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番外編
26 ゴールデンウィーク 1
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次の休み。
というのはゴールデンウィークで。
カレンダー通りの休みしかないウチの学校は今年は三日の連休となる。地方からの入学者の帰省は結構タイトなスケジュールになる分、帰省しない選択をする奴もいるみたいだ。
俺は一時間圏内のほぼ地元民で実家には外泊届を出せば週末いつでも帰れるというのもあり、家には今年のGWは帰らないと連絡をした。小さな子供じゃないから家族で連れ立ってどこかへ遠出をすることもない。自室でだらだらと食っちゃ寝で過ごすか、中学の友達と遊ぶか、そんなところだ。
「……美味い」
レトルトパックのルーではないカレーライスを出された。もちろんレンチンの冷凍でもなく。
前日に辛口と甘口はどっちがいいのかとそれだけ訊かれたので甘口と答え、そしたら甘口のカレーが出てきて。キッチンに立ってカレー皿の白米にルーをかける後ろ姿がサマになっていて、ちゃんと自炊できる奴なんだと知って。
「野菜と肉を煮て市販のルーを入れただけだからな」
と言うが、野菜が大きく切ってあって牛肉もとろとろで、まず見た目から食欲をそそられるのだ。これまでコンビニの出来合いしか出てこなかったから軽く驚いて。
で。
俺は連休三日の内、一泊二日の予定で樫木の家、というか部屋に転がり込んでいる。やんわりとかわした約束を実行に移すため。教職員住宅の一室は中に入るだけでも不必要なスリルが付いてきて面倒だがまあ仕方なく。
連休初日の今日、学校の寮から少し離れたところで車で拾ってもらい(どの局面においても面倒極まりないのだ)、まずは昼飯だと一緒にカレーを食っている。
「美味いです」
母親が作る味と同じだ。ルーが市販ってのも含めて世の家庭の味。小洒落たものではないがこういうのが一番いいのだと思う。
「熱いのもダメ、辛いのもダメ、ってお前は案外お子ちゃま体質なんだな」
「……すみませんね」
最後の一口を口に入れた瞬間、先に食べ終えていた樫木がニヤニヤと笑う。それがとてつもなく重大なことで、あんたの何かに影響を及ぼすもんなんですかね? 嫌なら投げ出せばいい。別に俺は。
「いや、悪くはない。知らない一面を見れるのは楽しいもんだ」
俺の何が樫木に響いたのか……まあ、好きという感情はいろんな理由をつけてみたところで最後は理屈じゃない、言葉にできないところに収まる気がする。樫木を信じないわけじゃないが、勘違いじゃないのかとか、教師マインド的な同情じゃないのかとか、思わないこともない。愛した人間に愛されなかった可哀想な奴。俺はそれでもいいかと寄りかかっているような状態で、いわゆる愛情というものにまで昇華してない。この先どう形が変わっていくのかわからない。ただ、一緒にいることに何の抵抗もなく心地良さを感じているのは事実で、それは北見に対して思えるようになった友人というカテゴリではないと自覚はしている。……友人はセックスしないしな。
「ごちそうさまでした」
スプーンを空の皿の上に置いて残った麦茶を飲み干して。手を合わせてから樫木の皿と自分の皿を持って立ち上がる。ワンルームだから流し台までは数歩だ。
「後でやるから置いとけよ?」
「はい」
と答えはしたが、汚れた皿をシンクに置きっぱにすることは寮生活ではありえない。廊下のミニキッチンにある共同のものは使い終わったら都度きれいにして戻すのがきまりだ。それに慣れてしまってるから落ち着かなくて、そこにあったスポンジと洗剤を手に取った。
この間も今日も樫木の部屋は思いの外きれいに整頓されていて、持ち物も少ないのか見えるところにごちゃごちゃとものがない。キッチンも然りで料理しただろう跡は一切なくきれいなものだった。
「いいって言ったろ」
蛇口をひねった音で気付いたのだろう樫木が立ち上がってこちらへ来る気配がする。
「食べさせてもらったしこれぐらいは」
大振りだとしても皿二枚なんてあっという間に終わる。俺はもてなしを受けるお客さんというわけじゃないのだし。
「ありがとな」
言葉と同時に背後に気配がしたかと思うと腰ににゅっと両手を回された。
「っ!」
びっくりして、泡のついたカレー皿を落とすところだった。
ぴたりとくっつかれて首筋に樫木の息がかかる。
うっ……やめてほしい。洗い物してんのに。ものの数分待てないのかよ。
「先生……」
早くしたいとか思うならまず皿を洗わせろ。
「先生じゃない」
「は?」
「学校を出ればもう教師じゃない」
いい加減なこと言うなよ、教師は教師だろが。俺はあんたのクラスの生徒だぞ。
「だから先生と呼ぶな」
う……吐息混じりに耳元で囁くなって。手に力が入らなくなる。
でも呼ぶなって……どうすりゃ……。
「樫木、さん……」
岡本さんがそう呼んでいたのを思い出して。
途端、背中の熱が大人の男のものに変わった気がして背中が小さくざわついた。先生と生徒じゃなくて。十も年上の、大人の男と。
自分で呼んで自分で意識して。馬鹿だな、俺。
「よしよし、艶っぽくなったな」
不意打ちでぺろりと首筋を舐められて。膝がくだけそうになる。
「ちょ、待てって。危ないだろ、まだ終わってない!」
二枚の皿と二本のスプーン、洗うのはたったこれだけなのにちっとも進まない。
「もう置いとけ、後で俺がやるから。やめないとここで犯すぞ」
おい。場所なんてどこでもいいが、台所が汚れるかもしれないだろうが。……いろんなので。
「わかりましたよ」
結局スポンジで洗うところまでで終わらせて、密着されたまま蛇口をひねり手の泡を落とす。あんたの前が俺のケツに当たってて早くやりたいのはわかったから。
掛けてあったタオルで手を拭いて。それでもまだくっついている樫木をどうしたものかとなんとか身を捩ろうと顔を向けてみたらぐいっとひっくり返されて正面から抱きしめられた。
言葉なく唇が重なる。ちょ……結局ここでやるのかよ。
しかし、一度だけ深く口づけて唇は離れた。
「皿洗いをさせるために連れてきたわけじゃない」
もちろん、わかってる。
「多田、抱かせてくれ」
熱を帯びた吐息でストレートな言葉を囁かれて。
「……はい」
樫木に飲まれることを素直に望んだ。
というのはゴールデンウィークで。
カレンダー通りの休みしかないウチの学校は今年は三日の連休となる。地方からの入学者の帰省は結構タイトなスケジュールになる分、帰省しない選択をする奴もいるみたいだ。
俺は一時間圏内のほぼ地元民で実家には外泊届を出せば週末いつでも帰れるというのもあり、家には今年のGWは帰らないと連絡をした。小さな子供じゃないから家族で連れ立ってどこかへ遠出をすることもない。自室でだらだらと食っちゃ寝で過ごすか、中学の友達と遊ぶか、そんなところだ。
「……美味い」
レトルトパックのルーではないカレーライスを出された。もちろんレンチンの冷凍でもなく。
前日に辛口と甘口はどっちがいいのかとそれだけ訊かれたので甘口と答え、そしたら甘口のカレーが出てきて。キッチンに立ってカレー皿の白米にルーをかける後ろ姿がサマになっていて、ちゃんと自炊できる奴なんだと知って。
「野菜と肉を煮て市販のルーを入れただけだからな」
と言うが、野菜が大きく切ってあって牛肉もとろとろで、まず見た目から食欲をそそられるのだ。これまでコンビニの出来合いしか出てこなかったから軽く驚いて。
で。
俺は連休三日の内、一泊二日の予定で樫木の家、というか部屋に転がり込んでいる。やんわりとかわした約束を実行に移すため。教職員住宅の一室は中に入るだけでも不必要なスリルが付いてきて面倒だがまあ仕方なく。
連休初日の今日、学校の寮から少し離れたところで車で拾ってもらい(どの局面においても面倒極まりないのだ)、まずは昼飯だと一緒にカレーを食っている。
「美味いです」
母親が作る味と同じだ。ルーが市販ってのも含めて世の家庭の味。小洒落たものではないがこういうのが一番いいのだと思う。
「熱いのもダメ、辛いのもダメ、ってお前は案外お子ちゃま体質なんだな」
「……すみませんね」
最後の一口を口に入れた瞬間、先に食べ終えていた樫木がニヤニヤと笑う。それがとてつもなく重大なことで、あんたの何かに影響を及ぼすもんなんですかね? 嫌なら投げ出せばいい。別に俺は。
「いや、悪くはない。知らない一面を見れるのは楽しいもんだ」
俺の何が樫木に響いたのか……まあ、好きという感情はいろんな理由をつけてみたところで最後は理屈じゃない、言葉にできないところに収まる気がする。樫木を信じないわけじゃないが、勘違いじゃないのかとか、教師マインド的な同情じゃないのかとか、思わないこともない。愛した人間に愛されなかった可哀想な奴。俺はそれでもいいかと寄りかかっているような状態で、いわゆる愛情というものにまで昇華してない。この先どう形が変わっていくのかわからない。ただ、一緒にいることに何の抵抗もなく心地良さを感じているのは事実で、それは北見に対して思えるようになった友人というカテゴリではないと自覚はしている。……友人はセックスしないしな。
「ごちそうさまでした」
スプーンを空の皿の上に置いて残った麦茶を飲み干して。手を合わせてから樫木の皿と自分の皿を持って立ち上がる。ワンルームだから流し台までは数歩だ。
「後でやるから置いとけよ?」
「はい」
と答えはしたが、汚れた皿をシンクに置きっぱにすることは寮生活ではありえない。廊下のミニキッチンにある共同のものは使い終わったら都度きれいにして戻すのがきまりだ。それに慣れてしまってるから落ち着かなくて、そこにあったスポンジと洗剤を手に取った。
この間も今日も樫木の部屋は思いの外きれいに整頓されていて、持ち物も少ないのか見えるところにごちゃごちゃとものがない。キッチンも然りで料理しただろう跡は一切なくきれいなものだった。
「いいって言ったろ」
蛇口をひねった音で気付いたのだろう樫木が立ち上がってこちらへ来る気配がする。
「食べさせてもらったしこれぐらいは」
大振りだとしても皿二枚なんてあっという間に終わる。俺はもてなしを受けるお客さんというわけじゃないのだし。
「ありがとな」
言葉と同時に背後に気配がしたかと思うと腰ににゅっと両手を回された。
「っ!」
びっくりして、泡のついたカレー皿を落とすところだった。
ぴたりとくっつかれて首筋に樫木の息がかかる。
うっ……やめてほしい。洗い物してんのに。ものの数分待てないのかよ。
「先生……」
早くしたいとか思うならまず皿を洗わせろ。
「先生じゃない」
「は?」
「学校を出ればもう教師じゃない」
いい加減なこと言うなよ、教師は教師だろが。俺はあんたのクラスの生徒だぞ。
「だから先生と呼ぶな」
う……吐息混じりに耳元で囁くなって。手に力が入らなくなる。
でも呼ぶなって……どうすりゃ……。
「樫木、さん……」
岡本さんがそう呼んでいたのを思い出して。
途端、背中の熱が大人の男のものに変わった気がして背中が小さくざわついた。先生と生徒じゃなくて。十も年上の、大人の男と。
自分で呼んで自分で意識して。馬鹿だな、俺。
「よしよし、艶っぽくなったな」
不意打ちでぺろりと首筋を舐められて。膝がくだけそうになる。
「ちょ、待てって。危ないだろ、まだ終わってない!」
二枚の皿と二本のスプーン、洗うのはたったこれだけなのにちっとも進まない。
「もう置いとけ、後で俺がやるから。やめないとここで犯すぞ」
おい。場所なんてどこでもいいが、台所が汚れるかもしれないだろうが。……いろんなので。
「わかりましたよ」
結局スポンジで洗うところまでで終わらせて、密着されたまま蛇口をひねり手の泡を落とす。あんたの前が俺のケツに当たってて早くやりたいのはわかったから。
掛けてあったタオルで手を拭いて。それでもまだくっついている樫木をどうしたものかとなんとか身を捩ろうと顔を向けてみたらぐいっとひっくり返されて正面から抱きしめられた。
言葉なく唇が重なる。ちょ……結局ここでやるのかよ。
しかし、一度だけ深く口づけて唇は離れた。
「皿洗いをさせるために連れてきたわけじゃない」
もちろん、わかってる。
「多田、抱かせてくれ」
熱を帯びた吐息でストレートな言葉を囁かれて。
「……はい」
樫木に飲まれることを素直に望んだ。
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