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第八話 結果

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「それでは試験は以上になります!試験結果は明日の朝、学園の入り口にて掲示します!お疲れ様でした!」


 第二試験が終わり、本日はお開きとなった。


 俺は試合の後に、ナイジェルを問いただしたんだが……


「それはまた今度、きっと君とはすぐ会えるからね」


 そう言い残して、取り巻き連中と去って行ってしまった。


 本当に掴めないやつだ……


 俺がナイジェルを見送っていると、後ろからトコトコとニアがやってきた。


 その横にはケントが眉毛をへの字にして腹を抑えて立っている。


「ラルフ、かえろ。」


「ラルフよぉ~、俺は腹が減って死にそうだぜ~」


「そうだな、今日はもう宿に戻るか」


 ナイジェルの事だ、きっと合格しているだろう。


 学園入学後にまた聞けばいい。


 俺もすっかりお疲れモードのニアと、腹が減ってるケントを連れて試験会場を後にした。





 --翌日--


 俺たちは学園の門の前に来ていた。


「それでは、入学試験の結果を掲示します!」


 試験官がそう宣言すると、掲示板に被せてあった布がはがされた。


 すぐさま受験生達は、合格者の番号を確認する。


「お!俺の番号あるじゃん!やったぜぇー!」


 最初に番号を見つけたのはケントだった。


 ケントが合格なのは納得だな。


 それからケントを筆頭に、番号を見つけた受験生達が喜びの声をあげだした。


「うぅぅ~母さん、俺やったよ……」


「よかった……家を追放されなくて済む……!」


 中には新聞記者から取材を受けてる奴もいる。


 さすがは王国一の学園だ、受験から注目されているんだな。


「合格おめでとうございます!今どんな気分ですか?」


「ものすごく嬉しい気分です!叫んでもいいですか!?」


「いいですよ!」


「ゔぅぅあぁぁぁぁぁぁああ!」


 ん?なんか前世で聞いた事あるようなやり取りが……


 気のせいか。


 そんな受験生達の喜びと悲しみがひしめき合う中、ひときわ人が集中している所がある。


 どうやらその全員が、今回の首席の受験番号を確認しているようだった。


「ねぇ、この番号……ナイジェル様じゃないわ……」


「ナイジェル様が次席……?そんな事って……」


「まさかナイジェル様の対戦相手だった、あの茶髪の男!?」


 集団の前の方で、ナイジェルの取り巻き達がボソボソと文句を言っている。


 どれ、俺も見てみるか。


 えーと、なになに?


 今回の試験の首席は『3466番』


 ん?この番号って確か……


「あ、ラルフ、いたいた。」


 ニアの番号じゃないか!!


「ニア!首席合格じゃないか!すごいな!おめでとう!」


「ん、よくわかんないけどやったー。」


 まさかニアが首席合格するとは。


 確かにニアは、どちらの試験でも高得点と戦闘センスを発揮してたからな。


 ニアの答辞を聞くのが楽しみだ。


 さて、そろそろ自分の番号を探すとするか。


 ニアとケントの合格も確認できた事だしな。


「え~っと~、2947……2947……」


 ん……?


 おかしい……


 俺は合格者の番号を、もう一度よく確認する。


『2933』『2940』『2946』『2961』


 ない……


「俺の番号がない!?」


 このままでは第二王子との接点ができなくなってしまう……


 アンリに謁見を許してもらえたとはいえ、一度きりだ。


 一度の接触で全てを確認するのは難しいだろう……
 

 いっそニアとケントに事情を説明するか……?


 いや、それでは余計話がこじれる気がする……


 俺は自分の番号が何かの間違いではないかと、何度も番号を確認した。


「やはり……ない……か……」


 しかし何度確認しても、俺の番号は合格者の中に含まれていなかった。




 
 時は試験当日の夜に遡る。


 学園の大会議室にて、試験官を務めた教員達が今年の合格者を選考していた。


「続いて3476番のケント=アーガイルですが、第一試験の結果は75点と平均より少し上程度です。ただ、第二試験において平民でありながらサーペント伯爵家の次男を圧倒しました。この結果から合格と判断してよいかと、何か意見のある方は?」


 教員達は首を横に振る。


 そして一番大きな椅子に座る、初老の男性が口を開く。


「平民でありながら素晴らしいな、さぞ努力を重ねてきたのであろう。合格だ」


「それでは続いて3466番のニア=ユーフレッドですが、第一試験の結果は入学試験の過去最高点を記録しています。更に第二試験においては、A級冒険者としても活躍している『影縫い』を相手に勝利しています。充分に合格と判断してよいかと、何か意見のある方は?」


 教員達は再び首を横に振る。


 その後、また初老の男性が口を開く。


「なるほど、今年の平民の受験生達は、皆素晴らしい才能に溢れているな。合格だ」


 進行役の教員が受験生一人一人の試験結果を解説し、他の教員からの意見を聞く。


 そして最後に学園長が合否の判断を下す。


 これが、学園の入学試験の選考のやり方だ。


 ここまでは例年通りの選考の景色だった。


 だが、今年は1人の受験生の出現が、教員達の頭を抱えさせている。


「そして2947番のラルフ=ユーフレッドですが……正直、この報告書だけですと判断ができません……どなたかご意見はありますか?」


 進行役の教員が他の教員へ意見を求める。


 すると、一人の小さな女性教員が口を開いた。


「私は彼の第一試験を監督していましたが、見たこともない魔法を使って的を切り刻んでしまいました……しかも結果は測定不能です……こんな受験生は今まで見た事がありません……」


 その教員の言葉に、学園で魔法学を担当している大きな黒い帽子を被った教員が、信じられないという様子でこう答えた。


「そんな!あの的は『氷の魔女』ことカナン様が作った覇王級魔法にも耐えられる魔道具だというのに……」


 その言葉に教員一同が静まり返る。


「あの……いいですか?」


 その静寂の中、若い男性教員が口を開く。


「私は彼の第二試験を監督していました……ラルフ君の相手はあのナイジェル様でしたが……その……」


「どうしたのかね?続けなさい」


 学園長が続きを促す。


「はい……最初はナイジェル様が優勢かに思えました……ただ、途中から急にラルフ君の様子が変わりまして……」


「んん?それはどういうことかね?」


「なんというか……手加減をしていたんです……あのナイジェル様にですよ……?王国でも随一のスキルと才能を持つナイジェル様にです……その後、様子が変わったラルフ君は、ナイジェル様の王級魔法を一瞬で無力化して、目にも止まらぬ速さで連続攻撃を仕掛けて勝利しました……」


「さようであるか……」


「しかも彼は、あれでも恐らく本気を出していません……ハッキリ言って底が見えません……」


 教員の中には、まさかそんな訳と疑いの意見をもつ者もいた。


 だが、それが事実なのであれば教員が教える事など無いに等しい。


 この受験生をどう扱うべきか。


 これほどまでこの『グレートベル王立学園』の優秀な教員達の頭を悩ませる存在は過去に存在しなかった。


 そんな中、ついに学園長が口を開いた。


「彼を特別入学とする」
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