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3.私の能力

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私には、特殊な能力がある。


小さい頃は、それがほかの人と違うなんて知らなかった。

みんな視えてるものだって思ってた。

幼稚園の頃、自分が視えたものをお母さんに話したら、不思議そうな顔をされた。

不思議がられることが不思議で、私は幼稚園の先生にも話してみた。

先生は笑って話をきいてくれたけど、

『ユキちゃん、すごく楽しいお話だね! なんて絵本のお話? 先生にも教えて!』

って笑顔で言われて、子供ながらに悟ったんだよね。

私が視えてるものは、他の人には視えてないってこと。


いったい、なにが視えているのか・・・・

成長していくにつれ、なんとなく分かってきた。


私が視えているのは、『前世』。


宗教的なことは良く分からないし、私はなにかの宗教を信仰しているわけじゃないけど。

自分の理解できる範疇では、どうやら、魂というのは輪廻転生を繰り返しているということ。

だから、みんないくつもの前世を持っていることになる。


ただ、私に視えているのは、おそらくほとんどが『前世』

やっぱり直前の『生』が、現世に一番濃い影響を及ぼすから。

もしかしたら、もっと前の過去世が影響を与えている人なら、そこが視えることもあるのかもしれないけど。


前世を視るためには、その人に直接触れる必要がある。

触れて視るのにも、意識を集中させなくちゃいけないし、少し触れただけじゃ、イメージがほんの少し視えるだけ。

だから、佐々木くんにも何度も少しずつ触れて、視える情景を完成させていった。


いろんな人の前世を視るようになって分かったことがある。


人は、前世・過去世のつながりで、現世も生きているという事。


結婚している人や、兄弟姉妹などの家族、友人、仕事上の重要なパートナーなど、現世での関りが深い人とは、前世・過去世でも関りがあった人が多いということ。

実際、私の両親も、前世ではきょうだいだった。

私には妹がいるけど、妹は母と親友同士だった。


もちろん、現世で新たな関係性を作っていて、前世・過去世では全然関わりがない人だっている。

そういう人たちは、きっと来世でまた、近い存在になるんだろう。


そして・・・

私は、私自身の前世は視えない。

でもきっと、家族とはなんらかの関わりがあったんだと思う・・・思いたいけど、実際には視えないから、なんとも言えない。


視えないなら仕方ない、とも思ってるけど・・・本当は視てみたいなって、思ってる。

だって、前世で関わりが深かった人が・・・きっと、現世の運命の相手なんじゃないかな?って、思うから。


私は・・・運命の人に、あこがれてる。


そして、カナが佐々木くんとのこと、視て欲しがってたのも、それなんだよね。

私が・・・話したから。



中学の時、私とカナともう一人、リコと3人で仲が良かった。

リコは陸上部に入ってて、短距離の選手だった。背が高くてショートカットの髪がよく似合う、かわいい子だった。

リコには好きな人がいて・・・同じクラスの、大和くんっていう子。

サッカー部の彼は笑顔が優しくて、リコとぴったりだなって思ってた。


カナとリコには、私の能力のことを話していた。

話すことはすごく迷ったし、葛藤もあったけど、2人ならきっと大丈夫って思えたから。 だって私たちは、それくらい仲が良かったから。

2人とも、驚いてはいたけど、私のことを受け入れてくれた。


それでリコの前世を視てみた。

そしたらそこに、大和くんと思える人の気配があって。

私も驚いたし、確認のために、大和くんの方の前世も視てみた。 こっちは、佐々木くんの時みたいに、こっそりと。


そしたら・・・同じ情景が視えた。

そして、そこにリコの気配もあって。


ああ、2人は前世から一緒だったんだってわかった。


リコにこのことを話したら、すごく喜んでた。

でも、そんな私の話なんかなくてもきっと上手くいったんだろうなって思うくらい、2人は気が合ってて、急速に仲が縮まって。

あっという間につき合うことになってた。


それからもずっと仲が良くて。

2人は私たちとは違う高校に行ったけど、今でも仲良くしてるみたい。

きっと将来は結婚するんじゃないかな。

2人は、運命の相手なんだと思う。


カナはそんなリコたちを近くで見てたから、運命の相手っていうものにあこがれを抱いてる。

・・・それは私も一緒だけど。


だから、カナは好きな人ができるたび、私に『視て欲しい』って頼みに来るんだ。




カナと一緒に、駅に向かう。

「ユキ、視てくれてありがとね」

「うん。 佐々木くん、カッコいいし、がんばってね」


駅は同じ学校の生徒で結構混雑していた。

クレープ屋さんで長居してしまった私たちは、部活帰りの生徒たちと、時間がかぶっちゃったみたい。


ホームでカナと一緒に電車を待ってると、向かい側のホームにも、同じ学校の男子の集団がいた。

その中に・・・・いた。

たくさんの人の中でも、一際目を引く存在。

遠くから見ても、すぐに彼だと分かった。


「あ、弓道部だね」

カナが向かいのホームを見て、私の脇腹を肘でつついた。

「いるじゃん」


いつもだったら、あんまりじっと見つめることとかできないけど・・・

ホーム越しだし、今なら見ても大丈夫だよね。



空野・・・星司(そらの せいじ)、くん。

私と同じ、1年生。クラスは違うけど。

集団の中にいても、一際目を引く存在。

彼はとにかくイケメンでカッコいいって評判だし・・・私も、そう、思う。

だって・・・ほとんど、一目惚れみたいな感じだった。

入学してすぐの頃、廊下ですれ違った空野くんを見て・・・・心を、奪われてしまった。


細身で長身。

真面目な印象で、制服のネクタイもキチンと絞めていて、着崩したりしてない。

サラサラの髪は、ワックスとかでいじってなくて、自然なまま。

髪色は真っ黒ではなくて、少し明るい茶色。 でも、染めたりはしてなくて、地毛だと思う。

瞳は切れ長で、目元涼しげな感じ。

でも冷たい印象はなくて、温かみもあって。


・・・あ、笑った。


友達と話しててよほど楽しいのか、顔をくしゃってして、おっきな口を開けて笑ってる。

あんな風に笑うんだ・・・


「・・・ユキ、ほんと、好きだよね」

カナに声をかけられて、ハッて我に返った。

カナはニヤニヤしながら私のことをのぞき込んでいた。


やだ・・・ 私、すっごい見てた・・・?


「でもほんと、空野くん、イケメンだよねえ」

カナも空野くんに視線を移す。

「弓道もすごい上手らしいよ。 インハイにもいけるんじゃないかって、期待されてるって」

「そうなんだ・・・」


イケメンで、友人も多そうで、弓道も上手で・・・

そんなカンペキみたいな人っているんだなぁ・・・


「ユキがこんなにメンクイだったとはねー」

茶化すようにカナが言う。

「違うよ! そういうわけじゃないから!」

「空野くんのこと好きで、メンクイじゃないって言っても、説得力ないって。 だから中学の時、全然好きな人できなかったんだねー」

「カナぁ」

確かにカッコいいって、思う。

でも、私が空野くんのことを好きなのは、それだけじゃないっていうか・・・・・

・・・・だけど。

実際に話したこともないし、好きになったのに他の理由があるのかって言われたら・・・・自分でもなんだかわからないんだけど。

ちょっとカナをにらむと、私の視線の先でいたずらっ子みたいに笑う。

「でもほんと、空野くん、いいよね。 美人のユキに似合う。
ただ、ライバルが多いよねーー」

・・・そうなんだよね・・・・

いろんなところから、『空野くんのこと好き』って言ってる人がいるって聞くし。

告白してフラれたとか、噂になってたりする。

だから・・・・

私は見てるだけ。 それだけで、いい。

向こうは私のことなんて知らないし、仲良くなるきっかけなんてないし。


その時、ふと呟くようにカナが言った。


「空野くんの前世って、どんなんなんだろうね」


その言葉は、スッて私の心に入ってきた。


ほんと・・・彼はどんな前世を過ごしてきたんだろう。


普段はあんまり人の前世なんて、私からは意識しない。

でも、空野くんは・・・


「・・・どんな前世だったんだろうね」

空野くんを見ながら、呟いた。



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