(https://www.bannerkoubou.com/)を利用しました。 この場をお借りして、ぱくたそ様、エリー様、河村友歌様、バナー工房様にお礼を申し上げます】

【本文】



「私のお父さんは小説家です」

 私は小学生の時、学校の作文で父のことを書きました。同級生から「すごいね!」などと言われて、少し父のことは、自慢に思ったのを覚えています。
 中学に上がり、インターネット使うようになり、父の筆名を検索した時のことです。「マヂ?」私は言葉を失いました。

 あろうことか父は、いやらしいゲームのシナリオや、あっち系の小説も手がけていたのです。女性である私にとって、言葉で表現できないほどのショックでした。父を泣きじゃくりながら、問いただしたことを覚えています。

「お父さん! いやらしい仕事でお金をかせいでいるの?」

 父の答えは言い古された言葉でした。

「生活のためだ」

「サイテー。いやらしいことで稼いだお金で、私のご飯や服も買っていたんだ~!」

 作品の中で私と同世代の女の子にエッチなことをする。それで、お金をもうけているなんて考えるだけで、ぞっとします。
 それ以来、父が作家ということは、誰にも言わなくなりました。いえ、言いたくない、考えたくないのが本音です。
 趣味の読書、詩を書くのもやめました。それらが好きだった自分が、憎らしいです。

 私は高校を卒業するまでは、実家で生活をしました。父とは、ほとんど会話をしなかったのを、覚えています。

 高校を卒業すると会社員になり、家を出て、一人暮らしを始めました。父が『いやらしい』ことで得た収入などに、頼りたくなかったからです。

 仕事のストレスは想像以上の苦しさで、趣味がないと、心も体も持ちません。
 詩や小説を再びネットで書くことにしました。小説が好きな人のネットコミュニティにも、入りました。

 幸いなことに、趣味で発表していた小説が人気となりました。読者さまのおかげです。
 商業作家として文庫本を出せるまでになりました。
 私は作家とし生活する決意をして、会社を辞め、執筆活動に明け暮れました。
 しかし、そう簡単に次から次へ、仕事が続く訳ではありません。しかも、作品を書き続けれなけらば、生活は苦しくなります。
 
 ネットコミュニティ仲間の親友が仕事を紹介してくれました。
 アダルトゲームのシナリオ作成です。私は別の筆名でシナリオを書き上げました。

 ありがたいことに、ゲームが大ヒットし、アニメやパチスロにまでなったのです!
 私は一足飛びに、有名作家の仲間入りを果たせました。

 しかし、困ったこともあるのです。普段、使っている筆名で、有名になったのではありません。
 あっち系用の筆名で広く知られたのです。

 仕事の依頼は、あくまでも、あっち系用の筆名で来るのです。
 ファンレターもたくさん来るのですが、中には心ない人から、「お下品、お死になさい」というような中傷が混ざっていました。
 私が女性だからでしょう。とても、いやらしい質問を書いた手紙まで来ます。

 私は、そういう手紙を読むたび、こんな仕事はやめたい。本気で悩み、枕を涙で濡らす夜もありました。
 しかし、ファンの期待を裏切ることはできません。

 つらさがマックスになったとき、中学生の頃、父をなじったことがいつも脳裏を掠めます。
 父は家族のため、こういう中傷に耐え抜いてくれたんだ。作家の仕事を続けていたんだろう。
 しかも、娘である私から、あんなことを言われて、どんなにつらかっただろうかと。

***

 数年ぶりに父に電話をしました。父の声が懐かしく聴こえます。私はあの時のことを謝りました。父は、

「覚えていないな?」

と言っています。私は声を整えながら、訊ねました。

「お父さんも、ファンを裏切らないために、あっち系の作品も書いていたんでしょう?」

「オレか? オレは高校生の時にな、エロ同人サークルに入って、それからずっと好きで書いているぞ」

 私は、怒りを抑えられず、電話機を床に叩きつけました。(『父の仕事は作家だよ』完)
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