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激怒

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 食事が終わり、外務室に向かうとした時ルイが二枚の紙を渡してきた。特に何も考えずに紙を受け取り一枚ずつ手に持ち確認した。一枚は白紙で二枚目に文字書かれている。

「この魔法陣を作れということ。必要かな」

 文字書いてある紙は創作魔法陣の指示書だ。ということはこの白紙はルイが力を込めた紙なのだろう。彼が意図することが分からなかった。これから向かうのは敵陣ではなく身内との話し合いだ。しかし、ルイはまるで戦争にでも行くような怖い顔をしている。
 この魔法陣は相手を攻撃するような内容ではないので承諾した。

「初めて書くから上手く発動するか分からないよ」

 忠告しながら魔法陣を書きた紙をわたすと「大丈夫」と言ってそれを胸のポケットにしまった。更にお菓子もポケットに入れている。何をするつもりか検討がつかない。そのため不安になったが相手が相手なため多少ルイが暴走しても止めてくれるだろうと考えた。だからルイの行動に口を出すことはしなかった。

 外務室の中にある応接室には多すぎでないかと思えるほど人がいた。扉から一番遠い二人掛けソファに国王、その隣に叔父の摂政が座り、更に後ろに法務大臣のアーサーが壁に寄りかかっている。ローテーブルを挟んで国王たちとは反対側の二人掛けソファに私とルイが座っている。本来はニ、三人で使用する部屋に五人もいるから圧迫感を感じる。部屋替えを提案したかったがそんな雰囲気ではない。
 入室した時は和やかな雰囲気であり、アーサーも不在であった。入室後、叔父に着席を促されてソファに座った。
 叔父の隣にいる国王は珍しく紙とペンを持っていた。記録するにしても国王自ら書くことなどないため不思議におもった。
 ルイはキョロキョと部屋中を見まわしたかと思うと、突然アーサーを呼びつけた。その場にいた誰もが驚いていた。
 数分後アーサーが到着すると彼に向かいルイが「見ているならここで意見して下さい」と言ってからこの雰囲気である。ルイの言葉から察するに監視するための動画魔法陣を見つけたのだと思った。しかし、あたりを見回すがそれらしいものはない。
 ルイは目を細めて国王たちを見ている。どうやらルイは怒っているようであった。

「国王陛下の話をルカから聞きました。国を左右する問題をなぜ子どものルカに任せるような事をしたのでしょうか」

 ルイに質問されると国王は持っていた紙とペンを叔父に渡した。叔父はそれを丁寧にたたみ胸ポケットにいれた。その紙は今回の話し合いを記録する物だと思っていたため今閉まったのが不思議だった。しかし話が始まったのでそれを言葉にはしなかった。

「それは……」

「フィリップ国王陛下。現在は公務時間外です。国王ごっこは必要ありません」

 ルイのこの発言には国王たちだけではなく私も言葉を失った。ルイは優しくて自分の意見をあまり持たない。父である国王陛下を恐れている様子があり上層部に意見するなどありえない。それが漫画の設定だった。しかし彼は最終的に我慢しすぎてそれを爆発させて信じがたい行動にでるから本質はそこまで漫画とかけ離れていないのかもしれない。

 私は国王の豹変については話してないのだが“国王ごっこ”と言っているという事は彼の普段の様子を知っているのだろう。
 ルイは多分、ハリー・ナイトの牢獄を見ていたように城のあらゆるところに動画魔法陣をはり情報収集をしていたのだ。だから、あんなに多くの魔法陣を私に書かせたのか。
 私は練習のためだと思っていた。

「じゃ、父と呼んでよ」

 国王はすぐに態度を変え、笑いながらルイに話しかけた。入室時の威厳が一気になくなった。この切り替えはすごいと素直に感心する。私はここまで自分を変化させることなどできない。

「それは遠慮します。生まれてから国王陛下と呼ぶように指導されていますので」

 私と同じような断り文句をルイが言ったのでなんだか可笑しかったが笑うのは我慢した。ここで笑うほど空気の読めない人間ではない。

「遠回りに話しても時間の無駄ですので、はっきり申します。国王陛下はルカを試しましたね。おそらくきっかけはハリー・ナイトでしょう。彼は魔法陣を使えますよね。それを彼に教えたのがルカであると疑っているのでしょう」

 ルイは国王を睨みつけている。国王は眉を下げて、叔父とアーサーの顔を見ている。しかし、二人は国王の方を見ずにルイを見つめている。国王を助ける気ないようだ。自分の子どもに名指しで質問されているだから国王が答えるのが筋というものである。
 そのルイの言葉は私にとって衝撃的なものであった。私が魔法陣を使えることはアーサーしか知らないはずである。それを国王が知っているという事は彼が伝えたのだろう。残念な気持ちになった。へらへら笑い掴みどころのない彼であるが信頼していた。
 私がアーサーの方を見ると彼は慌てて首を振った。

「違うよ。僕は何も言っていない。ルカが魔法陣を使えることは国王も摂政も知っていることだよ」
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