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その童貞は返却不可につき
第1話 side.八重
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ガチャガチャと乱暴に鍵を回して玄関の扉を開ける。一人暮らしのしんとした部屋に帰宅した八重仁基はコットン地のトートバッグをソファに投げ置き、テーブルで充電していたノートパソコンを抱えて寝室に向かった。
時刻は午後九時を少し回っていた。本来ならバイトは八時で上がれるはずなのに、店長の古馴染みらしい中年男性が延々と居座り話し続けたせいでこんな時間まで店じまいが出来ずにいた。
音楽仲間の伝手で始めた楽器屋のバイトはそれなりに気楽だが、仲間意識や横の繋がりが強すぎるのもどうかと思う。残業代は出すと言われたし、中年男性からは缶コーヒーを奢られたので大きく文句は言えないけれども。
(飯どうしよう、面倒だな……)
寝室のセミダブルサイズのベッドにポンとノートパソコンを弾ませ、自らもダイブしようとしてはたと止まる。八重に残業を強いた中年男性が煙草を吸っていたことを思い出したからだ。
脱ぎ捨てたままにしてあったスウェットに手早く着替えて今度こそベッドに身を投げる。雑に外した眼鏡を適当に置き、枕に顔を埋めて大きな深呼吸をひとつした。
「あー……澪の匂い……」
数日前、思い掛けずに羽島澪がこの部屋に泊まっていった。八重と二度目のセックスをした後に。
事後の彼女がシャワーを浴びるまでの間しか彼女自身の匂いは触れていないのだから、数日も経てば残り香などないに等しい。
しかし八重には甘い香りが漂ってくるように感じられてならない。
『八重くん、シャワー借りていい?』
全裸でうとうとしかけていた澪がとろんとした目でそんな風に問い掛けてきた。バイト終わりで飲み会に参加し、八重と抱き合ったことで更に汗をかいてしまったのでさっぱりしてから眠りたいらしい。
もちろん承諾した。着替えも借りたいと言うのでなるべく新しめのスウェットの上下をバスタオルと共に渡すと『ありがとう』と小さく笑う。
八重から見た羽島澪という女性は掴み所のない女だった。仲間内の飲み会や遊びの場には比較的顔を出しているが大騒ぎするタイプではなく静かに状況を観察している印象を受けた。
だからと言って大人しいとか暗いわけではなく、笑い話に浮かべる笑顔は可愛いし、友人に向けて綻ばせた表情はめちゃくちゃ可愛い。ついでに言うと飲み会の席で手際よく使用済みの食器を寄せている姿もせっせと食事している姿も大層可愛かった。
そんな笑顔を自分一人に向けられれば心が高鳴っても仕方ないものだが、更に八重を昂らせたのはシャワーを終えた澪の姿だった。痩せ型の八重のスウェットでも彼女には大きかったらしく、手足の先をだぼつかせながらこんなことを言い出した。
『下着の替えがないから手洗いして脱衣所に干させてもらったんだけど大丈夫だった?』
『え、今ノーパン?』
『……食いつくとこ、そこ?』
やや冷めた目が素っ裸のままベッドで感慨に耽っていた八重に注がれる。こんな顔も可愛いなと思いながらも、ついつい視線が彼女の身体を這う。スウェットの生地に胸の先端が僅かに浮き上がっているのを確認すると下半身がずくりと疼いた。
『横いい?』
とベッドに乗り上げてきたので身体をずらしてスペースを作ってやると、八重と向き合うように澪が身体を横たえた。肩口に届くほどの艶やかな髪がさらりと垂れる。漂ってくるのは八重が普段使いしているシャンプーの香り。
(うわ、まじか)
あの羽島さんが自宅にいる。
同じベッドの中に同じシャンプーを使った彼女が横たわって自分を見つめている。
それより過激なことをとっくに済ませているはずなのに、こうなる未来を迎えられると予測していなかったせいか、徐々に現実感が増していく。
『澪』
『ん?』
『……名前で呼んでいいの?』
『えー、今更?』
くすくすと呆れたように笑われてカッと胸が熱くなり、気付けば両腕で彼女の身体を捕らえていた。
『やばい、可愛い、信じられない』
さらさらの髪に頬ずりながら柔らかな身体を抱擁していると腕の中の澪がもぞもぞと身動ぐ。
『八重くん、骨がぶつかって痛いよ』
細身のせいか、肩の骨が顔に当たっていたらしい。良いポジションを探す澪が身体を上にずらしてきたとき、彼女の腰元に宛がっていた掌にふにゃりと優しい感触が訪れた。
『やんっ、ちょっ、揉まないで』
それが澪の尻だと意識したときにはもう指が鷲掴んでいた。スウェットのざらついた生地の上からでもわかる、柔らかく丸い感触。掌で包むように撫でると細かく震える。
『だめだよ、パンツ履いてないから汚れちゃうよ』
『いいよ、汚してよ。興奮する』
あのとろとろの愛液が自分の衣服にいやらしいシミを作るなんて。そんな妄想が一気に下半身に血液を送り、ペニスを硬くさせた。
時刻は午後九時を少し回っていた。本来ならバイトは八時で上がれるはずなのに、店長の古馴染みらしい中年男性が延々と居座り話し続けたせいでこんな時間まで店じまいが出来ずにいた。
音楽仲間の伝手で始めた楽器屋のバイトはそれなりに気楽だが、仲間意識や横の繋がりが強すぎるのもどうかと思う。残業代は出すと言われたし、中年男性からは缶コーヒーを奢られたので大きく文句は言えないけれども。
(飯どうしよう、面倒だな……)
寝室のセミダブルサイズのベッドにポンとノートパソコンを弾ませ、自らもダイブしようとしてはたと止まる。八重に残業を強いた中年男性が煙草を吸っていたことを思い出したからだ。
脱ぎ捨てたままにしてあったスウェットに手早く着替えて今度こそベッドに身を投げる。雑に外した眼鏡を適当に置き、枕に顔を埋めて大きな深呼吸をひとつした。
「あー……澪の匂い……」
数日前、思い掛けずに羽島澪がこの部屋に泊まっていった。八重と二度目のセックスをした後に。
事後の彼女がシャワーを浴びるまでの間しか彼女自身の匂いは触れていないのだから、数日も経てば残り香などないに等しい。
しかし八重には甘い香りが漂ってくるように感じられてならない。
『八重くん、シャワー借りていい?』
全裸でうとうとしかけていた澪がとろんとした目でそんな風に問い掛けてきた。バイト終わりで飲み会に参加し、八重と抱き合ったことで更に汗をかいてしまったのでさっぱりしてから眠りたいらしい。
もちろん承諾した。着替えも借りたいと言うのでなるべく新しめのスウェットの上下をバスタオルと共に渡すと『ありがとう』と小さく笑う。
八重から見た羽島澪という女性は掴み所のない女だった。仲間内の飲み会や遊びの場には比較的顔を出しているが大騒ぎするタイプではなく静かに状況を観察している印象を受けた。
だからと言って大人しいとか暗いわけではなく、笑い話に浮かべる笑顔は可愛いし、友人に向けて綻ばせた表情はめちゃくちゃ可愛い。ついでに言うと飲み会の席で手際よく使用済みの食器を寄せている姿もせっせと食事している姿も大層可愛かった。
そんな笑顔を自分一人に向けられれば心が高鳴っても仕方ないものだが、更に八重を昂らせたのはシャワーを終えた澪の姿だった。痩せ型の八重のスウェットでも彼女には大きかったらしく、手足の先をだぼつかせながらこんなことを言い出した。
『下着の替えがないから手洗いして脱衣所に干させてもらったんだけど大丈夫だった?』
『え、今ノーパン?』
『……食いつくとこ、そこ?』
やや冷めた目が素っ裸のままベッドで感慨に耽っていた八重に注がれる。こんな顔も可愛いなと思いながらも、ついつい視線が彼女の身体を這う。スウェットの生地に胸の先端が僅かに浮き上がっているのを確認すると下半身がずくりと疼いた。
『横いい?』
とベッドに乗り上げてきたので身体をずらしてスペースを作ってやると、八重と向き合うように澪が身体を横たえた。肩口に届くほどの艶やかな髪がさらりと垂れる。漂ってくるのは八重が普段使いしているシャンプーの香り。
(うわ、まじか)
あの羽島さんが自宅にいる。
同じベッドの中に同じシャンプーを使った彼女が横たわって自分を見つめている。
それより過激なことをとっくに済ませているはずなのに、こうなる未来を迎えられると予測していなかったせいか、徐々に現実感が増していく。
『澪』
『ん?』
『……名前で呼んでいいの?』
『えー、今更?』
くすくすと呆れたように笑われてカッと胸が熱くなり、気付けば両腕で彼女の身体を捕らえていた。
『やばい、可愛い、信じられない』
さらさらの髪に頬ずりながら柔らかな身体を抱擁していると腕の中の澪がもぞもぞと身動ぐ。
『八重くん、骨がぶつかって痛いよ』
細身のせいか、肩の骨が顔に当たっていたらしい。良いポジションを探す澪が身体を上にずらしてきたとき、彼女の腰元に宛がっていた掌にふにゃりと優しい感触が訪れた。
『やんっ、ちょっ、揉まないで』
それが澪の尻だと意識したときにはもう指が鷲掴んでいた。スウェットのざらついた生地の上からでもわかる、柔らかく丸い感触。掌で包むように撫でると細かく震える。
『だめだよ、パンツ履いてないから汚れちゃうよ』
『いいよ、汚してよ。興奮する』
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