6 / 10
6.勝負
しおりを挟む
「守崎さん、帰ろう?」
空野くんは言っていた通り、HRが終わったら教室まで迎えに来てくれた。
私の席まで来てくれて。
「空野くん、ありがとう」
私は鞄を肩に掛けた。 恥ずかしくて、空野くんの顔は見れないけど。
一緒に教室を出て、昇降口まで行って、校門を出る。
その間、空野くんは他愛もない話をしてくれていて、私の緊張はだんだん和らいできていた。
「守崎さん、マック行かない?
オレ、オシャレなカフェとか知らないからさ・・・」
少し恥ずかしそうに言う空野くんがかわいくて。
「うん、マック行こう」
私はうなずいた。
マックではカウンターの席に座った。
正面に座ったら、顔が見れないって思ってたから、よかった・・・
空野くんはほんとに優しくて、さりげなく気を使ってくれるし、話もたくさん振ってくれて。
私は緊張もほぐれて、楽しくて笑ってた。
「・・・笑ってくれて、良かった」
空野くんが安心したようにつぶやいた。
えっ、私、そんなに気を使わせてたの?
「ごっ、ごめんね。 私、ちょっと緊張しちゃってて・・・」
空野くんは照れたように笑って、
「・・・オレも、緊張してる。 オレ、話しすぎじゃない? うるさいかな」
私は慌てて首を振った。
「そんなことないよ! むしろ、話してくれて、うれしいし」
・・・・空野くん、緊張してたんだ。
モテるだろうし、こんなの慣れっこだと思ってた。
私だけが緊張してると思ってたのに・・・・ 意外、だな・・・・
「ね、守崎さん。 良かったら、LINE教えてくれない?」
不意にそんなことを言われて。
え、ちょっと待って。 ・・・・うれしすぎる、んだけど。
空野くんと、LINE交換、できるの!?
「うん!」
私は慌ててスマホを取り出した。
ほんと、あまりのことに、頭がついていかない。
空野くんのこと、好きだったけど・・・・
ただ、見てるだけしかできなかったのに。
私のこと認識してもらって、
少し話せるようになって、
そしたら一緒に帰ろうって誘ってくれて、
LINE交換まで・・・・!
もう、舞い上がりすぎて、気持ちがどこか飛んでいきそうだよ。
LINEの登録をしてる空野くんの横顔をちらって見てみる。
やっぱり、カッコいいなあ・・・・
その日は言ってた通り、遅くならないように帰った。
・・・正直、名残惜しかったけど、試験前だし、空野くんをそんなに引き留めるのも申し訳ないし。
でも、早速空野くんはLINEをしてくれて。
勉強の合間に、私も返信する。
・・・・すっごく、うれしいし、楽しい。
こんなに気持ちがふわふわした感じになるのなんて、初めて。
今日話したことを思い出すと、勉強が手につかなくなっちゃう。
それからも、毎日空野くんは私を迎えに来てくれた。
そして少し寄り道して、一緒に帰る。
私はよく知らないけど、空野くんが特定の女子と仲良くしてたことってないみたいで、私たちのことは学校で噂されるようになってきた。
・・・空野くん人気だし、女子に良く思われなそうで、ちょっと怖いな・・・・
「守崎さん!」
空野くんは今日も変わらず、私を迎えに来てくれる。
そんな空野くんを見て、同じクラスの女子がひそひそ話してるのが目に入った。
空野くんはそんなこと気にも留めず、笑顔を私に向けてくれる。
でも今日は、その笑顔がちょっと曇ってた。
どうしたのかと思って少し首を傾げると、
「あの、さ・・・・ しばらく部活休んでるから、ちょっとストレス溜まってきてて・・・・」
私は空野くんに連れられて、弓道場にやってきた。
「守崎さん、ほんとにいいの? つき合ってもらって」
「うん。 弓道って近くで見たことないし・・・・」
空野くんは、弓が引きたくてストレスが溜まってきたんだって。
どうしても弓が引きたいから、今日は一緒に帰れない・・・っていう話だった。
私も一緒に帰れないの残念だなって思ったけど、それ以上に、言った空野くんがしゅんってなってて。
弓を引く姿を見たいなって思って、連れて行って欲しいって言ったら、空野くんはすごく喜んでくれた。
しゅんってなったり、すごく喜んでくれたり、空野くんって言葉に出さなくても感情が結構外に出るタイプなんだなって思うと、すごくかわいく感じてしまった。
「ちょっと準備してくるね」
「うん」
私は弓道場の床に正座をして、空野くんを待った。
弓道場って・・・なんか・・・独特だな・・・・
和室とはまた違う和な雰囲気・・・・
神聖な感じがして、空気が澄んでる気がする。
それに実際にに見てびっくりしたのが・・・・・ 的、遠っ!!
あんなところに当てられるなんて、すごいなあ・・・・・・
私は、前に視た空野くんの前世の風景を思い出していた。
ルーカスは、すごい弓の名手だった。
あの時、少し視ただけだったけど、全部的に当てていたし、
『さすが! ルーカスは外さないな!』
『百発百中じゃないか!』
みんなにそう言われてた。
・・・・だから、空野くんも、弓道上手なんだよね。
1年生なのに、インハイに出られるかもって、言われてるなんて。
「あれ?」
物思いに耽ってたから、急に響いた声にびっくりしてしまった。
声のした方を振り返ると、弓道場に入ってきた人がいたことに気づいた。
空野くんじゃない、男の人。
私はその人のネクタイを見た。
私たちの学校の制服は、男子はネクタイ、女子はリボン。 で、学年で色が違うの。
私たち1年生はブルー、2年生はグリーン、3年生はレッドがベースになってるデザインのネクタイ。
その人はグリーンのネクタイをしていた・・・2年生の、先輩だ。
「入部希望者?」
その先輩は、私を見て怪訝な顔をした。
黒髪に眼鏡で、すごく整った顔立ち。 空野くんよりは・・・印象が、少し冷たい感じだけど。
細身で長身・・・空野くんより、背、高いかな。
私は慌てて首を振った。
「あ、ち、ちがうんです」
部外者が入っちゃ、やっぱりだめだよね・・・・
「おまたせ」
更衣室から、準備を終えた空野くんが入ってきた。
「・・・・っ!」
その姿を見て、思わず、息をのんでしまう。
かっ・・・・・こ、いいっ・・・・・!!!!
袴を身に着けた空野くんは、制服とは全然雰囲気が違ってて。
長身の彼にすごく似合ってるし、もうなんていうか・・・・・・
素敵すぎる・・・・・!!!
「空野か」
「城谷先輩」
空野くんは、先輩がいたことに驚いたみたいだ。
「空野が連れてきたのか?」
私のことを親指で指しながら、先輩は空野くんに尋ねた。
「あ、はい・・・ すみません、勝手に」
空野くんはぺこって頭を下げた。
城谷先輩は、空野くんを見て少し笑った。
「まあ・・・今日は他に誰もいないからいいけど。・・・彼女か?」
えっ
先輩の言葉に固まってしまう。
「いやっ! ち、ちがいますっ!」
空野くんが慌てて否定する。
顔を少し赤くして、慌ててるのは・・・わかるんだけど・・・・
ちょっと、胸が、痛いなあ・・・・
最近少し親しく話してるだけだし、『彼女』とか言われても、確かに困る・・・よね・・・・
でも、思いっきり否定されると・・・・さすがに傷つく・・・かも・・・・
「オレも弓を引こうと思って来たんだ。空野、せっかくだし、勝負しないか?」
城谷先輩の言葉に、空野くんはパって顔を輝かせた。
「はい! お願いします!」
「じゃあ、準備してくる。 先、引いてていいよ」
先輩はそう言うと更衣室に向かい・・・その前に空野くんに近づいて、肩にポンっと手を乗せた。
耳元に口を寄せて、なにか話しかける。
空野くんは少し目を大きくして、先輩を見た。
先輩は口角を持ち上げると、更衣室に入っていった。
「あの・・・守崎さん」
空野くんは少し眉を下げて、申し訳なさそうな表情。
私は立ち上がった。
「部外者が入っちゃダメなんでしょ? ごめんね、私、帰るから」
「違うんだ。 そうじゃなくて、その・・・ごめん」
空野くんは少しうつむいて、左手で首の後ろを触る。
「さっき先輩に『彼女?』って訊かれて、守崎さん、嫌な気分になったかなって・・・」
え
そんな、言われたこと自体は、・・・むしろちょっと、うれしかったというか・・・・
「それに、思いっきり否定しちゃって、ごめん。 そんなつもりじゃなくて、その・・・」
顔を赤くして、口ごもる。
「オレがそう言われるのが嫌とかじゃなくて。 守崎さんに迷惑かけたから・・・ごめん」
・・・私が彼女か訊かれて、空野くんが嫌だと思ったわけじゃないっていうのは、伝わってきた。
私はうれしくて、笑ってしまった。
「うん・・・私も全然、嫌とかじゃないから」
空野くんはホッとしたように顔を上げた。
「・・・よかった・・・
あ、気にしないで見て行ってね。 先輩もいいって言ってたから」
「うん」
私は改めて、床に腰を下ろした。
私の視線の先で、空野くんは的の前に立った。
ぴんって、空気が張り詰めるのが分かった。
的を見つめる空野くんの瞳は、真剣そのもの。
凛とした、立ち姿。
ゆっくりと、弓を持ち上げ、ぎりぎりって、弦を引いていく。
ひゅっ
空気を切り裂く音がして、矢が飛んでいく。
トッ
的から少し外れた盛土の所に矢は刺さった。
ふうっ、と、空野くんは一つ息を吐いた。
もう一度弓を構える。
ぎりぎりっと、弦が引かれ・・・・
矢が放たれる瞬間
当たる
そうわかった。
パンっ
矢は的の真ん中に命中した。
「すごいっ!」
私は思わず、立ち上がって拍手した。
思った以上に声と拍手の音が響いて、間違った、と思った。
弓道場って、歓声とか拍手とかするところじゃない気がする。
空野くんが私を振り返る。
「ごっ、ごめんなさい」
私は頭を下げた。 邪魔をしたせいで、きっと、集中力が切れてしまう。
そんな私の耳に、空野くんがフッて笑った声が聞こえた。
顔を上げると、空野くんの優しい笑顔。
「大丈夫。 うれしいよ、ありがとう」
もう、空野くんの笑顔は、破壊力がすごすぎる。
私の心臓は、鷲掴みにされたみたいにぎゅってなった。
「よし。 空野、やろう」
城谷先輩が弓道場に入ってきた。
城谷先輩も、すごいカッコいい・・・
空野くんより背も高いし、袴姿、すごく似合ってて、素敵・・・
弓道部って、こんなカッコいい人ばっかりなのかな。
ぽやっとそんなことを考えてると、城谷先輩も的の前に立った。
また、ぴんっと空気が張り詰める。
2人の集中力が高まっていくのがわかる。
城谷先輩が弓を構える。 ゆっくりと弦を引き・・・
パンっ
的の中心からは少し外れたところに、矢が刺さった。
次は空野くんが弓を構える。
放った矢は・・・
パンっ
さっき中心に刺さった矢の、すぐわきに刺さった。
城谷先輩と空野くんは交互に矢を射って、3本ずつ射ったところで、空野くんは大きく息を吐いた。
弓を下ろし、頭を下げる。
『ありがとうございました』
2人の声が響き、私もいつの間にか力の入っていた肩を下ろした。
城谷先輩は、3本とも的に命中していた。 そのうち、最後の1本は中心に刺さっていた。
空野くんは・・・
最初に外した1本以外は、4本とも、中心に命中していた。
・・・すごい。 ・・・・本当に、すごい・・・・・
「空野は本当にすごいな。インハイ、いけるだろ」
空野くんはうなずいた。
「・・・そんなに簡単じゃないのはわかってます。でも・・・行きたい、です」
城谷先輩は笑って空野くんの肩を叩いた。
そして、私の方を振り返る。
「どうだった? 空野、カッコよかっただろ?」
「は、はいっ!」
空野くんが素敵すぎてぽーってなっちゃってた私は、思わず大きくうなずいた。
空野くんは照れたように笑って、
「守崎さん、ありがとう」
どうしよう・・・・ 空野くんのこと、どんどん好きになっちゃうよ・・・・
空野くんは言っていた通り、HRが終わったら教室まで迎えに来てくれた。
私の席まで来てくれて。
「空野くん、ありがとう」
私は鞄を肩に掛けた。 恥ずかしくて、空野くんの顔は見れないけど。
一緒に教室を出て、昇降口まで行って、校門を出る。
その間、空野くんは他愛もない話をしてくれていて、私の緊張はだんだん和らいできていた。
「守崎さん、マック行かない?
オレ、オシャレなカフェとか知らないからさ・・・」
少し恥ずかしそうに言う空野くんがかわいくて。
「うん、マック行こう」
私はうなずいた。
マックではカウンターの席に座った。
正面に座ったら、顔が見れないって思ってたから、よかった・・・
空野くんはほんとに優しくて、さりげなく気を使ってくれるし、話もたくさん振ってくれて。
私は緊張もほぐれて、楽しくて笑ってた。
「・・・笑ってくれて、良かった」
空野くんが安心したようにつぶやいた。
えっ、私、そんなに気を使わせてたの?
「ごっ、ごめんね。 私、ちょっと緊張しちゃってて・・・」
空野くんは照れたように笑って、
「・・・オレも、緊張してる。 オレ、話しすぎじゃない? うるさいかな」
私は慌てて首を振った。
「そんなことないよ! むしろ、話してくれて、うれしいし」
・・・・空野くん、緊張してたんだ。
モテるだろうし、こんなの慣れっこだと思ってた。
私だけが緊張してると思ってたのに・・・・ 意外、だな・・・・
「ね、守崎さん。 良かったら、LINE教えてくれない?」
不意にそんなことを言われて。
え、ちょっと待って。 ・・・・うれしすぎる、んだけど。
空野くんと、LINE交換、できるの!?
「うん!」
私は慌ててスマホを取り出した。
ほんと、あまりのことに、頭がついていかない。
空野くんのこと、好きだったけど・・・・
ただ、見てるだけしかできなかったのに。
私のこと認識してもらって、
少し話せるようになって、
そしたら一緒に帰ろうって誘ってくれて、
LINE交換まで・・・・!
もう、舞い上がりすぎて、気持ちがどこか飛んでいきそうだよ。
LINEの登録をしてる空野くんの横顔をちらって見てみる。
やっぱり、カッコいいなあ・・・・
その日は言ってた通り、遅くならないように帰った。
・・・正直、名残惜しかったけど、試験前だし、空野くんをそんなに引き留めるのも申し訳ないし。
でも、早速空野くんはLINEをしてくれて。
勉強の合間に、私も返信する。
・・・・すっごく、うれしいし、楽しい。
こんなに気持ちがふわふわした感じになるのなんて、初めて。
今日話したことを思い出すと、勉強が手につかなくなっちゃう。
それからも、毎日空野くんは私を迎えに来てくれた。
そして少し寄り道して、一緒に帰る。
私はよく知らないけど、空野くんが特定の女子と仲良くしてたことってないみたいで、私たちのことは学校で噂されるようになってきた。
・・・空野くん人気だし、女子に良く思われなそうで、ちょっと怖いな・・・・
「守崎さん!」
空野くんは今日も変わらず、私を迎えに来てくれる。
そんな空野くんを見て、同じクラスの女子がひそひそ話してるのが目に入った。
空野くんはそんなこと気にも留めず、笑顔を私に向けてくれる。
でも今日は、その笑顔がちょっと曇ってた。
どうしたのかと思って少し首を傾げると、
「あの、さ・・・・ しばらく部活休んでるから、ちょっとストレス溜まってきてて・・・・」
私は空野くんに連れられて、弓道場にやってきた。
「守崎さん、ほんとにいいの? つき合ってもらって」
「うん。 弓道って近くで見たことないし・・・・」
空野くんは、弓が引きたくてストレスが溜まってきたんだって。
どうしても弓が引きたいから、今日は一緒に帰れない・・・っていう話だった。
私も一緒に帰れないの残念だなって思ったけど、それ以上に、言った空野くんがしゅんってなってて。
弓を引く姿を見たいなって思って、連れて行って欲しいって言ったら、空野くんはすごく喜んでくれた。
しゅんってなったり、すごく喜んでくれたり、空野くんって言葉に出さなくても感情が結構外に出るタイプなんだなって思うと、すごくかわいく感じてしまった。
「ちょっと準備してくるね」
「うん」
私は弓道場の床に正座をして、空野くんを待った。
弓道場って・・・なんか・・・独特だな・・・・
和室とはまた違う和な雰囲気・・・・
神聖な感じがして、空気が澄んでる気がする。
それに実際にに見てびっくりしたのが・・・・・ 的、遠っ!!
あんなところに当てられるなんて、すごいなあ・・・・・・
私は、前に視た空野くんの前世の風景を思い出していた。
ルーカスは、すごい弓の名手だった。
あの時、少し視ただけだったけど、全部的に当てていたし、
『さすが! ルーカスは外さないな!』
『百発百中じゃないか!』
みんなにそう言われてた。
・・・・だから、空野くんも、弓道上手なんだよね。
1年生なのに、インハイに出られるかもって、言われてるなんて。
「あれ?」
物思いに耽ってたから、急に響いた声にびっくりしてしまった。
声のした方を振り返ると、弓道場に入ってきた人がいたことに気づいた。
空野くんじゃない、男の人。
私はその人のネクタイを見た。
私たちの学校の制服は、男子はネクタイ、女子はリボン。 で、学年で色が違うの。
私たち1年生はブルー、2年生はグリーン、3年生はレッドがベースになってるデザインのネクタイ。
その人はグリーンのネクタイをしていた・・・2年生の、先輩だ。
「入部希望者?」
その先輩は、私を見て怪訝な顔をした。
黒髪に眼鏡で、すごく整った顔立ち。 空野くんよりは・・・印象が、少し冷たい感じだけど。
細身で長身・・・空野くんより、背、高いかな。
私は慌てて首を振った。
「あ、ち、ちがうんです」
部外者が入っちゃ、やっぱりだめだよね・・・・
「おまたせ」
更衣室から、準備を終えた空野くんが入ってきた。
「・・・・っ!」
その姿を見て、思わず、息をのんでしまう。
かっ・・・・・こ、いいっ・・・・・!!!!
袴を身に着けた空野くんは、制服とは全然雰囲気が違ってて。
長身の彼にすごく似合ってるし、もうなんていうか・・・・・・
素敵すぎる・・・・・!!!
「空野か」
「城谷先輩」
空野くんは、先輩がいたことに驚いたみたいだ。
「空野が連れてきたのか?」
私のことを親指で指しながら、先輩は空野くんに尋ねた。
「あ、はい・・・ すみません、勝手に」
空野くんはぺこって頭を下げた。
城谷先輩は、空野くんを見て少し笑った。
「まあ・・・今日は他に誰もいないからいいけど。・・・彼女か?」
えっ
先輩の言葉に固まってしまう。
「いやっ! ち、ちがいますっ!」
空野くんが慌てて否定する。
顔を少し赤くして、慌ててるのは・・・わかるんだけど・・・・
ちょっと、胸が、痛いなあ・・・・
最近少し親しく話してるだけだし、『彼女』とか言われても、確かに困る・・・よね・・・・
でも、思いっきり否定されると・・・・さすがに傷つく・・・かも・・・・
「オレも弓を引こうと思って来たんだ。空野、せっかくだし、勝負しないか?」
城谷先輩の言葉に、空野くんはパって顔を輝かせた。
「はい! お願いします!」
「じゃあ、準備してくる。 先、引いてていいよ」
先輩はそう言うと更衣室に向かい・・・その前に空野くんに近づいて、肩にポンっと手を乗せた。
耳元に口を寄せて、なにか話しかける。
空野くんは少し目を大きくして、先輩を見た。
先輩は口角を持ち上げると、更衣室に入っていった。
「あの・・・守崎さん」
空野くんは少し眉を下げて、申し訳なさそうな表情。
私は立ち上がった。
「部外者が入っちゃダメなんでしょ? ごめんね、私、帰るから」
「違うんだ。 そうじゃなくて、その・・・ごめん」
空野くんは少しうつむいて、左手で首の後ろを触る。
「さっき先輩に『彼女?』って訊かれて、守崎さん、嫌な気分になったかなって・・・」
え
そんな、言われたこと自体は、・・・むしろちょっと、うれしかったというか・・・・
「それに、思いっきり否定しちゃって、ごめん。 そんなつもりじゃなくて、その・・・」
顔を赤くして、口ごもる。
「オレがそう言われるのが嫌とかじゃなくて。 守崎さんに迷惑かけたから・・・ごめん」
・・・私が彼女か訊かれて、空野くんが嫌だと思ったわけじゃないっていうのは、伝わってきた。
私はうれしくて、笑ってしまった。
「うん・・・私も全然、嫌とかじゃないから」
空野くんはホッとしたように顔を上げた。
「・・・よかった・・・
あ、気にしないで見て行ってね。 先輩もいいって言ってたから」
「うん」
私は改めて、床に腰を下ろした。
私の視線の先で、空野くんは的の前に立った。
ぴんって、空気が張り詰めるのが分かった。
的を見つめる空野くんの瞳は、真剣そのもの。
凛とした、立ち姿。
ゆっくりと、弓を持ち上げ、ぎりぎりって、弦を引いていく。
ひゅっ
空気を切り裂く音がして、矢が飛んでいく。
トッ
的から少し外れた盛土の所に矢は刺さった。
ふうっ、と、空野くんは一つ息を吐いた。
もう一度弓を構える。
ぎりぎりっと、弦が引かれ・・・・
矢が放たれる瞬間
当たる
そうわかった。
パンっ
矢は的の真ん中に命中した。
「すごいっ!」
私は思わず、立ち上がって拍手した。
思った以上に声と拍手の音が響いて、間違った、と思った。
弓道場って、歓声とか拍手とかするところじゃない気がする。
空野くんが私を振り返る。
「ごっ、ごめんなさい」
私は頭を下げた。 邪魔をしたせいで、きっと、集中力が切れてしまう。
そんな私の耳に、空野くんがフッて笑った声が聞こえた。
顔を上げると、空野くんの優しい笑顔。
「大丈夫。 うれしいよ、ありがとう」
もう、空野くんの笑顔は、破壊力がすごすぎる。
私の心臓は、鷲掴みにされたみたいにぎゅってなった。
「よし。 空野、やろう」
城谷先輩が弓道場に入ってきた。
城谷先輩も、すごいカッコいい・・・
空野くんより背も高いし、袴姿、すごく似合ってて、素敵・・・
弓道部って、こんなカッコいい人ばっかりなのかな。
ぽやっとそんなことを考えてると、城谷先輩も的の前に立った。
また、ぴんっと空気が張り詰める。
2人の集中力が高まっていくのがわかる。
城谷先輩が弓を構える。 ゆっくりと弦を引き・・・
パンっ
的の中心からは少し外れたところに、矢が刺さった。
次は空野くんが弓を構える。
放った矢は・・・
パンっ
さっき中心に刺さった矢の、すぐわきに刺さった。
城谷先輩と空野くんは交互に矢を射って、3本ずつ射ったところで、空野くんは大きく息を吐いた。
弓を下ろし、頭を下げる。
『ありがとうございました』
2人の声が響き、私もいつの間にか力の入っていた肩を下ろした。
城谷先輩は、3本とも的に命中していた。 そのうち、最後の1本は中心に刺さっていた。
空野くんは・・・
最初に外した1本以外は、4本とも、中心に命中していた。
・・・すごい。 ・・・・本当に、すごい・・・・・
「空野は本当にすごいな。インハイ、いけるだろ」
空野くんはうなずいた。
「・・・そんなに簡単じゃないのはわかってます。でも・・・行きたい、です」
城谷先輩は笑って空野くんの肩を叩いた。
そして、私の方を振り返る。
「どうだった? 空野、カッコよかっただろ?」
「は、はいっ!」
空野くんが素敵すぎてぽーってなっちゃってた私は、思わず大きくうなずいた。
空野くんは照れたように笑って、
「守崎さん、ありがとう」
どうしよう・・・・ 空野くんのこと、どんどん好きになっちゃうよ・・・・
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?
朱音ゆうひ@『桜の嫁入り』発売中です
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!
「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」
王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。
不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。
もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた?
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる