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慈善活動

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 聞き間違えるはずのない声。
 でも、なぜ聞こえるのかわからない声。
 私は、頭の中に大量の?マークを浮かべながら、ゆっくりと、時間かけて、振り向く。
「やぁ」

 目の前にいたのは、やはり思い描いた通りの人で。
 私は、頭上を見上げた。
 まだ、太陽は高い位置にある。そして今日は魔獣騎士科で、森にいく予定はなかった。つまり、まだ学園で授業中であるはずの時間、リッカルド様は森にいることになる。

「…………こんにちは」
 無難だ。無難すぎる。私はなんと答えたらいいのかわからず、挨拶するだけにとどめた。

「……では」

 悪魔は人に見られるようなへまはしてないとは思うけれど。それでも、嫌な汗が流れるのをとめられないまま、立ち去ろうとする。

「まぁ待ちなよ。サボり同士、仲良くしよう」
「――!」

 サボり。
 間違いなくそうなのだけれど、リッカルド様には似合わない言葉だわ。

「それで? 学園をさぼってまで、どうしてソフィア嬢は、森にいるのかな?」
 リッカルド様は、木に背を預けるようにして、私を見た。

 なぜかはしらないけど、サボりはあなたもでしょ!

 そういいたい気持ちを抑えて微笑を浮かべる。
「……私がどこにいようと、リッカルド様には、関係のないことです」

 それだけ言って、リッカルド様とは違う方向へ歩きだす。
 惑わされちゃいけない。
 気にしてくれて嬉しいなんて思っちゃいけない。
 私は、この世界を――。
「そうだね……関係ないよね」

 諦めたように細く長い息を吐きだした、リッカルド様の姿が一瞬誰かと重なる。
 けれど、それはリッカルド様の次の言葉に霧散した。
「僕には関係ないんだ」

 そうよ。関係ないわ。

「それでも、僕は関係ありたい。僕にとって、……君は」

 その次の言葉を聞きたいと思ってしまう愚かな私と、聞く必要はないという理性の私。

 結局、前者が勝って、立ち止まる。
 強い意思で煌めく黒の瞳は、泣きそうになるほど、私が恋した瞳にそっくりだった。

「ほっとけないんだ」

 ……ああ。
 私は両手をぎゅっと握りしめて、リッカルド様に向き合った。
「お優しいことですね。公爵子息様は」

 わざと、リッカルド様を傷つけるような言葉を選ぶ。

「しかし、私は、しがない伯爵家の末娘です。公爵子息様の慈善活動に、お付き合いするほど、暇ではありません。だから……」

 苦しい。
 思ってないことを口にだすのが、こんなに苦しいとは思わなかった。

 言葉につまらないように、すぅ、はぁ、と深呼吸をする。
「だから……」

 慈善活動がしたいなら、他をあたってほしい。

 そう続ける前に、距離をいっきにつめられた。
「悪いけど、あいにく、運命と同じくらい、慈善活動には興味がないんだ」
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