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誰がための華成れば
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明らかに廃壊し、屍の遍く冥界の一面を戦きもせず淡々と駆ける。
見慣れた光景が指す事柄は、まさに地獄そのもので。
鮮血の滴る刀を握り、黒繻子の髪を羽ばたかせ、まさに異界そのものの酷くくすんだ戦野を駆ける少女の様はまさに異様。
枯れ死んだ彼女の瞳には、無論瞼の裏にも脳裏にも。
「希望」の「き」の字も存在しない。
それなのに。
絶望を覆さんとする者の刀と成り果て、それが当然であるかのようにただ刀を、身体を、手を。
糸を引く人形遊びのように。
赤く、紅く、朱く、染め上げる。
*
「目標を確認。計23体。<ゼイヴ>式別"セルビス"。抹殺許可を要請。」
駆け抜ける速度を緩めず、"人型モルモット"の群に黒々と鮮血の蝕む刀の刃をカチャリと向ける。
抹殺対象到達まで300メートルとわずか。
早々に片してしまおうと、足の速度をまた一段階速める。
が。
『否定。許可出来ない。』
無線のマイクスピーカーからは、確信とは異なる返答。
すぐさま反応し、前転で付近にあった岩陰に身を隠す。
「何故。何か問題が。」
『"セルビス"が23体だよ?無茶だよ姉ちゃん…』
「問題ない。許可を。」
雑魚が数体泳いでいるだけだ。100いたとて苦でもなかろう。それ以上いたとしても、私は同じように紛い物の群に駆けていくのだろう。
《死にたがり》
これが私にとって1番の似合いのコトノハだろう。
それが今の私の生きる意味であり、任務であるととうの昔に認識済みだ。
今更命乞いも生への執着も持ち合わせてはいない。
『……あまり暴れず、消音戦闘で。他の<ゼイヴ>に寄られると面倒だから』
「了解。」
『任務続行を許可。…死なないでね』
「…了解。」
続き見やる"人型モルモット"の群。
モルモットはモルモット(実験対象)らしく、自らの任務に没頭していればいいものを。
死神から救済者にまで成り下がり、抹殺するものが人外とは。
刀にへばりつく鮮血を横目に、再度《死にたがり》の私はくすんだ戦野を駆けた。
*
怒号も罵倒も、特に気にはならなかった。
疑問には思ったが、考えるだけ無駄だと悟った。
涙などもう何年流していないだろうか。
そのくらいに、私にはどうでもよかった。
冷たい。
それしか思わなかった。
それしか思えなかったのか。
移り変わりの季節なのだから当たり前か。
キンモクセイがまだほのかに香る今には聞きなれない豪快な水流の音が廊下に響いた。
黒繻子の髪から水が滴り、一層艷めく。
かつては綺麗だったのだろうか、枯れ死んだ朱と黄の色のガラス玉のような瞳が見上げた。
3人。
派手なネイル。
つんざくような香水の香り。
私を見下ろす、同じく朱と黄の瞳。
あとの2人は群青と黄の瞳。
同じ場所、同じバケツ、
「死ねよ、クズ。」
「顔がいいからって調子乗んなよ。」
同じ言葉。
何度水をかけられても、同じ言葉を浴びても、ため息のひとつも出なかった。
涙の一滴も私の頬を伝うことはなかった。
命令は絶対。
民間人に危害を加えることは決してしない。
私はただ、任務が遂行できるのであればそれ以上何も望まないだけだ。
それだけだった。
見慣れた光景が指す事柄は、まさに地獄そのもので。
鮮血の滴る刀を握り、黒繻子の髪を羽ばたかせ、まさに異界そのものの酷くくすんだ戦野を駆ける少女の様はまさに異様。
枯れ死んだ彼女の瞳には、無論瞼の裏にも脳裏にも。
「希望」の「き」の字も存在しない。
それなのに。
絶望を覆さんとする者の刀と成り果て、それが当然であるかのようにただ刀を、身体を、手を。
糸を引く人形遊びのように。
赤く、紅く、朱く、染め上げる。
*
「目標を確認。計23体。<ゼイヴ>式別"セルビス"。抹殺許可を要請。」
駆け抜ける速度を緩めず、"人型モルモット"の群に黒々と鮮血の蝕む刀の刃をカチャリと向ける。
抹殺対象到達まで300メートルとわずか。
早々に片してしまおうと、足の速度をまた一段階速める。
が。
『否定。許可出来ない。』
無線のマイクスピーカーからは、確信とは異なる返答。
すぐさま反応し、前転で付近にあった岩陰に身を隠す。
「何故。何か問題が。」
『"セルビス"が23体だよ?無茶だよ姉ちゃん…』
「問題ない。許可を。」
雑魚が数体泳いでいるだけだ。100いたとて苦でもなかろう。それ以上いたとしても、私は同じように紛い物の群に駆けていくのだろう。
《死にたがり》
これが私にとって1番の似合いのコトノハだろう。
それが今の私の生きる意味であり、任務であるととうの昔に認識済みだ。
今更命乞いも生への執着も持ち合わせてはいない。
『……あまり暴れず、消音戦闘で。他の<ゼイヴ>に寄られると面倒だから』
「了解。」
『任務続行を許可。…死なないでね』
「…了解。」
続き見やる"人型モルモット"の群。
モルモットはモルモット(実験対象)らしく、自らの任務に没頭していればいいものを。
死神から救済者にまで成り下がり、抹殺するものが人外とは。
刀にへばりつく鮮血を横目に、再度《死にたがり》の私はくすんだ戦野を駆けた。
*
怒号も罵倒も、特に気にはならなかった。
疑問には思ったが、考えるだけ無駄だと悟った。
涙などもう何年流していないだろうか。
そのくらいに、私にはどうでもよかった。
冷たい。
それしか思わなかった。
それしか思えなかったのか。
移り変わりの季節なのだから当たり前か。
キンモクセイがまだほのかに香る今には聞きなれない豪快な水流の音が廊下に響いた。
黒繻子の髪から水が滴り、一層艷めく。
かつては綺麗だったのだろうか、枯れ死んだ朱と黄の色のガラス玉のような瞳が見上げた。
3人。
派手なネイル。
つんざくような香水の香り。
私を見下ろす、同じく朱と黄の瞳。
あとの2人は群青と黄の瞳。
同じ場所、同じバケツ、
「死ねよ、クズ。」
「顔がいいからって調子乗んなよ。」
同じ言葉。
何度水をかけられても、同じ言葉を浴びても、ため息のひとつも出なかった。
涙の一滴も私の頬を伝うことはなかった。
命令は絶対。
民間人に危害を加えることは決してしない。
私はただ、任務が遂行できるのであればそれ以上何も望まないだけだ。
それだけだった。
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