上 下
4 / 7
妖の花嫁

3

しおりを挟む
旦那様が、妖の王? それでは、妃殿下というのは、文字通り、王の妻ということ?

 でも。妖の王は最も力ある妖がなるのだという。だから、私はその力の一部とするため、喰らわれるのか。

 そんなことを考えていた、私に旦那様はひとつ笑みをこぼして頬を撫でた。

 「美冬、あなたには俺の妻になってもらう。そして、いつか俺の子を産んでくれ」
つまりは、子を産むまでは生かされるけれど。子を産んだら用済みで、喰らわれるのかしら。

 「わかりました」
なんにせよ。私は箏蔵に与えられたものの恩を返さなければならない。

 頷くと、旦那様は、私を抱き抱えた。
「雅楽様!?」
慌ててしがみつく。美しい旦那様は力持ちなのか、それとも妖にとってはこんなこと朝飯前なのか。全くふらつくことなく、屋敷へと進む。


 屋敷の中は、外観から想像されるよりもずっと広く見える。もしかして、妖術でも使われているのかしら。

 屋敷の中にはいっても、旦那様の足は止まらない。いったいどこに向かっているのだろう。


 屋敷の最上階にたどり着いた。部屋の窓は開け放たれており、月がよく見える。

 その美しさに息を飲んでいると。

 旦那様が私を布団の上に寝かせた。
「!」
こ、これってそういうことかしら。そうよね、私は所詮子供を産むまでの道具──。

 「ずっと、夢を、見ていた」
旦那様が私に覆い被さるようにして、手を重ねる。
「美冬、あなたの夢だ」

 私の、夢?

 「夢の中で、あなたはいつもただ一人の男を見つめていた」
「!」
それって、もしかして。もしかしなくても。亮平さんのこと。どうしよう。まだそのときは結婚してなかったとはいえ、旦那様という妖がありながら別の人に恋心をもっているなんて、浮気、よね。

 今すぐ怒りで喰らわれたって、おかしくない。

 けれど、旦那様は相変わらず穏やかな瞳をしていた。そして、その瞳のまま顔を近づける。
「夢を見ながら、何度も思った。どうして、俺はあなたのそばにいけないのかと」
妖は本来なら世界の行き来は自由にできるけれど。盟約により、現実世界にいけるのは、花嫁契約を結ぶときと、花嫁を連れ去るときだけだ。

 「あなたを見ない男のことなんか、忘れてしまえばいいのに。俺なら、あなたを。あなただけを愛するのに。ずっと、そう思っていた。だが、」

 旦那様の指先が優しく頬に触れた。
「あなたが、あの男のことをまだ恋しく思っているのは知ってる。あなたの心が俺に追い付くまで待つから。こうして、そばにいることを許して欲しい」
しおりを挟む

処理中です...