60 / 85
お兄ちゃんは、彼氏様!!……だよね?
恋をしたから、その日まで 1
しおりを挟む
──人に優しくあれと願われた。だから、そうありたいと思っていた。
「優に、会わせたい人がいるの」
そう、お母さんが言ったとき、ああ、と思った。お父さんが交通事故で亡くなってから、お母さんの笑顔は減った。そんなお母さんの笑顔が、最近、増えるようになった。だから、もしかしたら、そんな日が、僕の新たな『お義父さん』ができる日がやってくるのかもしれないとは思っていた。
人の心は移り変わる。相手がもうこの世にいないのなら、なおさら。お母さんを責めることはできない。だって、お母さんは僕のお母さんであるとしても、お母さん自身の人生を歩んでいることに変わりはない。だから、愛する人と一緒になりたいというのは、ごく自然な感情なのだと、頭では理解しながら、心のどこかで裏切られたような気がしていた。
複雑な感情を抱きながら、その新しいお義父さんとやらに会うことになった。優しくあれと望まれた自分は、お母さんを悲しませるような真似をするわけにはいかないので、いつもよりもはしゃいでみせた。
果たして、初めて出会ったお義父さんは、悪い人ではなかった。豪快に笑う人で、とにかく明るい人だった。まだ、心のどこかで認めることはできないけれど、お母さんが、好きになるのも頷ける。何回か、お義父さんに会った後、実はお義父さんにも子供がいるのだと聞いた。女の子だそうだ。
「優に、義妹ができるの。とても、可愛らしい子よ」
お母さんは、その子のことをそう評した。
その子との初めての顔合わせの日。僕は、その日を忘れることはないだろう。お母さんから名前は聞いていた。お義父さんの後ろに隠れるようにしているその子に優しく話しかける。
「僕の名前は、優。よろしくね、朱里ちゃん」
僕がそういって微笑むと、わかりやすく頬を染めた朱里を確かに可愛いな、とだけ思った。けれど、その印象はすぐに覆されることになる。
顔合わせが行われたのは、公園で。僕らは、二人で遊ぶことになった。一通り、遊具で遊び、今度は砂山を作ろう、と朱里がいった。
砂場は、お母さんたちから完全に隠れてはいないものの、滑り台などで微妙に隠れていていることと、遠いことから表情までは見えない場所にあった。
「あのね、優くん」
「どうしたの、朱里ちゃん」
大きな砂山を作り終わると、朱里はしゃがんでいる僕に耳打ちした。
「もう、大丈夫だよ」
「?」
何が大丈夫なんだろう。疑問に思っていると、朱里は、立ち上がって、僕の頭を撫でた。
「もう、お父さんたちから見えてないから、泣いても、大丈夫」
どうして。上手く隠していたつもりだった。新たな父だという人を心のどこかで認めることはできない思いを。実際に、お母さんにも気づかれなかったはずだ。お母さんは、僕がお義父さんによくなついていると喜んでいたから。それなのに、僕より幼い、この子に、どうして。
けれど、そう思うのに、頭を撫でられると勝手に涙は溢れてきた。
「大丈夫、大丈夫だよ」
認められない僕のことを赦すように、朱里が穏やかな声で僕を撫でる。その手は、僕が泣き止むまで、止まることはなかった。
「どうして、僕のこと……わかったの?」
僕が泣き止むと、お母さんたちに怪しまれないようにと再開した砂山作りを始めた朱里に尋ねる。
「私も、そうだったから。だから、優くんもそうかもしれないって、思ったの。あっ、でも、今はちゃんとお義母さんのことも好きだよ」
そういって、朱里はぶんぶんと首を振る。
「別に疑ってないよ」
というと、安心したように、朱里は笑った。
「あのね、新しいお義母さんができるって聞いて、嬉しいのと悲しいのとどっちもあって。新しいお義母さんができることは、嬉しいけど、そしたらお母さんのこと忘れなきゃいけないのかなって思ってた」
でも。と朱里は続けた。
「お母さんのことが好きなままでも、新しいお義母さんのことも好きになれるってわかったから、だから、大丈夫」
そういって、微笑んだ。ああ。なんて、この子は強いんだろう。その僕よりも幼いながらももっている強さに、素直に感心した。
「あっ、でも私泣き虫だから、今度私が泣いちゃったら、優くんも頭撫でてくれる?」
「もちろん」
不安げに言われた言葉に笑う。この子に優しくしたいと思った。誰かに願われたからじゃなくて、僕自身が初めてそう思った女の子。その感情の名前を僕は、このときは、まだ知らなかったけれど、そう思ったことは確かだった。
「優に、会わせたい人がいるの」
そう、お母さんが言ったとき、ああ、と思った。お父さんが交通事故で亡くなってから、お母さんの笑顔は減った。そんなお母さんの笑顔が、最近、増えるようになった。だから、もしかしたら、そんな日が、僕の新たな『お義父さん』ができる日がやってくるのかもしれないとは思っていた。
人の心は移り変わる。相手がもうこの世にいないのなら、なおさら。お母さんを責めることはできない。だって、お母さんは僕のお母さんであるとしても、お母さん自身の人生を歩んでいることに変わりはない。だから、愛する人と一緒になりたいというのは、ごく自然な感情なのだと、頭では理解しながら、心のどこかで裏切られたような気がしていた。
複雑な感情を抱きながら、その新しいお義父さんとやらに会うことになった。優しくあれと望まれた自分は、お母さんを悲しませるような真似をするわけにはいかないので、いつもよりもはしゃいでみせた。
果たして、初めて出会ったお義父さんは、悪い人ではなかった。豪快に笑う人で、とにかく明るい人だった。まだ、心のどこかで認めることはできないけれど、お母さんが、好きになるのも頷ける。何回か、お義父さんに会った後、実はお義父さんにも子供がいるのだと聞いた。女の子だそうだ。
「優に、義妹ができるの。とても、可愛らしい子よ」
お母さんは、その子のことをそう評した。
その子との初めての顔合わせの日。僕は、その日を忘れることはないだろう。お母さんから名前は聞いていた。お義父さんの後ろに隠れるようにしているその子に優しく話しかける。
「僕の名前は、優。よろしくね、朱里ちゃん」
僕がそういって微笑むと、わかりやすく頬を染めた朱里を確かに可愛いな、とだけ思った。けれど、その印象はすぐに覆されることになる。
顔合わせが行われたのは、公園で。僕らは、二人で遊ぶことになった。一通り、遊具で遊び、今度は砂山を作ろう、と朱里がいった。
砂場は、お母さんたちから完全に隠れてはいないものの、滑り台などで微妙に隠れていていることと、遠いことから表情までは見えない場所にあった。
「あのね、優くん」
「どうしたの、朱里ちゃん」
大きな砂山を作り終わると、朱里はしゃがんでいる僕に耳打ちした。
「もう、大丈夫だよ」
「?」
何が大丈夫なんだろう。疑問に思っていると、朱里は、立ち上がって、僕の頭を撫でた。
「もう、お父さんたちから見えてないから、泣いても、大丈夫」
どうして。上手く隠していたつもりだった。新たな父だという人を心のどこかで認めることはできない思いを。実際に、お母さんにも気づかれなかったはずだ。お母さんは、僕がお義父さんによくなついていると喜んでいたから。それなのに、僕より幼い、この子に、どうして。
けれど、そう思うのに、頭を撫でられると勝手に涙は溢れてきた。
「大丈夫、大丈夫だよ」
認められない僕のことを赦すように、朱里が穏やかな声で僕を撫でる。その手は、僕が泣き止むまで、止まることはなかった。
「どうして、僕のこと……わかったの?」
僕が泣き止むと、お母さんたちに怪しまれないようにと再開した砂山作りを始めた朱里に尋ねる。
「私も、そうだったから。だから、優くんもそうかもしれないって、思ったの。あっ、でも、今はちゃんとお義母さんのことも好きだよ」
そういって、朱里はぶんぶんと首を振る。
「別に疑ってないよ」
というと、安心したように、朱里は笑った。
「あのね、新しいお義母さんができるって聞いて、嬉しいのと悲しいのとどっちもあって。新しいお義母さんができることは、嬉しいけど、そしたらお母さんのこと忘れなきゃいけないのかなって思ってた」
でも。と朱里は続けた。
「お母さんのことが好きなままでも、新しいお義母さんのことも好きになれるってわかったから、だから、大丈夫」
そういって、微笑んだ。ああ。なんて、この子は強いんだろう。その僕よりも幼いながらももっている強さに、素直に感心した。
「あっ、でも私泣き虫だから、今度私が泣いちゃったら、優くんも頭撫でてくれる?」
「もちろん」
不安げに言われた言葉に笑う。この子に優しくしたいと思った。誰かに願われたからじゃなくて、僕自身が初めてそう思った女の子。その感情の名前を僕は、このときは、まだ知らなかったけれど、そう思ったことは確かだった。
1
あなたにおすすめの小説
姉の厄介さは叔母譲りでしたが、嘘のようにあっさりと私の人生からいなくなりました
珠宮さくら
恋愛
イヴォンヌ・ロカンクールは、自分宛てに届いたものを勝手に開けてしまう姉に悩まされていた。
それも、イヴォンヌの婚約者からの贈り物で、それを阻止しようとする使用人たちが悪戦苦闘しているのを心配して、諦めるしかなくなっていた。
それが日常となってしまい、イヴォンヌの心が疲弊していく一方となっていたところで、そこから目まぐるしく変化していくとは思いもしなかった。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》
【完結】第一王子と侍従令嬢の将来の夢
かずえ
恋愛
第一王子は、常に毒を盛られ、すっかり生きることに疲れていた。子爵令嬢は目が悪く、日常生活にも支障が出るほどであったが、育児放棄され、とにかく日々を送ることに必死だった。
12歳で出会った二人は、大人になることを目標に、協力しあう契約を交わす。
ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~
浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。
「これってゲームの強制力?!」
周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。
※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。
【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─
江崎美彩
恋愛
侯爵家の令嬢エレナ・トワインは王太子殿下の婚約者……のはずなのに、正式に発表されないまま月日が過ぎている。
王太子殿下も通う王立学園に入学して数日たったある日、階段から転げ落ちたエレナは、オタク女子高生だった恵玲奈の記憶を思い出す。
『えっ? もしかしてわたし転生してる?』
でも肝心の転生先の作品もヒロインなのか悪役なのかモブなのかもわからない。エレナの記憶も恵玲奈の記憶も曖昧で、エレナの王太子殿下に対する一方的な恋心だけしか手がかりがない。
王太子殿下の発表されていない婚約者って、やっぱり悪役令嬢だから殿下の婚約者として正式に発表されてないの? このまま婚約者の座に固執して、断罪されたりしたらどうしよう!
『婚約者から妹としか思われてないと思い込んで悪役令嬢になる前に身をひこうとしている侯爵令嬢(転生者)』と『婚約者から兄としか思われていないと思い込んで自制している王太子様』の勘違いからすれ違いしたり、謀略に巻き込まれてすれ違いしたりする物語です。
長編ですが、一話一話はさっくり読めるように短めです。
『小説家になろう』『カクヨム』にも投稿しています。
悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。
しぎ
恋愛
カーティア・メラーニはある日、自分が悪役令嬢であることに気づいた。
断罪イベントまではあと数ヶ月、ヒロインへのざまぁ返しを計画…せずに、カーティアは大好きな読書を楽しみながら、修道院のパンフレットを取り寄せるのだった。悪役令嬢としての日々をカーティアがのんびり過ごしていると、不仲だったはずの婚約者との距離がだんだんおかしくなってきて…。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる