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第二十三話 悪夢3

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「ニアちゃん……」


 アンリは今年で18歳と、王城では立派な成人として扱われている。


 王族の成人とは自国の民を守る責任がある。


 アンリはそう考えている。


 だが、この現状はどうだろうか?


 3つも歳下の女の子が、この状況でも諦めずにいる。


 対して自分は、絶望して考えることすら放棄してしまっている。


 自分の器とはこんな物だったのかと、アンリは自分が情けなく思ってしまっていた。


 そんな事を考えて俯くアンリに、ニアが声をかける。


「アンリ、こっちを見て」


 ニアの声を聞いて、顔を上げるアンリ。


「ニアちゃん……ごめんね……私ったら全然頼りにならないよね……」


 自分に失望したアンリの目から涙が溢れる。


「そんな事ない、アンリは助けを呼びに行こうとしてくれたよ。」


「でも!私は何も役に立ってない!」


 ニアは優しい言葉をかけてくれる。


 でも、自分が役に立っていると思えない。


 そんな現状に腹が立って、歳下を相手にムキになってしまった……   


 なんて情けない……


「アンリ、それじゃあ一緒に戦って。」


 それでもニアは、アンリに優しく声をかける。


「え……でも……」


「二人で協力、そしたら絶対大丈ブイ。」


 ニアは手をピースの形にして、ニコッと微笑む。


 理由は分からない。


 でも、何だか不思議と大丈夫な気がしてくる。


 役に立てないと思うんじゃない、役に立てるように考えろ。


「わかったわ……!二人でここから脱出しましょう!」


 そう言ったアンリの表情には、もう迷いはなかった。


「ルナちゃ~ん!オリヴィア~!お話はもういいかしら~?そろそろ私の痛みも共有して欲しいのだけれど~?あと私の包丁も返して欲しいのだけれど~?」


 ビカラは相手にされない事が不満なのか、両手を腰に当てて、口を尖らせている。


「ニアちゃん、私に考えがあるわ」


 アンリはニアに小声で耳打ちする。


「ん、わたしもそれしかないと思ってたとこ。」


「よし……覚悟を決めるしかないわね」


 アンリは、ビカラから奪った柳刃包丁を手に持つ。


「よかった~オリヴィア!返してくれるのね!さぁ、はやくそれを渡してちょうだい?」


 しかし、アンリは動かない。


「オリヴィア?どうしたの?はやくそれを渡して?」


「これは、あなたに返すために持ってるんじゃないわ」


「ん~?どういう事かしら?」


 ビカラはアンリの言っている事が分からず、首をかしげている。


「あなたはこの空間では、痛みが共有されると言ったわね?」


「えぇ!素敵な空間でしょ~?みんなで私の痛みをシェアハピできるのよ~!」


「それなら……」


 アンリはそう言うと、自身の首筋に柳刃包丁を当てだした。


「ちょっ……オリヴィア?何をしているの……?」


「刀剣生成〈ソードファクトリー〉」


 アンリの行動に困惑するビカラを横目に、ニアもスキルで剣を一本生成して、ソッと自身の首筋に刃を当てる。


「え!?ルナちゃんまで!?どうしたの一体!」


「わたしも、メンヘラ。」


 ニアはフフッと笑みを浮かべる。


「え!?分からないわ!?分からない!」


 目の前で自身の首筋に刃を向ける二人に、戸惑いを隠せないビカラ。


 アンリとニアはお互いに眼を見合ってから、深呼吸をして呼吸を整える。


「ビカラちゃん……私たちの痛みも共有してちょうだいッ!」


 アンリがそう言った直後、二人は同時に自身の首筋を刃で切り裂いた。


 二人の首筋から、勢いよく鮮血が吹き上がる。


「やめてぇぇ!そんな事したらこの世界がぁぁ!」


 ビカラの本気の叫びが異空間に虚しく響き渡る。


 二人が手に持っている刃が音を立てて床に落ち、そのまま力なく膝から崩れ落ちる。
 

「アァ……私の首からもこんなに……まさかこんな事をするなんて……!」


 薄れゆく意識の中、ビカラの掠れた声が聞こえてくる。


 そして最後には、二人の意識は闇に沈んでいった。
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