モーニングコーヒーはぬるめで

慶野るちる

文字の大きさ
12 / 49
本編

12

しおりを挟む
 挿れられてはないにしても、身体すべてが緊張と弛緩を繰り返せば酷い疲労感を覚えるものだ。
 樫木のいる社会科準備室を一人で出て、寮の部屋に戻ってきた。相部屋の奴は夕飯に行っているのかいない。とにかく横になりたくて、ベッドに突っ伏す。疲れた。
 そこへ、足元に投げていた鞄の中からスマホの震える音がした。
 のそのそと行儀悪く鞄を足で手繰り寄せてスマホを取り出すとメッセージアプリの着信で、通知欄には知らないアカウント名と「岸だよ」という出だしがあった。
 岸さん……俺のアカウント知らないはずなのに。誰に訊いた、って石井さんか。勝手に教えるなよ……。
 開くと、「今日はどう?」と書いてある。俺、人気者だな。一日に二人も相手にすんのか。まあいいや。精液を出すだけのセックスがしたい。岸さんとなら石井さんの延長のような感じでできるだろう。樫木は自分でも言ってたが重い。疲れる。セックスは心を空っぽに、邪な想いを消すためのものだ。跡をつけるとか、手の甲を噛んだらいけないとか、そんなのじゃない。
 俺は岸さんに了解した旨を送り返し。その数秒後に、消灯時間を過ぎた頃の時間と岸さんの部屋番号が届いた。

「多田ちゃん、気持ち良かった?」
 確かに気持ちが良かったからこくりと頷く。手慣れている。岸さんのセックスは思ってた以上にスマートで、して欲しいことは口にするがしつこくなくて、検分されている気分だった。たくさんキスをして欲しいと言うから、いいと言うまで唇にキスをして。立って壁に手をついてと言われてそうすれば、首の後ろから背中を通って後ろの窄みまで舐められて。両の乳首を散々指の腹で捏ねられながら口の中を舌で蹂躙されて。俺のペニスの先走りの雫がぽつぽつ出てきたら、舌で舐めて、そのまま口に含んで扱いて。最後に尻の穴に岸さんのペニスがねじ込まれたら声を出さないよう、手の甲を噛んでやり過ごして。それまでは何とか我慢できても、これでもかと抜き差しされる最後はやっぱり堪えきれなくて。
「多田ちゃんも良かったよ。やっぱり孤高の姫だね。ちゃんと感じてくれてるのに声を我慢するの、すげえそそられる。また機会があったら、ね」
 終わった後は綺麗に身体を拭いてくれた。帰ってちゃんとシャワーを浴びるよう言われたが。
「多田ちゃんは意外と庇護欲を掻き立てられるね。石井が進んではいけない一歩を進んだのもわかる気がするよ」
 別れの挨拶をして部屋のドアを閉める瞬間、岸さんはそんなことを言った。
 庇護欲? 俺ってなんか可哀想に見えてたりするのか? いやいや、別に可哀想なところはない。まあいいや、考えてもわからないことは深追いしない。……ああ、だから俺、勉強できないんだな。真理だな。
 それはさておき、やっぱりこういうセックスは楽だ。互いに性欲だけと割り切って、精液出して。あとは何も残らない。すっきりして。健全と言えば健全だろう。
 あ、やべ。
 今日の課題、全然やってないわ。日付を超えた一時三十分。今からやって終わるの何時だよ。いつまでも机の小さなものとはいえ明かり付けとくのも悪いよな。それに眠たいのもある。あああどうしよ……。面談で言われた通り、ヤバいことは確かなのだ。俺はどこでもいいが、我々の母校を出ろとじいさんたちがうるさい。D判定からなんてぎりぎりいけてBだろ。……努力もしないうちから自分で天井決めても仕方ないか。夏からは真面目にやらないとだな。今は寝て、四時起きして少しやるか。あとはみんなに少しずつ見せてもらおう。やっぱり平日はダメだな。次の日に響く。
 そんなことを思いながら一番館の自室前に戻ってきた。
 ら。
 廊下に、ドア横の壁に誰か寄りかかっていた。薄暗いので遠くからでは顔がはっきり見えない。まさか樫木か、と思ったら近付いて違うとわかった。独り身とはいえ、そう頻繁に宿直があるわけない。
「北見……」
 真夜中で当然大きな声は出せない。かなり近寄ってから俺はその名を呼んだ。こんな時間に。どうしたんだ。俺を待ってたってこと、か?
「どうしたのよ、こんな時間に」
 そりゃお前だろ、と自分で突っ込みながら無難なお決まりの言葉を吐いた。
「お前が二番館へ入って行くのが窓から見えたから帰りを待ってた」
 待ってたって、ずっと起きてたのか。
「何、話でもあるわけ?」
 わざわざこんな時間にするような話ってなんなんだよ。昼間じゃダメなのか。
「別に今じゃなくてもいいんだが、気になって」
「そか……でもここじゃ無理だよな。安眠妨害だ。自販機のとこ行くか」
 北見の、たまに見せる頑なな視線にぶつかって、時間を改めろと言えなかった。今言わなければ気が済まないのだろう。
「そうだな」
 飲料系自動販売機の電源は二十四時間入っているからここは何気に明るい。生徒が寝起きする部屋とは離れてるし、真夜中に話をするにはちょうど良かった。
 そばに置いてあるソファに膝を付き合わせるように座った。離れているとはいえやはり昼間のような声で話すわけにはいかない。
「お前、医学部受けるんだろ? 大丈夫か?」
「何が?」
 成績か、素行か……両方か。こんな時間に何うろついてんだと。乱れた生活するなよ、って言いたいんだろうな。そんなんじゃ勉強に身が入らねえぞと。
「一年の時もたまに夜いなくなってただろ」
 北見の球は少々変化球で。
 知ってたのか。熟睡して俺が出て行ったのも戻って来たのも気付いてないと思ってたのに。誤算だったな。
「今もなのか?」
「まあ……な」
 それを確認したかったのか。部屋を出て何してたかも……きっとわかってるな。でもそれにケチをつけられる筋合いはない、よな? お前だって彼女と会えばいちゃつくんだろうし。
「この間の人か?」
 この間……岸さんか。樫木の部屋の前で。
「いや……。いや、今はそう。前は違う」
「……そうか」
 北見はめずらしく伏し目がちでぽつりと呟いた。
「俺じゃ力になれないからお前は何も言わないんだろうけど、辛くなるようなことはするなよ?」
 そう、お前は俺の力にはなれない。仕方ない。でも心配してくれてるのはやっぱり嬉しいよ、北見。でも辛くなることってなんだよ。今のままじゃ俺はお前と一緒にいることも、いれないことも辛いんだよ。他はない。勝手な話だが。
「樫木先生だって頼れよ?」
「樫木? なんで」
 北見からその名前が出るか。
「今は担任だし、一年の授業の時からお前のことよく見てるぞ」
「やだ怖い……ってか、俺が何かやらかしそうで目が離せないんだろう」
「目が離せないのはまあそうだろうが、やらかしそうってのは違うような」
 北見は首を傾げていたが。
「いや、そうなんだよ、あいつ。まあ教師にしたらそうだろうよ。やらかす生徒は監視してガチガチに押さえつけとかないと安心できないんだよ」
「そんな横柄な先生か?」
「そうなのよ。樫木って」
 お前みたいな、きちんとした生徒には優しかったりするんだろうけど。
「まあさ、どうにもならなくなったら俺は多分お前を頼るよ」
 何がどうにもならなくなるのか、俺自身もわかんねえけど。
「そうか、遠慮なんかするなよ」
「しないしない、一年間一緒に寝起きした仲だろ。一番のダチだと思ってるよ」
 それで会談は終わった。また二人で俺の部屋の前まで戻って、そのずっと先にある自分の部屋へ北見は戻っていった。
 お前が俺を思う綺麗な感情を汚すわけにはいかない。
 だから、何があってもお前に抱いてくれなんて言わない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

処理中です...