モーニングコーヒーはぬるめで

慶野るちる

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番外編 岸と岡本

24 Four years later 5 (終)

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 優しくしたいと思った。
 あいつらとは違うんだと。
 快楽のために抱くんじゃない、好きだから、心が欲しくて、好きになってほしくて、心を繋ぎたくて。
 だからそっと抱きしめた。
 岡本は何を思っているのか、下げられた両腕はそのままで。何も感じてくれないのかやっぱり違うと思ったのか。
「岸……」
 ほら。
「僕はどうしたらいいのだろう」
 …………そうか。何も知らないのだ。こいつは。
「同じようにしてくれたら俺は嬉しいけど、それはお前の自由」
 もちろん、こうあるべきというものはない。だから岡本がしたいと思うことをしてくれればいいが、あれ以来、無意識にそういった領域の知識に踏み込まずスルーしてきたならば、感情に結びつくだろう行為がどんなものか世のならいなんて知りもしないのかもしれない。
 セックスとは服を脱いで、身体を舐めて、竿を擦って穴に挿れて。そんなざっくりとした、端折った説明で成り立つような行為しか知らないのだとしたら。十八にもなって(いやまだか)好きな相手と何をしたいとかどうするものなのかとか具体的な想像ができないのだとしたら、セックスなんて一足飛びすぎるんじゃないのか。キスにしたって口を開くかどうか。……まずは恋愛映画とか漫画とか見せるべきなのか。
 急いでは駄目だ。急ぐことはない。でも。
「僕は岸が喜んでくれるようにしたいよ。僕はどうしたらいいかわからないから岸が教えて」
 素直に口にする岡本が可愛い。まるで中学生の時のような。頑張って身に着けた鎧を脱いでくれてるのか、今俺の前で。って俺は馬鹿か、口元が緩んで仕方ない。
「キスしたい」
 ここまできて我慢の必要があるのかと己に負け。
「うん、僕は目を閉じてればいい?」
「少し口を開けてくれたら嬉しい」
 いたいけな子供に致そうとしてる犯罪者の気分だぞこれ……。俺の言う通りにしようとする岡本に身悶えする。
 ゆっくりやる、優しく、がっつかず。
 目を閉じて待つ岡本の唇に自分のそれを寄せた。啄むようにゆっくりと、二度三度と角度を変えて。四度目からは岡本の頭がわずかに動き、俺についてきた。恥じらうように。堪らなくなって腰を引き寄せ、ゆっくり口付けた。唇を味わうかのように小さな水音を立てて吸う。岡本は腰を引くことなく、受け入れてくれて。
「ん……」
 キスを気持ち良いと感じるかどうかは結局主観的で、触れられて触れていることに喜びを感じてくれるかで。そこから官能へと落ちていくかは喜びの度合いだとかその先を望むのかとかなんとかなのか。
 岡本の鼻に抜ける甘い吐息は嫌悪ではないだろう。俺は少しの強引さを持って舌を差し込み、無防備な岡本を嬲る。
「ぁ………ぅんん……」
 一瞬開いた目尻は蕩けていて、再び深い淵へ落ちていくかのように閉じられていく。いつの間にか俺の腰に岡本の腕が回っていて、縋るようにシャツを握る指に力が籠っていて。
 触れたい。岡本に触れたい。横たえて、首筋に胸に太腿に、赤い跡をつけたい。
「ベッド行こう」
 何がゆっくりだ、何が優しくだ、何ががっつかないだ。どうしようもない衝動に駆られて、返事を聞く前に腕を引っ張ってベッドに押し倒して跨いで。
 右の手で頭を押さえつけ、乱暴に、食らうかのように唇を口内を貪りながら左の手で岡本のシャツをたくし上げ、脇腹から胸へと指を滑らせる。
「ふ……ぅん……っ……」
 少し背を浮かせ目をきつく閉じる岡本を逃がすまいと押さえつける手に力を込めて、身動きできないようにして胸の突起を指の腹で潰すように捏ねた。
「ぅ……ん……っ……んっ……んんっ……」
 腰が跳ねるものの俺に跨られている岡本は身を捩ることもままならず、塞がれた口からはくぐもった声ばかりが漏れて。
 ぞくりと全身に震えと熱が走る。俺の腕の中に岡本がいる。逃したくない。ずっとこのまま、このまま俺の中にいて、俺の感情を受け止めてほしい。
 何も急く必要はないのに、今ここにいる岡本のすべてを零さないよう、必死で掬い取って。声も熱も糸を引いた唾液も、指先で掻いたシーツの皺でさえも俺のものだと岡本に知ってほしくて。何一つ誰にも渡したくない。
 唇から離れ首筋を辿り鎖骨あたりをきつく吸ってそのまま降りてまだ腫れていない乳首を口に含む。
「ああ……っ……」
 一番大きく背が反り。
「あ……あっ……ふ……ぅん……ん……あ、ぁあ……あ……っ……」
 口が自由になって、はっきりとした喘ぎが俺の耳の奥を侵していく。乳首を捏ねくり回しながらジーンズの前をくつろげて岡本のペニスを擦ると、先走りで小さな水音を立てた。
「き、し……っ……き……し、あた……まがおかし……くな……ぅあ、ん……ああっ……あああっ」
 気が触れるほどに俺を感じて。ずっと奥底に隠し続けてきた想いをようやくお前に注げる。
「も……でる……で、るから……っ……いれ……て、きしの……っ……」
 浅くて甘い息の中のその言葉に耳を疑い。
「いっ……しょ、にいき……たいか、ら……おね……が、い……」
 挿入はあとでいいと思っていた。まず岡本を気持ち良くさせたいと思っていた。なのに。
 敷布団の下に置いてるゴムのパッケージを破って中を取り出し自分の前をくつろげ反り立ったペニスに嵌め。ローションをペニスに塗り付けて下着ごとジーンズを脱がした岡本の両足を抱え後ろの窄みに当てた。
「力抜いて」
 息を吐いたのを見計らって己を先に進める。
「んぅ……っう……ん……んん……」
 最初の小さな呻きはすぐに甘いものへ変わり。わずかに腰を揺らしたから大丈夫だろうとゆっくり突き上げると声が跳ねる。
「あ……んっ……ぅ……ん……もっと……つい、て……っ……おく……」
 一気に頭が沸騰して。我を忘れて岡本の中を駆け上がる。
「ああっ……きし……っ……いく……ぃく……ぅ……っ……」
「俺も……っ……」
 濃い白濁を俺は岡本の中に、岡本は自分の腹の上に、吐き出した。


 こんなに息を切らしたことはなかったと思う。
 何人もの奴とやったけど、一度限りの相手とは互いにクールで、隠しきれない熱なんてなかった。
 自分のゴムを捨てティッシュで竿を拭いて、浅い息を繰り返している岡本の腹の上の精液をウェットティッシュで拭ってやる。
「冷たくないか?」
「……うん、大丈夫。ありがとう」
 せめて着ているインナーとシャツは乱れを直してやって。風邪を引く。
「ごめん」
「うん?」
 岡本はきょとんとしたが。
「自分の好き放題にやった」
「僕は嬉しいと思ったよ。岸に余裕がなくて」
 小さくふふっと笑った。
「僕はその嵐に巻き込まれて、嬉しいと思った」
 岡本は体を起こして俺と同じ目線でベッドに座る。
「好きだよ、航生こうせい
 俺の首を引き寄せ、唇にキスした。固まったのは俺。
「上手く、できてた?」
 触れるだけの一瞬のことで。恥ずかしそうに上目遣いで俺を見る。
「……三点」
「さんてん? たったの!?」
 あまりの点数だったのか、岡本は頬を膨らませた。
「嘘。上手いも下手もない、嬉しいか嬉しくないかだろ」
 俺は岡本を抱き寄せて。
 本当はまだ足りない。抱き足りない。ずっとこのまま抱いていたい。
 でも明日があるから。ドアを開けておはようと言ってくれるから。それは終わりのない我慢ではなくてたったの一日のこと。
すばる
 夢の中で何度も呼んだ名前を。
「愛してる」
 俺もまたそっと触れるだけのキスをした。


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