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雨
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ぼんやりと、帰り道を歩く。頭の中で、さっきの愛梨ちゃんの言葉がぐるぐると回る。
──これも全部、朱里ちゃんのおかげ。小鳥遊先輩と付き合うことになったの。
なぜ、なにもしていない私のおかげで、お兄ちゃんと愛梨ちゃんが付き合うことになったのか、わからないけれど。
二人が付き合うことになったのなら、祝福すべきだ。二人は、運命に結ばれた結ばれるべき相手なのだから。むしろ、祝福しない理由がない。それなのに。
どうしてこんなに胸が苦しいんだろう。
「あ、雨」
空を見上げると、さっきまで晴れていたのに、雨が降りだしていた。傘をささなきゃ、と思ったが、傘を持ってくるのを忘れていた。それなら、走って家まで帰るべきなのに、なぜだか、そういう気分になれず、立ち止まる。
体が濡れるのも気にせず、空から降る雨を、ぼんやりと眺めていると、後ろから走ってくる音が聞こえた。
「朱里ちゃん!」
そういって、私を傘の中にいれてくれたのは、亮くんだった。
「……亮くん」
ありがとう。部活はもう終わったの? いつものように話そうとしたのに、言葉にならない。代わりに私の口からでてきたのは、
「……ごめんね」
なぜか、謝罪の言葉だった。自分で自分の言葉に混乱している私の目元を、亮くんはなにも言わずに、ハンカチでぬぐった。
そうされて、初めて、私は、私の頬が濡れている理由が雨だけではないことに気づいた。
なんで。どうして、私は泣いてるの。
慌てて、涙を止めようとするのに、涙は後から後から零れ落ちて、止まることを知らない。
「!」
そんな私を優しい熱が、包んだ。亮くんに抱き締められたのだと気づくまで、数秒、かかった。
「りょう、くん?」
「……誰にも、見せないから」
その言葉通り、亮くんは、私を誰にも見えないように抱き締める力を強くした。体格差のある、亮くんに抱き締められたら、誰も、私の顔を見ることはできないだろう。
「だから、泣いていいよ」
亮くんの穏やかな声は、最後の駄目押しで。私は、物心ついて、初めて、声をあげて、泣いた。けれど、もう高校生なのにみっともないなんて言わずに、亮くんは、私が泣き止むまでずっと私の背を撫で続けてくれた。
「……落ち着いた?」
「……うん、ありがとう、亮くん」
私が泣き止むと、亮くんは、私の背から手を離した。
「あのね、亮くん、わたし、」
亮くんに言わなきゃいけないことがある。もう遅すぎるけれど、やっと、気づいた。私は、お兄ちゃんのことが、まだ、好きなんだ。
けれど亮くんは、苦く笑って、私の口を押さえた。亮くん?
「三ヶ月待って。三ヶ月付き合っても、朱里ちゃんがその人のこと、好きなら、完全に諦めるから、だから」
「……亮くん」
亮くんは、なんでそんなに優しいんだろう。思わず、また、泣きそうになる私に、亮くんは囁いた。
「好きだよ、朱里ちゃん。朱里ちゃんが、誰のことを好きでも」
──これも全部、朱里ちゃんのおかげ。小鳥遊先輩と付き合うことになったの。
なぜ、なにもしていない私のおかげで、お兄ちゃんと愛梨ちゃんが付き合うことになったのか、わからないけれど。
二人が付き合うことになったのなら、祝福すべきだ。二人は、運命に結ばれた結ばれるべき相手なのだから。むしろ、祝福しない理由がない。それなのに。
どうしてこんなに胸が苦しいんだろう。
「あ、雨」
空を見上げると、さっきまで晴れていたのに、雨が降りだしていた。傘をささなきゃ、と思ったが、傘を持ってくるのを忘れていた。それなら、走って家まで帰るべきなのに、なぜだか、そういう気分になれず、立ち止まる。
体が濡れるのも気にせず、空から降る雨を、ぼんやりと眺めていると、後ろから走ってくる音が聞こえた。
「朱里ちゃん!」
そういって、私を傘の中にいれてくれたのは、亮くんだった。
「……亮くん」
ありがとう。部活はもう終わったの? いつものように話そうとしたのに、言葉にならない。代わりに私の口からでてきたのは、
「……ごめんね」
なぜか、謝罪の言葉だった。自分で自分の言葉に混乱している私の目元を、亮くんはなにも言わずに、ハンカチでぬぐった。
そうされて、初めて、私は、私の頬が濡れている理由が雨だけではないことに気づいた。
なんで。どうして、私は泣いてるの。
慌てて、涙を止めようとするのに、涙は後から後から零れ落ちて、止まることを知らない。
「!」
そんな私を優しい熱が、包んだ。亮くんに抱き締められたのだと気づくまで、数秒、かかった。
「りょう、くん?」
「……誰にも、見せないから」
その言葉通り、亮くんは、私を誰にも見えないように抱き締める力を強くした。体格差のある、亮くんに抱き締められたら、誰も、私の顔を見ることはできないだろう。
「だから、泣いていいよ」
亮くんの穏やかな声は、最後の駄目押しで。私は、物心ついて、初めて、声をあげて、泣いた。けれど、もう高校生なのにみっともないなんて言わずに、亮くんは、私が泣き止むまでずっと私の背を撫で続けてくれた。
「……落ち着いた?」
「……うん、ありがとう、亮くん」
私が泣き止むと、亮くんは、私の背から手を離した。
「あのね、亮くん、わたし、」
亮くんに言わなきゃいけないことがある。もう遅すぎるけれど、やっと、気づいた。私は、お兄ちゃんのことが、まだ、好きなんだ。
けれど亮くんは、苦く笑って、私の口を押さえた。亮くん?
「三ヶ月待って。三ヶ月付き合っても、朱里ちゃんがその人のこと、好きなら、完全に諦めるから、だから」
「……亮くん」
亮くんは、なんでそんなに優しいんだろう。思わず、また、泣きそうになる私に、亮くんは囁いた。
「好きだよ、朱里ちゃん。朱里ちゃんが、誰のことを好きでも」
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