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二度目の生
7 望むこと
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ユーリンは、再び私の頭に布を被せると、(おそらく)執務室から出て、私を引きずった。
連れられたのは、豪華な客室だった。
「巫女殿には、この部屋を使っていただく」
聖女として扱われた前いた人間の国──名前をアストリアという──の城の客室より、豪華かもしれない。
客室につくと、私の髪を覆っていた布を外し、ユーリンはすまなさそうに言った。
「申し訳無いが、戦争が落ち着くまでは巫女殿のことを伏せることになるだろう。その髪も客室から外に出るときは、布で隠してくれ。世話係はもちろんつけるが、それも限られた者のみだ。戦争が終われば、自由にできるのだが」
……? 聖女が魔物側に寝返ったとして、人間側のやる気を削ぐことはしないのだろうか?
私の疑問が顔に出ていたのか、ユーリンは苦笑した。
「そういえば、巫女殿は利用価値という言葉を連呼していたな。俺たちが貴方を利用することはない。いや、兄上──それに、俺たちを好きになってほしいとは思うが……、心のあり方も貴方の自由だ」
そういって、ユーリンは世話係を連れてくるといって、去っていった。
「貴方の自由、か」
人間の国アストリアでは聞かなかった言葉だ。操り人形になりたくなくて、その結果殺されたくなくて、魔物の国クリスタリアに来たけれど、そんな言葉がもらえるとは思っていなかった。
そのことになぜか、少しだけ泣きそうになって目元を擦る。
そういえば、戦争が終われば、とユーリンは言った。現在の戦況は魔物側が優勢だが、一年後には『聖女』が現れる。『聖女』は圧倒的な力で、戦争を人間側の勝利へと導いていった。
私がこのまま、魔物側に残るつもりなら、その存在を知らせておいた方がいいだろう。でも。
今生では、僅かな時間とはいえ、前生では、一年間アストリアにいたのだ。それに、アストリアにはガレンもいる。最終的には殺されそうになったとはいえ、愛着のある国だ。その国を裏切るようなことをいっていいのだろうか。
私の望みは自由に生きることであって、誰かを傷つけることではない。
私が悩んでいると、控えめに扉がノックされる。ユーリンが私の世話係を連れて戻ってきたのだろう。
慌てて返事をして、招き入れる。
「貴方の世話を担うサーラだ」
サーラは、茶色い髪に翠の瞳をしていた。微笑がとても美しい。
「初めまして、巫女様。サーラと申します」
「初めまして。美香と言います」
「巫女様のことは伏せるように仰せつかっております。失礼ですが、お名前でお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「はい」
私が頷くと、サーラは嬉しそうに微笑んだあと、私の名前を呼んだ。ただ、響きが、美香ではなくマイカになってしまっている。何度も繰り返したあとにようやく、美香に近いミカ、の音になった。
「これからよろしくお願いいたします、ミカ様」
「こちらこそお願いします」
サーラさんと呼ぶと、サーラでいいと言われたので、今度からサーラと呼ぶことにする。
「挨拶は終わったようだな。それでは、これで俺は失礼する」
ユーリンは、そういって去っていった。
──さて、何をしよう。
連れられたのは、豪華な客室だった。
「巫女殿には、この部屋を使っていただく」
聖女として扱われた前いた人間の国──名前をアストリアという──の城の客室より、豪華かもしれない。
客室につくと、私の髪を覆っていた布を外し、ユーリンはすまなさそうに言った。
「申し訳無いが、戦争が落ち着くまでは巫女殿のことを伏せることになるだろう。その髪も客室から外に出るときは、布で隠してくれ。世話係はもちろんつけるが、それも限られた者のみだ。戦争が終われば、自由にできるのだが」
……? 聖女が魔物側に寝返ったとして、人間側のやる気を削ぐことはしないのだろうか?
私の疑問が顔に出ていたのか、ユーリンは苦笑した。
「そういえば、巫女殿は利用価値という言葉を連呼していたな。俺たちが貴方を利用することはない。いや、兄上──それに、俺たちを好きになってほしいとは思うが……、心のあり方も貴方の自由だ」
そういって、ユーリンは世話係を連れてくるといって、去っていった。
「貴方の自由、か」
人間の国アストリアでは聞かなかった言葉だ。操り人形になりたくなくて、その結果殺されたくなくて、魔物の国クリスタリアに来たけれど、そんな言葉がもらえるとは思っていなかった。
そのことになぜか、少しだけ泣きそうになって目元を擦る。
そういえば、戦争が終われば、とユーリンは言った。現在の戦況は魔物側が優勢だが、一年後には『聖女』が現れる。『聖女』は圧倒的な力で、戦争を人間側の勝利へと導いていった。
私がこのまま、魔物側に残るつもりなら、その存在を知らせておいた方がいいだろう。でも。
今生では、僅かな時間とはいえ、前生では、一年間アストリアにいたのだ。それに、アストリアにはガレンもいる。最終的には殺されそうになったとはいえ、愛着のある国だ。その国を裏切るようなことをいっていいのだろうか。
私の望みは自由に生きることであって、誰かを傷つけることではない。
私が悩んでいると、控えめに扉がノックされる。ユーリンが私の世話係を連れて戻ってきたのだろう。
慌てて返事をして、招き入れる。
「貴方の世話を担うサーラだ」
サーラは、茶色い髪に翠の瞳をしていた。微笑がとても美しい。
「初めまして、巫女様。サーラと申します」
「初めまして。美香と言います」
「巫女様のことは伏せるように仰せつかっております。失礼ですが、お名前でお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「はい」
私が頷くと、サーラは嬉しそうに微笑んだあと、私の名前を呼んだ。ただ、響きが、美香ではなくマイカになってしまっている。何度も繰り返したあとにようやく、美香に近いミカ、の音になった。
「これからよろしくお願いいたします、ミカ様」
「こちらこそお願いします」
サーラさんと呼ぶと、サーラでいいと言われたので、今度からサーラと呼ぶことにする。
「挨拶は終わったようだな。それでは、これで俺は失礼する」
ユーリンは、そういって去っていった。
──さて、何をしよう。
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