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32.甘い香り

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「なんかちょーし悪くねー?」

「わりい、修吾」

「別にいーけどさあ」


テニスの練習中。

少し調子の出ないオレに、修吾はすぐに気づいた。


高校の頃からダブルスやってるし、ごまかしがきかないのは分かるけど・・・・

昔っから修吾は、すぐオレの変化に気づく。


「なんかあったのか?」

心配そうな、探るような視線。

「別に、大丈夫だよ」

オレはへらって笑う。



・・・・なんでもないフリをしながら、でも頭では、あきらのことを考えてしまっていた。



昨日、あきらは桜庭さんの家に行った。

オレはあきらが食いたがってたカレーを作って、一人で食った。


あきらには明日食ってもらおう。

カレーって一日置いた方がうまいっていうし、むしろ、ちょうど良かったのかも。

そう思ってたら。



♪~

桜庭さんからLINEが来た。


『坂本くん、今日はありがとう♡  あきらくんも一緒に食べれて、うれしい~♡』


相変わらずの♡マーク付きのメッセージと共に送られてきたのは・・・・


みんなで食事してる、数枚の写真。

みんなでおいしそうな料理の並ぶテーブルを笑顔で囲んでて。


その中にはもちろん、あきらもいた。


・・・・桜庭さんの隣で、楽しそうに笑ってる。


・・・・写真を撮るためだからなのか、2人の距離はかなり近くて。


そして、おいしそうな料理の中に、カレーが、あった。



オレの作ったフツーのカレーじゃなくて、本格的っぽいグリーンカレー。



胸が、ぎゅって、苦しくなる。



オレは大学生になってから料理練習して、最近やっとまともに作れるようになったくらいで。

桜庭さんは、料理も、上手いんだな・・・・・


あんなに美人で、

頭も良くて、

料理も上手くて、

・・・・・女のコ、で。



「・・・・・やっぱ、わかんねーよ・・・・・・」


あきら、何でオレなんだ?


なんで、男の、オレなんだよ・・・・・・




あきらが『好き』って言ってくれてても、

自分があきらのこと好きな気持ちが大きくなると、

あきらを失った時の不安もどんどん大きくなってきて。


・・・・いつまでも一緒にいれるわけじゃない。


こういう関係になってからもずっと思ってたことだけど。

最近、漠然とだけど、その思いが強くなってきてる気がする。


大学生になって、生活が変わったから・・・・?




「あきら・・・・・!」


不安になって、オレは、自分で自分のことを抱きしめた。








あきらは、オレがベッドに入った頃に帰ってきた。


・・・・・待ってようかとも思ったけど、そういうのも重いかな、とか考えて。

いつも通りの生活をして、もう寝ようとした時だった。



あきらは一旦リビングに行って、オレが居なかったからか、オレの部屋に来た。


そっと、ドアを開けて入ってくる。



オレはどんなカオをしたらいいか分からなくて、寝たふりをすることにした。



そっと、あきらがオレの頭を撫でる。

そして、近づく気配がして・・・・・ 頬に、あきらの唇が、触れた。


ふわって香る、あきらの香水。



でも。 



いつもと、少し、違う・・・・・・・?




あきらの香水の香りに混じって、少し、甘い香り。

すごくいい香りだけど、でも、あきらのいつもの香りとは明らかに違ってて。



なんの・・・・香りだろう・・・・・・


覚えが、あるような・・・・・



もう一度オレの頭を撫でてから、あきらは部屋を出ていった。





しばらくしてから、あきらはオレの隣に入ってきた。

シャワーを浴びてきたんだな。


香りのことが気になって寝付けないでいたけど、オレはそのまま、寝たふりをしていた。


シャワーを浴びたあきらからは、もう香水の香りは無くなってて。


「レイキ・・・・」


あきらがオレの肩に手を回す。



オレは寝返りをするふりをして、あきらの胸にカオを寄せた。






次の日の朝。

オレは1限が休講で時間があったから、支度をするあきらの脇で、洗濯をすることにする。


洗濯ものを洗濯機に放り込もうとして、

昨日、あきらが着ていたシャツを、見つけた。


リビングにいるあきらの様子を伺う。


・・・・・テレビ見ながら、コーヒーを飲んでる。



オレはあきらのシャツを手に取って、そっと、匂いを嗅いでみた。



昨日感じたとおり、あきらの香水の香りに混じって、甘い香り。


でも、合わさった香りは、とてもいい香りだ。



・・・・・この香り、確か・・・・・・




「レイキ」


不意に声をかけられて、オレは慌ててあきらのシャツを洗濯機に突っ込んだ。


「な、なに?」

「ゴメン。 洗濯、任せていいか? オレ、そろそろ出ないと」

「あ、ああ。 大丈夫だよ」


あきらは口角を持ち上げて、オレに近づいてくる。


「じゃ、いってきます」


そう言って、オレの唇にキスを落とした。


「うん、行ってらっしゃい」

笑顔であきらを見送って。


オレはもう一度、あきらのシャツを洗濯機から取り出す。


確かめるように、匂いを嗅いだ。



・・・・・やっぱり、覚えが、ある・・・・・



「桜庭さん、だ・・・・・・」




彼女が、オレのLINEを無理矢理登録してきた時。

あの時、彼女が至近距離に来て・・・・ その時、感じた香りだ・・・・・・



彼女によく似合う、甘い、香り。



もともとどちらもいい香りだけど。


偶然なのか、あきらの香水と合わさると、また違ったいい香りに感じる。


合ってる香水の香りが、二人がお似合いだって示してるような気がしてしまう。



・・・ダメだ。

オレは頭を振った。


考え方が、女々しすぎるだろ。


・・・・さっさと、洗ってしまおう。

オレは他の洗濯ものと一緒に、あきらのシャツを洗濯機に放り込んだ。




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