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血よりも濃い絆
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紅茶を一口口に含み、優雅な仕草で、カップをソーサーに置いたあと、アマーリエは目を輝かせた。
「それで、アリサさんの本命はどちらの殿下なの!?」
「本命って……」
現在私は、アマーリエ伯爵令嬢のお家にお邪魔していた。彼女からお茶会の誘いがあったのだ。
アマーリエ・フォルトイン伯爵令嬢。フォルトイン伯爵家の一人娘であり、私の友人──だった少女だ。最も、私が王太子暗殺未遂の疑いをかけられたときに、その友情は露と消えたけれど。
実のところ、彼女の誘いに乗ることは、気が進まなかったのだけれど、急に交流がなくなれば、現時点で何もしていない彼女には怪訝に映るだろう。
そう思い、憂鬱ながら、このお茶会に参加することにしたのだ。
しかし、話題もやはり憂鬱なものだった。私より、2つ年上の彼女は噂好きだった。
「アリサさんは、ご存じなかったかもしれないけれど、あのガーデンパーティで、ルーカス殿下の婚約者を決めるともっぱらの噂だったのよ!」
「……そうだったのですね」
知ってはいたけれど、薮蛇にならないように曖昧な返事を返す。
「そのルーカス殿下は誰とも踊らず、貴女といるんだもの。しかもそれだけでなく、マリウス殿下まで、貴女といるんだもの。社交界では、どちらの殿下が貴女の心を射止めるかでもちきりよ!」
「……はぁ、そうなのですか」
マリウス殿下からは、あのガーデンパーティ以来、今日はこんなことをした、という日常報告のような微笑ましい手紙がよく届いている。
「やる気のない返事ね。羨ましい話だわ。私だったら、絶対にルーカス殿下を選ぶわ! あの青の瞳に見つめられたら──」
知っている。あの澄んだ青の瞳に映るのがどれほどの幸福なのか。そして、低すぎない穏やかな声で私を呼ぶのだ。婚約者にだけ許された距離で。
「──で……な……といったら──って、聞いていらっしゃる?」
「ごめんなさい。少しぼうっとしてました」
素直に謝ると、彼女は華やかな顔で仕方ないわね、と笑った。
「そういえば、ルーカス殿下といえば今年から魔法学園に入られるのよね」
魔法学園。貴族なら誰でも持っている魔力を魔法という力に昇華させることを目的につくられた学園だ。学園を卒業すれば、元々持っている貴族籍のほかに、魔法師という位が与えられる。
「しかも、魔獣科に入られるのでしょう」
何かあったら大変だわ! とアマーリエさんは身体を震わせた。
魔獣科はそのなかでも、魔獣を狩るような攻撃的な魔法を扱う学科だ。実習のなかで、本当に魔獣を狩ることもある。卒業すれば、魔法師だけでなく、魔法騎士という位が与えられる。
「でも、魔獣科でできた繋がりは──血よりも濃いとも言いますもの。殿下の腹心を探すには、ぴったりの場所でしょうね」
実際に魔獣を狩るのだ。当然命に関わる。だからこそ、そこでできた絆は、血よりも濃いと──。血よりも濃い? だったら──。
「アマーリエさん!」
「ど、どうなさったの? 急に大きな声を出したりして」
「私、急用を思い出しました。申し訳ありませんが、おいとまさせて頂きますね」
「え、ええ。また、いらしてね」
──私は今度こそ、幸せになりたい。
そして、もうひとつ、私のほしいもの。
──絶対に私を裏切らないひと。
それが、手にはいるかもしれない。
そう思うと、どきどきしながら、馬車を家へと走らせた。
「それで、アリサさんの本命はどちらの殿下なの!?」
「本命って……」
現在私は、アマーリエ伯爵令嬢のお家にお邪魔していた。彼女からお茶会の誘いがあったのだ。
アマーリエ・フォルトイン伯爵令嬢。フォルトイン伯爵家の一人娘であり、私の友人──だった少女だ。最も、私が王太子暗殺未遂の疑いをかけられたときに、その友情は露と消えたけれど。
実のところ、彼女の誘いに乗ることは、気が進まなかったのだけれど、急に交流がなくなれば、現時点で何もしていない彼女には怪訝に映るだろう。
そう思い、憂鬱ながら、このお茶会に参加することにしたのだ。
しかし、話題もやはり憂鬱なものだった。私より、2つ年上の彼女は噂好きだった。
「アリサさんは、ご存じなかったかもしれないけれど、あのガーデンパーティで、ルーカス殿下の婚約者を決めるともっぱらの噂だったのよ!」
「……そうだったのですね」
知ってはいたけれど、薮蛇にならないように曖昧な返事を返す。
「そのルーカス殿下は誰とも踊らず、貴女といるんだもの。しかもそれだけでなく、マリウス殿下まで、貴女といるんだもの。社交界では、どちらの殿下が貴女の心を射止めるかでもちきりよ!」
「……はぁ、そうなのですか」
マリウス殿下からは、あのガーデンパーティ以来、今日はこんなことをした、という日常報告のような微笑ましい手紙がよく届いている。
「やる気のない返事ね。羨ましい話だわ。私だったら、絶対にルーカス殿下を選ぶわ! あの青の瞳に見つめられたら──」
知っている。あの澄んだ青の瞳に映るのがどれほどの幸福なのか。そして、低すぎない穏やかな声で私を呼ぶのだ。婚約者にだけ許された距離で。
「──で……な……といったら──って、聞いていらっしゃる?」
「ごめんなさい。少しぼうっとしてました」
素直に謝ると、彼女は華やかな顔で仕方ないわね、と笑った。
「そういえば、ルーカス殿下といえば今年から魔法学園に入られるのよね」
魔法学園。貴族なら誰でも持っている魔力を魔法という力に昇華させることを目的につくられた学園だ。学園を卒業すれば、元々持っている貴族籍のほかに、魔法師という位が与えられる。
「しかも、魔獣科に入られるのでしょう」
何かあったら大変だわ! とアマーリエさんは身体を震わせた。
魔獣科はそのなかでも、魔獣を狩るような攻撃的な魔法を扱う学科だ。実習のなかで、本当に魔獣を狩ることもある。卒業すれば、魔法師だけでなく、魔法騎士という位が与えられる。
「でも、魔獣科でできた繋がりは──血よりも濃いとも言いますもの。殿下の腹心を探すには、ぴったりの場所でしょうね」
実際に魔獣を狩るのだ。当然命に関わる。だからこそ、そこでできた絆は、血よりも濃いと──。血よりも濃い? だったら──。
「アマーリエさん!」
「ど、どうなさったの? 急に大きな声を出したりして」
「私、急用を思い出しました。申し訳ありませんが、おいとまさせて頂きますね」
「え、ええ。また、いらしてね」
──私は今度こそ、幸せになりたい。
そして、もうひとつ、私のほしいもの。
──絶対に私を裏切らないひと。
それが、手にはいるかもしれない。
そう思うと、どきどきしながら、馬車を家へと走らせた。
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