彼にとって、世界を救うより大切なこと(神城結友の場合)

パンPキン

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プロローグ

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 冷風、雲をはらい、名月、星を隠し、霜夜の森には虫の音ひとつ響いていなかった。

 青年がひとり、月明かりすら避けて、草叢に身を隠していた。ふいに、彼が顔を上げる。
 岩肌の断崖から、夜空へ身を踊らせる細い影がひとつ。蒼色の髪が月光に冴ゆる、美しいエルフの乙女であった。浮世離れした美貌の妖精――ミヲは優美な面立ちを緊張で張り詰めさせている。魔物の群れに追跡されていた。宙で身を捻り、天地を逆しまにしたミヲは、機械仕掛けの弓から、魔力で編んだ矢を放つ。一矢だったそれは数条の光に分かたれ、彼女を追跡していた魔物の群れに降り注いだ。光矢の雨はこの森を縄張りとする魔物――ウォーウルフ――森の戦狼を狩るには十分な威力を有していた。事実、戦狼たちは光矢の空襲に為す術なく穿たれてゆく。しかしミヲの美貌に安堵の色はない。彼女を追い詰める存在は他にいた。

 エルフが飛び降りた崖の突端。そこに、吐息だけで周囲を凍てつかせるおおきな狼がウォーウルフを従えてのっそりと姿を見せた。白い満月を背に悠然たる威容は、まさに異教にして異端の神獣。崖下から見上げる青年にとって、畏怖と戦慄を覚えるのに、十分な存在感だった。

 氷の魔狼が夜の森に遠吠えを轟かせる。それは森中の配下を呼び寄せる大号令。敵対する者にとっては死の宣告に等しい。ーーだのに、残酷なまでに美しく、物悲しく胸を震わせる。
 遠吠えを終えた氷魔狼の頭上に、HPバーと個体名が表示される。

 ーー個体名:フェンリル。

 巨きい魔狼は、仮想電子世界<ウィズ>のフルダイブ型アクションRPGゲーム<アナザー・ワールズ 通称:A.W.s>の期間限定夏イベントの超強力ボスモンスターだった。現在、何十人というプレイヤーがパーティーを組んで、大規模レイド戦に身を投じようとしている。その熱気たるや凄まじいの一言に尽きる。フェンリルの威圧に竦みながらも、今か今かと戦端が開かれるのを待ち望んでいる。どのプレイヤーの横顔にも、恐怖と興奮とがい交ぜになっていた。
 崖下の開けた場所に降り立った蒼髪エルフを追って、フェンリルもその巨躯に似合わず、羽毛のようにふわりと着地する。付き従う魔物たちも次々と崖を飛び降りてくる。その中には、事前情報にない強敵の人狼の姿も散見され、プレイヤー間に動揺が走った。

「落ち着いて下さい。私達がやることに変わりはありません。想定外の展開にも対応できるようPoPモンスター討伐隊を組んであります。人狼はランキング上位プレイヤーに任せ、抽選組は戦狼の討伐をお願いします。一人一人の奮戦こそ、我々の勝利に繋がります!」

 レイド戦の中心にして、A.W.sエイワズの有名アイドルプレイヤー<蒼髪エルフのミヲ>が檄を飛ばすと、それに呼応し、ミヲの仲間であろう剣士が移動系スキルを発動。一瞬で間合いを詰めるや否や、人狼の一体を豪快な一太刀で斬り捨ててみせた。さらに、刺激された戦狼の群れがプレイヤーたちに急迫するも、地面に魔術陣が現れ、そこから炎の壁が噴き上がる。噴出した炎は大きくうねり、戦狼を焼き払うーーのみならず、フェンリルを含めた敵集団を囲い、逃走ルートを潰してしまった。

 炎壁えんぺきの包囲の狙いはそれだけにとどまらない。氷魔狼が遠吠えで集めた森の魔物たちの合流を妨げる上に、氷属性の伝説級魔獣であるフェンリルの弱体化を期待していた。現に、フェンリルのHPバーに火傷のバッドステータス表示が点滅している。目視では確認できないほどだが、微々たる量のスリップダメージが入っているようだった。当然、氷魔狼と戦うプレイヤーたちも炎壁に囲まれてしまっているが、彼らに火傷のダメージはない。凍傷だけでなく、火傷対策の防具まで装備していた。攻略を主導するミヲたちに事前に言われていたのである。
 こうして瞬く間に作られた有利な状況に、プレイヤーたちは一様に感嘆を漏らす。

「スゲェ……」「本当にここまで上手く誘い出すなんて」「これならやれるんじゃないか!?」

 ミヲは単にフェンリルに追跡されていた訳ではない。あらかじめトラップを張り巡らせたこの場に誘い出すための、危険な囮役を担っていた。

「これで状況は整いました。皆さん、討伐開始です。ご武運を。ーー総員、戦闘開始ッ!」
「うぉおおお!」「ミヲさま素敵!」「ウチらのミヲたんにエェとこ見せたるでぇ~ッ!」

 各々が信じる最高装備で身を固めたプレイヤーたちが、半狂乱気味に我先におのが獲物に突撃していく。しかしそこはトップランカーたち。ハイになっていても、自身の役割まで見失いはしない。防御力の高い盾役タンクは同じ役職同士で列を作り、フェンリルからの氷のブレスを自慢の盾で防ぎ、その間に機動力重視の戦士アタッカーたちがフェンリルの側面に回り込んで攻めかかる。付き従う戦狼ウォーウルフらが自らの王を守ろうとするも、後衛職に強弓つよゆみや魔術で撃ち抜かれ、戦士への妨害をすることができなかった。
 こうしてフェンリルの悪意ヘイトが遊撃する戦士たちに固定されたところで、攻撃力重視の重戦士たちが、大剣や戦鎚を引っ提げて駆け込み、フェンリルの死角から渾身のフルスイングを叩き込む。フェンリルから悲鳴が上がった。おそらくは、人にとって、足の小指をタンスの角にぶつけた程度だろう。しかし、それでも確かなダメージを与えた。HPバーが僅かに目減りしている。いけるいける! と沸き立つプレイヤー。

 連携が取れた波状攻撃に、さしもの神話級魔獣も出鼻を挫かれていた。仕切り直そうと、威力を増した氷のブレスで盾役を軒並み吹き飛ばし、まとわりつく五月蝿い戦士たちは前足と強靭な尻尾で薙ぎ払い、跳躍のため四肢を弛める。フェンリルの脚力があれば、炎壁も超えられるだろう。そうなれば、一気に戦況は見えなくなってしまう。

 このことを1番よく理解しているのは、作戦立案者の<蒼髪エルフのミヲ>だった。
 氷魔狼の意図を察し、そうはさせじと上空に跳躍。四肢を弛めてしゃがむ氷魔狼の直上で、機械仕掛けの弓を引き、魔力を集中させる。多量の魔力がかたどるは、神気を帯びる光の聖槍。気取けどった氷魔狼が真上を確認するより早く、乙女の繊指せんしが弓弦を弾く。
 空から放たれた聖槍がフェンリルの背を穿った。氷の魔獣が悲鳴を上げる。体勢も崩れた。HPバーがガリガリと削れていく。

(凄いな。イベントは詳しく告知されてたけど、普段パーティーを組んでない俺たちをこうも上手く……恐ろしいまでの判断力と指揮能力だ。本当に同世代なの? 蒼髪エルフのミヲあのひと)」

 トップランカーたちとボスモンスターとの激戦を、ランク外プレイヤーであるユウは少し遠巻きに眺めていた。先ほど草叢に息をひそめて、崖から飛び降りたミヲを見た青年である。
 ユウはまだ新参プレイヤーだ。レベルも低い。そんなユウでもキチンと役割があった。主力組が討ち漏らした戦狼や何らかの理由で炎壁えんぺきを超えてきた森の魔物の討伐である。要は、主力組の激闘に横槍が入らないよう、湧き続ける魔物に対処する係だ。
 確かに雑務と言えば雑務である。観戦者もこちらのプレイまでは見ていまい。しかし徒疎あだやおろそかにできないことでもある。一匹の戦狼の邪魔が戦局を決定づけてしまわないとも限らない。そしてなにより、ユウにとって適正レベルで相応に旨味もある役割だった。ここら辺でも、作戦立案者の優秀さが垣間見えている。

 もちろん、この差配に異議や不満を露わにしたプレイヤーもいたが、ミヲたちの超高度な戦闘技術を目の当たりにすると、とある水準までレベルや技術が達していなかったら、足を引っ張るだけになることが察せられた。それでも、強引に闘いに参加するプレイヤーもいた。それは個人の自由であった。ミヲたちも強制はしていない。協力してくれると嬉しい、くらいの要望だった。

「おい、出過ぎだオマエ!」「うるせぇ! こんな雑魚ばっか相手にしてられっか!」「余所よそ見すんなバカ! うぎゃ!」「出過ぎた奴らがやられた! 穴が空いちまう!」「カバーに回ってくれ!」「人手が足りないわ!」「ヤベッ! 手負いの人狼がそっち行った!」「あっちはヒヨコ達だろ?! 瞬殺されちまう!」「逃げなさい!」「逃げるたってどこに逃げればいいんだよぉーッ!」「うわぁあ!?」

 比較的穏やかだったユウの担当区域に、強敵が逃げ込んできたようだ。人狼と聞こえて四肢に緊張が走るが、ユウからはまだ遠い。他の騎士や戦士が応戦しているが、ここにトップランカーはおらず、統率が取れていない。互いの攻撃や動きが、互いに邪魔してしまっている。

 一方、手負いの人狼はまさに必死で、強靭な爪と膂力で抗い、本当にプログラムなのかと疑うほど、生き延びることに全力だ。生木など容易く断ち切る爪牙にて、次々に包囲してくるランク外プレイヤーを屠っていく。
 その人狼が次に目をつけたのは、戦力が低くて戦場の外縁に配置されたユウだった。樹の傍に突っ立っていたところで目が合ってしまう。タゲを取ってしまったようだ。人狼のHPバーが出現。すでにレッドゾーン。瀕死状態だ。新参のユウにはそれでも厳しい強敵。中級者でも屠ってしまうのが人狼である。スペックが違い過ぎた。

「GWAAAAA!」

 背筋が総毛立つと、人狼は四肢を使って一直線に突撃してきた。人狼は狡猾な魔物で有名だ。真正面からの突進などまず見ない。ユウを圧倒的弱者と判断している証左である。
 その見立ては正当なモノだ。新参者ではまず勝てない。しかし今回だけはユウにも勝機があった。
 事前にミヲたちから伝えられた情報を精読し、自分でも調査して、人狼が出現する可能性をひらめいた。そのための訓練も積んできている。作戦領域内で、樹の傍に陣取っていたのは偶然ではない。これまでの準備が徒労に終わる可能性の方が高かったため、手負いの人狼が来てくれてツイてるとさえ感じる。ユウは全身の血流が加速し、発火して熱くなるのを感じた。

(まぁそれでも負ける可能性のほうが大きいんだけど……いざ、勝負ッ!)

 ユウのアバターは速度重視。斥候まがいの戦士だ。主武装は剣。サブに拳銃。どちらも無いよりはマシな程度。防具も然り。これらの装備と現レベルとでは、スペック的に圧倒されている。だが一つだけ、ユウはレベルに似合わないアイテムを所持していた。

 左腕の腕輪型の装置を一瞥する。運良く、最初のガチャでGETしたSSSレア装備<鋼糸こうし>だ。トリッキーなワイヤーアクションが出来るようになる。と言っても、このゲームにはオート機能がほとんど存在しない。単純な脚力やMPなどは別だが、剣術にしろ魔術にしろ、相応の練習が必要だった。つまり、鋼糸を入手したからと言って、誰でもワイヤーアクションを実践できる訳ではなかった。先ほど<蒼髪エルフのミヲ>が見せた空中での姿勢制御なども、彼女本来の身体能力と修練の賜物である。だから讃嘆すべきプレイだったのだ。

 ――閑話休題。

 意識を目の前に戻す。ユウを甘く見て愚直に突き進んでくる人狼。こちらに相応の準備が整っていることなど想像だにしていない。だがさすがに速い。30メートル前後はあった間合いが瞬く間に消える。合わせられるか? ヒリつく緊張と加熱する興奮とで、好戦的に笑うユウ。

 人狼が射程に入った。ユウは拳銃の撃鉄を落とす。連射する。コストは無視。狙いはつけたつもり。しかし人狼の動体視力は並外れていた。掠りもしない。想定内だ。牽制になれば御の字。人狼の直線的な動きを、ややジグザグにすることができた。稼げた数秒を使って、煙玉を足元に叩きつける。立ち込める白い煙幕にユウは身を隠す。

 されど、人狼は嗅覚も鋭い。視界が悪くとも獲物を狩るには問題なかった。白煙に突っ込む。すると途端に鼻が利かなくなった。鼻先がシビれる。嗅覚がマヒしたことを感じ、面食らう人狼。
 実は、煙幕には嗅覚を鈍らせる魔物の蛾の鱗粉が混ぜ込んであった。ユウが事前に準備していたモノである。
 視覚と嗅覚を奪われた人狼は、それでも聴覚が残っていた。煙幕の中で耳を立てる。かすかに、異音がする。人が聞けば、モーターの駆動音と気づいたろう。この僅かな音を頼りに、血に濡れた爪を振るうが、空を斬った。ついに人狼は獲物を見失い、顔色が焦燥に染まる。

 一方のユウは、この時、傍にあった樹の太い枝に乗っていた。白煙に紛れた直後、鋼糸を枝に巻き付け、自身の体を持ち上げたのである。
 そして、眼下に銃口を向ける。ちなみに、ユウからも人狼の位置は正確に分からない。それくらい煙は濃い。だがそれでも構わなかった。1度だけ、引き金を引く。

 ーー眼下の煙幕が爆発して燃え上がった。

 煙玉に交ぜた魔物の蛾の鱗粉は可燃性でもあった。その蛾は、戦闘になると、燃えながら飛ぶという性質がある。しかもプレイヤーは麻痺してしまうオマケ付き。その秘密が鱗粉だ。この魔物はHPは低いが、その性質上、初心者刈りとして有名だった。何度かユウもやられている。四苦八苦しながらも、なんとか手に入れたドロップ品だ。

 ここで当然の話をしよう。モンスターはHPを削らなければ倒せない。人狼も然り。だが人狼の速度はユウを遥かに超える。自分の攻撃が当たる光景をユウは思い浮かべることができなかった。
 ゆえに。攻撃を当てるのではなく、当たりに来てもらおうとユウは考えた。発想の転換である。自分を囮にして誘い込み、可燃性の鱗粉を巻いて、火種を投げ込み爆発させて、あわよくば倒してしまおうとした。
 
 結果は、想定より人狼の防御力は高かった。大きな火傷を負いながらも爆炎から転がり出た。四つん這いになって痛みに耐えるその首に、冷たい鋼糸が絡みつく。爆発の衝撃で倒れゆく樹木から、ユウは翔んだ。伸ばした鋼糸を巻き取りながら、右手に剣を握り、人狼に向かって真っ直ぐ滑空ーー否、強襲パワーダイブ。一瞬、人狼と視線が交錯する。
 直後、両者の身体が衝突。人狼の背中から剣が飛び出た。悲鳴はない。あえぐ息遣いだけが耳元で聞こえる。人狼のHPバーがゼロに達した。硬い獣毛で覆われた肉体が光の破片となって散ると、支えを失ったユウの身体は地面に転がった。そのまま大の字に寝転ぶ。未だレイド戦は続いているし、HPも多少の減損があるだけだが、このまま継戦するだけの精神力が残っていなかった。トップランカーの皆さんには悪いが、大金星を上げたので、許して欲しい。
 膨大な経験値が入り、ウルサイほど連続してレベルアップした音が鳴る。腕力や脚力などはステータスに依るので、一気にレベルアップしてしまうと、強化されたアバターに慣れるため練習が必要だった。それが面倒だと思う一方、作戦がハマり人狼を倒せた達成感で頭がふわふわしている。心音が大きい。

(う、上手く行った……やった……嬉しい! けど、疲れた……状況はどうなってる?)

 身体を起こして周囲を見ると、プレイヤーはいなかった。さっきの人狼におおよそが倒されてしまったことと、ここが主戦場から離れているからだろう。今の熱戦を知る者はおるまい。自慢したいとまでは言わないが、寂しくもある。誰かと今のプレーを共有したいが、ソロプレイヤーには避けられない運命さだめだった。

 氷魔狼フェンリルとトップランカー組との戦闘は先ほどよりも激化していた。いつの間にかフェンリルの巨躯が筋肉で膨れ上がり、更に大きくなっている。目の色も怒りで紅蓮に染まり、より一層、凶悪な顔つきになっていた。トップランカーの中にも姿が確認できないプレイヤーがいる。脱落したのだろう。その穴埋めに奔走しているのがミヲたちだった。氷魔狼のブレスを浴びそうだった剣士を連れて飛び跳ね、一緒に退避している。

 だが氷魔狼のHPゲージは半分まで目減りしていた。主力組も決して負けていない。むしろ想定より被害が少ない。善戦している。もちろん、まだ半分もあると捉えることもできるが……。ここでミヲの激が飛ぶ。

「もう半分まで来ました! 予想以上のペースです! 我々は強い! このままの勢いで押し切ります! 息を揃えて連携していきましょうッ!」

 カリスマと同性すら魅了する美貌のエルフに激励されて、奮起しない者などいなかった。もはや戦女神となったミヲは、一人の大男の前に降り立つ。そしてーー。

「あなたなら道を切り開けます! 今、強い一撃が欲しいんです! お願いします!」

 間近で特別に応援エール支援バフ魔法を授けられた大男。彼は雷の直撃を受けたか如くシビれ「我、天啓を得たりィいいい!」と鼻穴を含まらせるや、逞しい筋肉を赤く膨張させて、単身で氷魔狼に突撃を敢行。……無謀だ。絶え間なく他のプレイヤーから攻撃や妨害を受けつつも、氷魔狼は極太アイスニードルの散弾で迎撃する。大男に逃げる先はない。が、拳闘士の彼は前に踏み込む。見た目とは裏腹に巧みな体捌きだ。瀬戸際でアイスニードルの弾幕を躱しつつ間合いを詰める。並のプレイヤーにできる動きではない。さぞや名のある強者つわものなのだろう。しかし、そんな彼をもってしても、氷の散弾を避けきることはできなかった。氷のトゲが腹筋を貫く。致命傷だ。拳闘士のHPバーが瞬く間に削れていく。それでも大男は笑った。致命傷と引き換えに、フェンリルの懐に踏み込むと、凄絶な表情で犬歯を剥く。今度はこちらの番だ……と。
 HPが底を尽くまでの僅かな間で、闘技スキルを発動。HPが少ないほど威力が激増する<捨身の拳撃>を打つ。それはまさしく乾坤一擲だった。戦況の流れを掴む決定打。拳闘士を覆うオーラが鉄拳に集うや否や、峻烈なアッパーカットがフェンリルに炸裂する。
 氷魔狼の顎を打ち上げた拳からは黄金の光が噴き出し、それは昇り龍のような形をとって天に突き刺さった。大男は自身の役目を完遂したことを確認するより先に、光の塵となって消える。

 大柄な拳闘士の戦いぶりは、共闘するプレイヤーたちを魅了し、なにより勢いづけた。実際には、そこまで氷魔狼のHPは減っていない。だが、強力なボスモンスターにしては珍しくスタンが発生。これは好機だった。
 <蒼髪エルフのミヲ>が号令をかける。

「今です! 彼のーーダニンさんの奮闘を無駄にしてはいけません! 総員、突撃ッ! 決着を付けます!」

 鬨の声を上げ、総攻撃をかける全プレイヤー。今ばかりは、僅かに生き残った低レベルのプレイヤーも参加して、1ドットでも氷魔狼のHPゲージを削りにかかる。人狼や戦狼など無視した。もちろん、ユウも興奮の熱気に当てられて、動けないと思っていた身体を走らせて氷魔狼にぶつかりに行く。

 ーー後日。氷魔狼討伐戦において、神憑り的なカリスマと指揮能力を発揮して、最も活躍した<蒼髪エルフのミヲ>には、<勝利を約束する美しい戦乙女>の称号と、<仲間を魅了して死兵とさせる麗しの魔女>の称号、どちらを贈るべきかとする論争がネットを騒がしたのは、余談である。 
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