6 / 23
血よりも濃い絆
しおりを挟む
紅茶を一口口に含み、優雅な仕草で、カップをソーサーに置いたあと、アマーリエは目を輝かせた。
「それで、アリサさんの本命はどちらの殿下なの!?」
「本命って……」
現在私は、アマーリエ伯爵令嬢のお家にお邪魔していた。彼女からお茶会の誘いがあったのだ。
アマーリエ・フォルトイン伯爵令嬢。フォルトイン伯爵家の一人娘であり、私の友人──だった少女だ。最も、私が王太子暗殺未遂の疑いをかけられたときに、その友情は露と消えたけれど。
実のところ、彼女の誘いに乗ることは、気が進まなかったのだけれど、急に交流がなくなれば、現時点で何もしていない彼女には怪訝に映るだろう。
そう思い、憂鬱ながら、このお茶会に参加することにしたのだ。
しかし、話題もやはり憂鬱なものだった。私より、2つ年上の彼女は噂好きだった。
「アリサさんは、ご存じなかったかもしれないけれど、あのガーデンパーティで、ルーカス殿下の婚約者を決めるともっぱらの噂だったのよ!」
「……そうだったのですね」
知ってはいたけれど、薮蛇にならないように曖昧な返事を返す。
「そのルーカス殿下は誰とも踊らず、貴女といるんだもの。しかもそれだけでなく、マリウス殿下まで、貴女といるんだもの。社交界では、どちらの殿下が貴女の心を射止めるかでもちきりよ!」
「……はぁ、そうなのですか」
マリウス殿下からは、あのガーデンパーティ以来、今日はこんなことをした、という日常報告のような微笑ましい手紙がよく届いている。
「やる気のない返事ね。羨ましい話だわ。私だったら、絶対にルーカス殿下を選ぶわ! あの青の瞳に見つめられたら──」
知っている。あの澄んだ青の瞳に映るのがどれほどの幸福なのか。そして、低すぎない穏やかな声で私を呼ぶのだ。婚約者にだけ許された距離で。
「──で……な……といったら──って、聞いていらっしゃる?」
「ごめんなさい。少しぼうっとしてました」
素直に謝ると、彼女は華やかな顔で仕方ないわね、と笑った。
「そういえば、ルーカス殿下といえば今年から魔法学園に入られるのよね」
魔法学園。貴族なら誰でも持っている魔力を魔法という力に昇華させることを目的につくられた学園だ。学園を卒業すれば、元々持っている貴族籍のほかに、魔法師という位が与えられる。
「しかも、魔獣科に入られるのでしょう」
何かあったら大変だわ! とアマーリエさんは身体を震わせた。
魔獣科はそのなかでも、魔獣を狩るような攻撃的な魔法を扱う学科だ。実習のなかで、本当に魔獣を狩ることもある。卒業すれば、魔法師だけでなく、魔法騎士という位が与えられる。
「でも、魔獣科でできた繋がりは──血よりも濃いとも言いますもの。殿下の腹心を探すには、ぴったりの場所でしょうね」
実際に魔獣を狩るのだ。当然命に関わる。だからこそ、そこでできた絆は、血よりも濃いと──。血よりも濃い? だったら──。
「アマーリエさん!」
「ど、どうなさったの? 急に大きな声を出したりして」
「私、急用を思い出しました。申し訳ありませんが、おいとまさせて頂きますね」
「え、ええ。また、いらしてね」
──私は今度こそ、幸せになりたい。
そして、もうひとつ、私のほしいもの。
──絶対に私を裏切らないひと。
それが、手にはいるかもしれない。
そう思うと、どきどきしながら、馬車を家へと走らせた。
「それで、アリサさんの本命はどちらの殿下なの!?」
「本命って……」
現在私は、アマーリエ伯爵令嬢のお家にお邪魔していた。彼女からお茶会の誘いがあったのだ。
アマーリエ・フォルトイン伯爵令嬢。フォルトイン伯爵家の一人娘であり、私の友人──だった少女だ。最も、私が王太子暗殺未遂の疑いをかけられたときに、その友情は露と消えたけれど。
実のところ、彼女の誘いに乗ることは、気が進まなかったのだけれど、急に交流がなくなれば、現時点で何もしていない彼女には怪訝に映るだろう。
そう思い、憂鬱ながら、このお茶会に参加することにしたのだ。
しかし、話題もやはり憂鬱なものだった。私より、2つ年上の彼女は噂好きだった。
「アリサさんは、ご存じなかったかもしれないけれど、あのガーデンパーティで、ルーカス殿下の婚約者を決めるともっぱらの噂だったのよ!」
「……そうだったのですね」
知ってはいたけれど、薮蛇にならないように曖昧な返事を返す。
「そのルーカス殿下は誰とも踊らず、貴女といるんだもの。しかもそれだけでなく、マリウス殿下まで、貴女といるんだもの。社交界では、どちらの殿下が貴女の心を射止めるかでもちきりよ!」
「……はぁ、そうなのですか」
マリウス殿下からは、あのガーデンパーティ以来、今日はこんなことをした、という日常報告のような微笑ましい手紙がよく届いている。
「やる気のない返事ね。羨ましい話だわ。私だったら、絶対にルーカス殿下を選ぶわ! あの青の瞳に見つめられたら──」
知っている。あの澄んだ青の瞳に映るのがどれほどの幸福なのか。そして、低すぎない穏やかな声で私を呼ぶのだ。婚約者にだけ許された距離で。
「──で……な……といったら──って、聞いていらっしゃる?」
「ごめんなさい。少しぼうっとしてました」
素直に謝ると、彼女は華やかな顔で仕方ないわね、と笑った。
「そういえば、ルーカス殿下といえば今年から魔法学園に入られるのよね」
魔法学園。貴族なら誰でも持っている魔力を魔法という力に昇華させることを目的につくられた学園だ。学園を卒業すれば、元々持っている貴族籍のほかに、魔法師という位が与えられる。
「しかも、魔獣科に入られるのでしょう」
何かあったら大変だわ! とアマーリエさんは身体を震わせた。
魔獣科はそのなかでも、魔獣を狩るような攻撃的な魔法を扱う学科だ。実習のなかで、本当に魔獣を狩ることもある。卒業すれば、魔法師だけでなく、魔法騎士という位が与えられる。
「でも、魔獣科でできた繋がりは──血よりも濃いとも言いますもの。殿下の腹心を探すには、ぴったりの場所でしょうね」
実際に魔獣を狩るのだ。当然命に関わる。だからこそ、そこでできた絆は、血よりも濃いと──。血よりも濃い? だったら──。
「アマーリエさん!」
「ど、どうなさったの? 急に大きな声を出したりして」
「私、急用を思い出しました。申し訳ありませんが、おいとまさせて頂きますね」
「え、ええ。また、いらしてね」
──私は今度こそ、幸せになりたい。
そして、もうひとつ、私のほしいもの。
──絶対に私を裏切らないひと。
それが、手にはいるかもしれない。
そう思うと、どきどきしながら、馬車を家へと走らせた。
13
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。
しぎ
恋愛
カーティア・メラーニはある日、自分が悪役令嬢であることに気づいた。
断罪イベントまではあと数ヶ月、ヒロインへのざまぁ返しを計画…せずに、カーティアは大好きな読書を楽しみながら、修道院のパンフレットを取り寄せるのだった。悪役令嬢としての日々をカーティアがのんびり過ごしていると、不仲だったはずの婚約者との距離がだんだんおかしくなってきて…。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
離婚した彼女は死ぬことにした
はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
婚約破棄は踊り続ける
お好み焼き
恋愛
聖女が現れたことによりルベデルカ公爵令嬢はルーベルバッハ王太子殿下との婚約を白紙にされた。だがその半年後、ルーベルバッハが訪れてきてこう言った。
「聖女は王太子妃じゃなく神の花嫁となる道を選んだよ。頼むから結婚しておくれよ」
もう我慢したくないので自由に生きます~一夫多妻の救済策~
岡暁舟
恋愛
第一王子ヘンデルの妻の一人である、かつての侯爵令嬢マリアは、自分がもはや好かれていないことを悟った。
「これからは自由に生きます」
そう言い張るマリアに対して、ヘンデルは、
「勝手にしろ」
と突き放した。
最近のよくある乙女ゲームの結末
叶 望
恋愛
なぜか行うことすべてが裏目に出てしまい呪われているのではないかと王妃に相談する。実はこの世界は乙女ゲームの世界だが、ヒロイン以外はその事を知らない。
※小説家になろうにも投稿しています
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる