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悪魔のいう通り寮に戻って、悪魔に今日の収穫である魔獣の心臓一つを渡す。
「食べないの?」
 悪魔は、私が渡した心臓をじっと見つめていた。
『……ソフィア』
 そして、心臓を持っていないもう片方の手で私の髪を触る。
「なぁに?」

 悪魔の様子は、最近変だ。
 まるで、私を心底心配しているようなことをいったり、心臓集めをやめるようにいったり。
 くるくると指に絡ませては、こぼれ落ちていく私の髪を、悪魔はどこまでも慈しむような瞳で見つめていた。
「あなた、本当に私の髪が好きね」
『……まぁな』
「ねぇ、悪魔」
『なんだ?』
 悪魔が髪を触るのをやめた瞬間、私は悪魔の手から心臓を奪い取り、無理やり心臓をのみ込ませた。

『……くっ、ずいぶんと手荒な真似をする』
「だって、あなたが食べようとしないから」

 じとりと私をにらんだ悪魔に、にっこりと微笑む。これでは、どちらが悪魔かわからないわ。

 自分で自分に苦笑しつつふと、思ったことを尋ねる。

「悪魔は、あんまり自分のこと話したがらないわよね」
『まあ、そうだな』
「それでね、私、気になるんだけど――」

 悪魔の深紅の瞳を見つめる。
「悪魔は、恋ってしたことある?」
『……っ!』

 悪魔の瞳が大きく揺れた。
 聞いちゃいけなかったことかな。でも……。
「ほら、私は心臓集めをやめないでしょう? そしたら、最終的には私はあなたの贄になる。だから……」
『――そのときのために、我の好みでも把握するつもりか?』
「そう、その通り! さすが、悪魔ね」

 だって、私は悪魔の退屈を殺し続けなきゃいけない。
 そうじゃないと、悪魔は加護の対価を他で求めてしまう。

『……お前が気にする必要はない』
「え? でも……」
 悪魔の恋話、聞いてみたかったんだけどな。
『お前は……』
 悪魔はそこで言葉を止め、皮肉げな表情を浮かべた。
『ソフィア、お前はその存在だけで十分だ』
「それって、私が面白おかしい人間だってこと?」
『そうだ』
 えっ、ええー、ショックだわ。
 私はそんな奇天烈な行動や思考をしていないと思うんだけど。

 落ち込んだ私をフォローすることなく悪魔は、笑うと消えた。

 悪魔め。そう心のなかで毒づいたけれど、悪魔は悪魔だから事実をいっただけになってしまった。

 ……でも、上手くはぐらかされてしまった。
 悪魔の成し遂げられなかったこと、と恋って関係あるのかな。

 気にならないといったら嘘になるけど、悪魔は私のままでいいっていってくれたんだし、まぁ、いっか。

 リッカルド様が、生きていてくれる世界。
 そのためだったら、なんでもできる。

 私が突き放したから、もう、リッカルド様が私に関わってくることはないと思うけれど。
 自分勝手に痛む胸を押さえて息を吐く。

 明日はいったい何個心臓を集められるかな……。
 どうか、はやく心臓を三百個集め終わり、二度とあの笑みが失われることのない世界になりますように。

 そう願って、ベッドに横たわり目をとじた。
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