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義姉として

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「え?」
「……義姉兼、親友兼、婚約者になるってことです!」
「いやいやいやいや、え?」
「ですから——わたしがアイゼン殿下を溺愛します! たとえば、そうですね……」
 止まっていた手を再び動かし、アイゼン殿下の頭を撫でる。

「やはり、家族からの愛、というものは大きいですからね。今日のわたしは義姉として、アイゼン殿下を溺愛します!」
 
 家族からの愛はあまりわたしも得られなかったけれど。本や何かでこういうものだと、読んだことがあるから、それでいこう!

 ……というか、わたしったら、こんなに心の声がうるさいタイプだったのね。知らなかったわ。

 新たな自分を新発見しつつ、アイゼン殿下から体を離す。そして、ソファに座った。
「アイゼン殿下、さぁ、義姉であるわたしの膝に頭を乗せてみてください」
「え? ……え?」

 アイゼン殿下は、目を白黒させながら——そんな姿も可愛らしい——わたしの言う通りに、ソファに横たわりわたしの膝に頭を乗せた。
 
 ふふ、アイゼン殿下は素直なのね。
 またひとつ、アイゼン殿下のことを知ることができたわ!
「アイゼン殿下、今までよく頑張りましたね」
 アイゼン殿下のさらさらな長い前髪が目に入らないようによけて、まっすぐ瞳を見る。
 本当にとっても綺麗な瞳だわ。

「僕が、頑張った……?」
「はい。あなたは、今日までよく頑張りました。まずは、今日まで命を繋げたこと」
「そんなのただ、生きてるだけ——」
 首を振る。

「生きることって、とても難しいことだとわたしは思います」
 特に、見た目だけが原因で周囲に嫌われているアイゼン殿下ならなおさら。

「だから、生きててくれて生まれてきてくれて、ありがとうございます、アイゼン殿下。よく、頑張りましたね」
 いい子、いい子、といいながら、その頭を優しく撫でる。
「僕、生まれてきてよかったの……?」

 戸惑った顔で、ぽつりとこぼされた言葉は、きっと、アイゼン殿下の心からの本音だった。
「はい。あなたに出会えてラノーシャは嬉しいです」
「……そっかぁ」

 アイゼン殿下が腕で顔を隠した。鼻をすする音も聞こえる。
 わたしはそのことに触れずに、アイゼン殿下の頭を撫で続ける。
 さらさらとした黒髪は、とても触り心地が良い。
「ラノーシャ嬢……」
「いまは、あなたの義姉ですよ」
 わたしには弟、マルクスがいるから、アイゼン殿下だけのではないけれど。
「じゃあ、ラノーシャ姉様……ありがとう」

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